4話 前
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涙を流し、しばらくすると、自分がとても恥ずかしい事をしていたと思った。
あぁ、何を言ってたんだろう。
出会って2、3日しか経たない相手とキスをした。抱き締められた。涙を見せた。
なんでこんなタイミングで正常な思考に戻るんだ。
恥ずかしい。
いや、正常な思考で起こした行動だったのだ。
それが余計に恥ずかしい。
会長だって、顔を真っ赤にしている。
申し訳ない事をした。謝らないと・・・・
「じぃ〜〜〜〜・・・・」
視線を感じ振り向くと、むすっとした顔で風香ちゃんが見つめていた。
「え、えっと、風香ちゃんいつからそこに? 」
「『いつから? 』じゃないよ! 気付いたら2人共良い感じの雰囲気になってるし!! キスまでしちゃってるし!! 」
ぜ、全部見られとる!!
「まぁまぁ風香ちゃん、落ち着いて」
「うるさいどろぼうねこ! これが落ち着いていられるか!! 」
会長がなだめるが風香ちゃんの怒りは収まらない。
「せっかく助けてあげたのに・・・・こんなの酷いよ」
あぁ、拗ねちゃった。
仕方ないな。
「ありがとね、風香ちゃん」
そっと、風香ちゃんの頭を撫でる。
風香ちゃんは一瞬驚いたような顔をして、すぐにニコッと微笑んだ。
「うん! 許してあげる!! 」
へへっ、ちょろいな。
「それじゃあわたしも撫でてもらおうかな? 」
「会長さんは自重してっ! 」
なんだかんだ言って仲良いよな、この2人も
☆☆☆
「で、どうするの? 」
会長の一言でぐだっとした空気がガラッと変わる。
「『アリス』ちゃんを、倒すの?」
「無理です。」
僕が即答する。
「どうして?」
「戦えないんです、僕には」
「それは、異能が使えないから?」
会長が尋ねる。
当然の質問だと思う。
でも、そうじゃない。
「怖いんです。何度決意しても、どんなに準備して挑んでも、心を揺さぶられる。『アリス』は、僕を【お兄ちゃん】って呼ぶんです。その言葉を聞くたびに、妹を思い出します。顔も、名前も思い出せないのに。『アリス』を殺す事が、妹を殺す事のように思う。怖いんです。僕の家族を殺した、あいつを、僕は家族として、兄としての愛情を感じている。どうしても、後一歩が踏み出せないんです」
僕は、何度も『アリス』に挑んだ。風香ちゃんの力を借りて。
後一歩の所まで追い詰める事は出来る。
それなのに、トドメを刺せない。
きっと、僕の身体を書き換えたからなんだと思う。
僕の身体を蝕む『アリスの狂気』が、『アリス』を殺す事を拒む。
「だから、僕にはあいつを殺せません。」
会長は、顎に手を当てて考え事をしていた。聞けよ。
「ねぇ、会長? 聞いてました?? 僕の話。あれかな? もしかしていつも聞いてなかったから話が噛み合わなかったのかな? 」
さすがに泣くぞ。
「ねぇ、」
考え事が終わったのか、口を開く。
「なんで『殺す』前提なの?」
☆☆☆
【退屈だわ】
『アリス』がつぶやく。
【お兄ちゃん、早く帰って来ないかな。】
『アリス』が生まれた時、まず初めに感じた物は【退屈】だった。
「人間とはどうしてこんなにも退屈なのだろう?」
『アリス』は、こんな生活に嫌気がさしていた。
そんな『アリス』にも、唯一「楽しい」と感じる時間が出来た。
【お兄ちゃん、おかえりなさい!! 】
『アリス』は、兄の事が大好きだった。
いつも自分と遊んでくれて、いつも自分を第一に考えてくれて、いつだって『アリス』は兄の後ろをぴょこぴょことついて回った。
「こんな幸せが、一生続けば良いのに」
『アリス』は、いつも兄の帰りをウキウキしながら待っていた。
ある日、『アリス』は兄の部屋に入ってみる事にした。「部屋には入るな」と、いつもなら兄に叱られてしまう。しかし、今日は兄が出かけているのだ。「少しぐらい許されるだろう」。そう思っていた。
兄の部屋は、年齢の割にこざっぱりしていた。
正直期待外れだった。
【お兄ちゃん、こんな退屈な部屋に住んでいるのね。】
ぶつぶつと文句を言いながらも、『アリス』は部屋の探索を始める。
『アリス』が本棚を漁っていると、一枚の写真を見つけた。
【お兄ちゃん、と、女の子? 】
そこには、大好きな兄とショートカットの女の子が写っていた。
『アリス』は、なんだか心がモヤモヤとしていた。
「この女は誰だ? 」
しばらく写真を眺めていると、母が部屋に入ってきた。
「⚫︎⚫︎ちゃん、どうしたの? 」
母が問いかける。
【ねぇ、お母さん、この女の人はだぁれ? 】
『アリス』が質問する。
「あぁ、この子はね、ーーーー」
聞かなければ良かった。
部屋に入らなければ良かった。
後悔がぐるぐる心を揺り動かす。
【お兄ちゃん】
素敵ね。
【お兄ちゃん】
綺麗ね。
【お兄ちゃん】
この世界は、残酷なのね。
☆☆☆
「なんで、『殺す』前提なの? 」
会長の言葉に、耳を疑った。
「『殺す』以外の、方法があるとでも? 」
そんな事、考えた事が無かった。
「いっぱいあるじゃん、話し合いとか、拳でわかりあうとか」
そうだ、なぜ思いつかなかったのだろう?
そんな方法、考えればいくらでも思い付く。
「無理だ」
口が勝手に動く。
「あいつは殺さなければならない」
「どうして? 」
「あいつはたくさんのモノを殺した。」
「それだけ? 」
「僕はあいつが許せない」
そうだ。許せない。
僕の家族を、妹を、殺したあいつが許せない。
「ねぇ、自分が矛盾してる事に気付いてる?」
会長が問いかけてくる。
「矛盾、ですか? 」
「そうだよ。君の言葉は全部おかしかった。全部矛盾してた。君は『アリスを殺したい』。でも、さっきまでの君の話は、まるで『アリスを救いたい』って願っているかのようだった。」
「僕はーーーー」
「君は今混乱してる。混濁してる。『アリス』が作った君が、君の思考を邪魔してる。そんな君の意見を通せば、わたしは絶対に後悔する。だから、ーーーー」
会長が立ち上がり、グイッと伸びをする。
「わたしのやりたいようにやるよ」
そう言った会長に、僕は苦笑してしまった。
「ほんと、自由な人ですね」
「わたしの大好きな人が最後に残した言葉だからね。『もっと自由に生きて? 』って。」
「僕そいつとはきっと意見が合わないですね」
「あはは、そうかな? 」
僕も立ち上がり、話の途中で寝ていた風香を起こす。
「んぁ? 話終わった?? 作戦は?? 」
「「無いよ」」
「あ、そうですか」
さぁ、読み返そう。
そして、始めよう。
このくだらない物語を。
負け犬なりの解釈で。
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