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物語異能の負け犬男子  作者: 柴犬男
ジキルとハイドと姉と弟
23/38

2話 後

投稿しました。

「おい犬っころ! 」


学校の廊下を鼻歌交じりに歩いていると後ろから誰かに話しかけられた。


「あ、マリアちゃん」

「馴れ馴れしい、先輩だぞ。ちゃんと敬え」

「まりりん」

「余計馴れ馴れしいじゃないか!! 」

「まり」

「略すな! 私の名前はマリアだ!! 」

「マリア」

「そうだ! 『マリア』だ!!・・・・って呼び捨てにするな!! 」

「マリア様」

「お、おい、『様』はやめろ。なんか距離を感じて寂しいぞ」

「母さん」

「お前はキリストか!! 」


僕のボケに一々全力で返しているので肩で息してる。


「珍しいですね、マリアさんが話しかけてくるなんて。自己紹介以来じゃないですか? 」

「う、うるさいな。人見知りなんだ、私は・・・・」


顔を真っ赤にして口を尖らせるマリアちゃんはかなり可愛いと思う。なんか、妹みたいだよね。年上だけど。


「何か失礼な事考えてないか、お前? 」

「適礼な事考えてました。」

「そ、そうか・・・・? 」


よかった、最近かいちょーは心の声を読み始めるからてっきりマリアちゃんにも読まれてしまったのかと思った。


「なぁ、お前最近詩織と仲が良いよな? 」

「え? まぁ」


どうした急に突然過ぎるぞマリアちゃん。


「なんでだ? 」

「なんででしょう? 」

「何か言っていなかったか?? 」

「『陽くん大丈夫? お腹空いてない?? 喉乾いてない?? 最近暑いから水分取って早寝早起きだよ?? あ、膝枕してあげようか?? 』ってよく言われます。」

「ちょっと似ててムカつくな・・・・」


あ、褒められた。やったー。

ふざけた事を口走ろうとした時、


「詩織を、よろしく頼む。」


マリアちゃんに頭を下げられた。


「あいつの目を、覚ましてやってくれ。」


彼女は一方的に伝えたい事だけを伝えていった。

なんて身勝手なんだろう。

普段の僕ならそう思うはずだ。

でも、あれは心配する人の声だ。

僕だって、詩織さんの事はまだわからない事だらけなのに。それなのに、なんでそんな事を頼まれたのかはわからない。僕に何が出来るのかもわからない。


僕は、去っていくマリアちゃんの背中をただ見つめていた。


☆☆☆


『栞:Book Mark』


愛読者が体内に宿す記憶媒体。

髪の生え際〜首の付け根の間に存在しており、愛読者の急所でもある。


異能力の暴走を防ぐ為の制御装置としての役割も担っており、何らかの理由で抜き取ってしまうと周辺神経や体内組織を傷付け始める。


☆☆☆


「陽くん、一緒にお弁当食べましょう? 」


今日も懲りずにやってくる詩織さん。


「え〜、今日は良いです〜」


さすがに毎日一緒にお弁当を食べるとなると周りから「付き合っているんじゃないか? 」とか誤解されそうだしね。


「ハンバーグもあるよ? 」

「何してるんですか詩織さん! 急がないとお昼休みが終わっちゃいますよ!! 事態は一刻を争いますよ!! 」

「あいつ、ハンバーグに釣られてるけど大丈夫かな? 誘拐とかされたりしないよな?? 」


だって好きな食べ物第1位はハンバーグだよ?

行かないわけないよ。


「あ、あ〜、急がなくてもお昼休みはまだあるよ〜」


僕は詩織さんからお弁当を預かり、腕をぐいぐい引っ張りながら屋上へ向かった。


「ハンバーグ美味しい? 」

「でりしゃす」

「ふふっ、よかった♪ 」


まさかのチーズinハンバーグだった。うれちぃ。


「いっぱいあるからたくさん食べてね〜」

「おっかぁにも食べさしてやりてぇ・・・・」

「えーっと、冗談? 本気?? その話は君が言うと本気に聞こえちゃうんだけど・・・・」

「半分本気です」

「そっか・・・・」


失敗したな。

そう思った。

その後しばらく沈黙が続いてしまった。


「食べたら眠くなってきました。おやすみなさい。」

「陽くんってほんと自由ね〜」


いや、気不味いんだもん。


「膝枕してあげようか? 」

「是非」


それじゃあ失礼して・・・・


「うっへ〜い、むっちむちじゃ〜〜」

「あらあら〜」


僕はしばらく太ももを堪能してから少しだけ眠りについた。






☆☆☆





ごめんね、陽くん


私、君を利用してしまっている。


私ね、本当は妹ともっとたくさん姉妹みたいな事してみたかったんだ。


でも、出来なかった。


あの娘の辛さも、全然理解してあげられなかった。


難しいね、姉妹って。


ずっと一緒に、いたのにね。


・・・・。


あ、そうそう。


私ね、初めて陽くんを見た時思ったんだ。


「この子の目は妹が自殺する直前の目に似ている」


怖かった。


助けなきゃって思った。


この子は、一人にしちゃダメだって思った。


今でも心配なんだ、君もいつか、どこか遠くへ行ってしまいそうで。


知らず知らずに、妹と重ねて見てしまっていたみたい。


君は、私の家族じゃないのにね。


妹にしてあげたかった事。


妹としたかった事。


全部君にしてしまうんだ。


ごめんね?


君は、君なのにね。


私、君に何かしてあげたいんだ。


君が、ほっとけないんだ。


もう二度と、失いたくないんだ。


だから、お願い


もう少しだけこのままで・・・・





☆☆☆





どうすればいいのだろう。


寝たフリをしていた事。

詩織さんの独り言を聞いてしまった事。

彼女が自分に対して思っている事。

僕が、彼女に出来る事。


たくさん考えた。

でも、わからない。


何が正解なんだろう?


彼女が間違っていたとも思えない。


でも、過去は変えられない。


どうすれば彼女は救われるんだろう?


マリアさんの言っていた意味が、ようやくわかった。


それと同時に、僕に解決出来る問題じゃない事も、嫌という程理解出来た。


「陽くん、そろそろお昼休みも終わるよ? そろそろ起きて?? 」


詩織さんが耳元で囁く。


僕は寝惚けたフリをしてゆっくりと立ち上がる。


本当に寝たフリしてるのは、一体どちらなのだろう。

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