第一章 5
※注意※
この章では差別的な表現があります。しかし、決して現実に当てはめて考えないようお願いします。これは創作であって、何かを訴えたいわけでも差別したいわけでもございません。あらかじめご了承の上でお読みください。
十年後。
幼い頃の苦い思い出を夢で見ていたノイドは、武器庫で目が覚めた。
あれから目指していた華々しい騎士街道など全く歩めず、四年間騎士を務めてもまだ平騎士。
それどころか仕事を押し付けられ、パシられる毎日。
そんな時に、守護騎士から降格され、窓際部隊と揶揄される『第十二軍』に左遷されたルテナが『首都勤務の墓守』として戻って来る。
5
ネオとクロムは真っ直ぐ伸びる街道を足取り重く歩いていた。
どこの領地でも同じだが、特別墓地は町から離れた場所に設置されている。
首都も例に漏れず、東西南北に伸びる街道のうちの一本、特定の者しか使わない北門から真っ直ぐ行ったところにある。
クロムがため息を混じらせ肩越しに振り返ると、堅牢な外壁と門が僅かに見えた。
「あの門番の顔、見たかよ。可哀そうな奴見る目だったぜ? 最悪……」
「それ以上言うな。一応聞いて来たが墓守隊の生存率は半々らしい。少し気を引き締めた方がいいかもしれん」
「おいおい」
ネオの言動にクロムが余裕の顔で鼻を鳴らした。
「俺達はラルフさんの教えを受けたんだぜ? 死体相手に遅れなんざとらねぇよ」
「……そうだな。ところで、大人しく従った理由を話してくれるんじゃなかったのか。あの後、酒を飲むだけで黙ってたし……」
「ああ、悪かったって。あんな酒場で話せなかったんだ」
クロムは思い返すように視線を少し上げる。空は青く澄み渡っていて、白い雲も穏やかに流れていた。
「あの女と初めて会ったのは俺が十一の時だ。入学して一年経つ頃に、マグネスの婚約者の家が不正を働いて税金を横領していたことが発覚してよ。それで、婚約者とも婚約破棄した時だったぜ」
「……ああ、あったな、そんなこと」
クロムの説明にネオも思い出したが、すでに過ぎた話しだし、その婚約者の家系は既に降格の上に、一家断絶して所在も分からないから深堀はしない。
知りたいのは、どんな高位の立場の者にも物怖じしないクロムが大人しく従っている理由だ。
「どういう出会い方だったんだ?」
「マグネスとアーセニックと一緒に、貴族の狩りに参加した時に会ったんだ」
「狩り?」
「そう。正確には、狩りが終わった後に出会ったんだけどよ」
思い返したクロムが遠い目をする。
その当時、クロムは嫌々ながらマグネスとは友人ということもあり、親も二人の王子と親睦を深めて来いと言いつけられ、狩りに参加していた。
場所は首都から出て北に少し進んだ森の中だ。ここは王族の私有地で、狩猟などに使用されている場所であり、一般人が侵入すれば逮捕されるので、彼らには安全な場所だ。
しかしもう夕方で、狩りの成果は、なかった。
「あーあ、ダリィ……」
帰り支度を眺めながら、特注で作らせたらしい新しい皮鎧を着て、使わなかった弓の弦を軽く弾きながらクロムが小さく呟くと、隣にいた少年が失笑する。
歳は十一歳。短く切ったプラチナブロンドの髪は色素が薄すぎて白くも見える。澄み切った青い瞳が印象的な美少年で、彼は第二王子で王位継承権第二位にしてアルミナの兄、マグネス・フォン・アルマンディンだ。
彼も薄茶色の皮鎧を着て、弓を手にしていたが、こだわった細かい装飾が入っていて、クロムの物より上質だと分かる。
「今日は俺のためにすまなかったな」
マグネスが謝ると、クロムも嘆息する。
「いいって。お前に愚痴ってるわけじゃねーし、むしろ愚痴を聞くために来たようなもんだし」
ぶっきらぼうに返すと、反対の隣にいた少年も頷く。
「そうだぞ。いい気晴らしにはなっただろう。またやろう」
歳は十三歳。顔立ちは少しマグネスに似ているが、艶のある黒い髪を後ろできつく結び、思慮深そうな光を讃える青い瞳をしている。まだ十四ながらキリッとした隙のない佇まいをしていて、騎士の勉学が順調なのだと分かる。
マグネスの兄であり、王位継承権第一位の王太子アーセニック・フォン・アルマンディンだ。
彼もマグネスと同じ意匠かつ、色違いの焦げ茶色の皮鎧を着ていた。
三人の傍には狩猟とはかけ離れた白い団服に身を包んだ少年が二人立っている。
一人は背が高く、団服の上からでも分かる筋肉質で浅黒い肌に切れ長の黒い瞳、黒い髪を短く刈り込んだ少年で、アーセニックの守護騎士レヒト・フォン・クローリン。
もう一人はレヒトと一緒に並んでいる所為で身長が低く見え、やせ型ではあるが、しっかりと背筋も伸びて隙が無い。頬から鼻にかけてそばかすが目立つ、マグネスの守護騎士ディック・フォン・クリプトンだ。
クロムは狩猟はわりと好きなので、結構知識はある。
(今日は多すぎだっつーの。単なる遊びだったな)
本気で行くなら少人数でやるべきだろう。それなのに、今回は子供が五人もいて、主催した貴族と大人の護衛が四人。これだけで十人もいる。しかも子供五人が乗って来た大きな四頭立ての馬車に二人の護衛が御者役をし、貴族と残りの二人は軍馬で同行し、大きく立派な馬が三頭もいるのだから、野生動物なんてすぐに逃げてしまう。
(もう愚痴聞くだけの集まりだったな。ま、しゃーないか)
クロムが嘆息する。現に、森に入ってからは、城では話せない、マグネスの婚約者候補たちの愚痴を本当にひたすら聞いていた。
拒否してるのに、見合いの手紙が止まらない。謁見の依頼が山のよう。しまいには三十歳以上も年の離れた女性まで紹介しようとする。
学校に行くたびに、女子達の好意の眼差しと、積極的な女子の告白。学校側も心配して、しばらく休学になった、などなど。
もう女性を見るのも嫌だ。それがマグネスの総合的な愚痴だった。
女性不信になってもおかしくない状況だ。
あまりに酷くて同情してしまう。こんな狩りでもしないと確かにストレスだ。
クロムが空をちらりと見ると、太陽が大分傾いているのが見えた。あと一時間もすれば、森の中へと沈んでしまいそうだ。
そんな中、主催者が近寄って来た。
「よぉ、ガキ共、今日は羽目が外せたか?」
金髪の髪を後ろに撫でつけ、顎髭を整え、つや消しされた黒い皮鎧を着こんで黒い弓矢を持った男性だ。彼はグロッシュラー公爵ガリウス・フォン・エクストレームだ。
マグネスはガリウスへ向かって微笑む。
「はい、ガリウスおじ様」
『おじ様』と呼んだが、実際には伯父ではなく、従兄弟にあたる。彼はローレンスの四人の姉のうち、長女の子。六人姉弟のローレンスは、それぞれがかなり年齢が離れている所為もあって、ガリウスはすでに三十代半ばなのだ。だからローレンスの子供達は彼を『おじ様』と呼んでいた。
ガリウスはマグネスの表情を見てうんうんと頷く。
「やっぱり悩んでいる時に城にこもりっきりじゃストレス溜まるしな。貴族共も娘を次の婚約者にしようと躍起で息が詰まるだろ。良い気晴らしになってよかった」
「……お気遣いありがとうございました」
「子供が気にするな。あれはさすがに俺でも滅入る」
嘆息するガリウスの後ろから、護衛の騎士達が声をかける。
「馬車の準備が整いました」
「おう。じゃあ、帰るか」
ガリウスに促され、子供達で馬車に乗った時だった。
扉を閉めた途端、外がにわかに騒がしくなった。
「なんだ?」
気付いたアーセニックが扉に備え付けられた窓を覗き込んだ刹那、勢いよく扉が開かれ、男が乗り込んで来た。
汚れた鎧を着こんだ男で、彼は素早く守護騎士の二人の胸倉を掴んで外へ放り出した。
「ちょ……!」
「うわ!?」
不意打ちで何も出来なかったレヒトとディックが声を上げる。外の音を聞いた感じ、御者台からも騎士達が降ろされ、後ろの見張りも引き下ろされた様子だ。
その時、クロムは確かにガリウスの声を聞いた。
「――……ルゥ! こっちは任せろ! 蹴散らせ!」
何を言っているのか分からないが、男が素早く扉を閉めると同時に馬車が動き出した。
あっという間に馬車は全速力で走り始め、扉と逆側に設置された小さな窓から見える木々が物凄い勢いで通り過ぎている。
そして中に入って来た男は、ナイフを三人にちらつかせる。
「動くなよ、王子様達」
年長のアーセニックが二人を庇うように腕で押さえて睨む。
クロムも息を呑んで男を見ていた。汚れや傷だらけの鎧に安っぽいナイフ。どうやら耳にしている盗賊というやつらしいが、こんな首都の近郊にも出るとは思わなかった。
しかし、クロムの予想はアーセニックに覆された。
「私達を王子様と言ったということは、我々の立場を分かった上で誘拐したのか。誰に雇われた? 盗賊の真似事までして用意周到だな」
「……はは、さすが未来の国王陛下は大した観察眼だ」
男がにやりと口の端を吊り上げた。
「御明察。とある方に雇われた殺し屋さ。おまけがついて来ちまったが、守護騎士を降ろすのが優先だったし仕方ねぇ。あんたらはな、いるだけで邪魔だと思ってる方が大勢いるんだ。悪く思うなよ。護衛を撒いたらあんたらには、死んで……」
どんどんどん!
男がすらすらと話していると、後方から天井を激しく叩く音がした。続けて後ろに立っているらしき男の声がくぐもって響く。
「おい、大変だ! 何か来るぞ!」
「は? おい、ちゃんと報告しろ!」
「あれは……こ、子供だ。子供が……走って来てる! 追って来てるぞ!」
「……は?」
外からの狼狽した声に男が疑問の声を上げた。
当然だ。クロムですら耳を疑った。四頭の馬が全速力で走らせる馬車に、子供が追い付いて来てるなんてあり得ない。
追いつけるとしたら【加速】能力だろうが、それでもおかしな話だとクロムでも分かる。
通常の【加速】能力者は短距離が得意で長距離は苦手だ。馬と並走できる者はいたとしても、一瞬だけで持久力がない。理由は人の体が【加速】の負担に耐えられないことと、魔力の燃費も非常に悪いからだ。能力使用中は常に魔力を消費するため、あっという間に空になって四頭立ての馬車の全力疾走に、追い付けるはずがない。
しかし後ろから焦燥の声がした。
「おい、おいおい、嘘だろ……く、来るんじゃね、ぎゃ!?」
肉を斬る生々しい音と、男の短い悲鳴が聞こえた。その一拍後に、屋根から音がした。
ごん、ごんごんごん。
何かが歩くような音だが、妙に硬い音がしている。
この時は分かりようがなかったが、靴に鉄の板を仕込んでいるから硬い音がしていたのだ。
まさかとは思うが、さっきの言葉を信じるなら、子供が走って来て後ろの男を倒し、馬車の屋根に乗った。……としか思えなかった。
男も同じことを思ったのか、剣のガイストを生成し、上の音を慎重に確認する。
「そこだ!」
小さな音を聞き留めて剣を突き上げる。
三人共刺されてしまったかと息を呑んだ次の瞬間。
ドガシャアァァァァ!
扉とは反対側の窓を蹴り破って、小さな影が跳び込んだ。
硝子が飛び散り、鋭い蹴りが男の横っ面に命中する。加速中だったようで、勢いが凄まじく、扉を破壊して男が外へと吹っ飛び、一瞬で流れて見えなくなった。
天井を刺したと同時に、横の装飾品に手を掛けて遠心力で窓へ蹴りを入れた、というところなのだろう。
男と入れ違う形で入って来たのは、真っ黒な衣装に身を包んだ子供だった。黒いフード付きのコートに、黒いズボン、黒い手袋。背中には黒い弓と矢筒を装備している。そして何より、三人を驚愕させたのは、十歳前後で、しかも女の子ということだった。
肩にかかる程度の長さの柔らかそうな茶色い髪を後ろできつく結び、翡翠色の瞳もぱっちりしていて、女らしい愛らしさがある。
しかし今はその愛らしさよりも鋭い眼光も相まって小さな戦士としか思えなかった。
彼女は両手を開けるためなのかナイフを口に咥えていたが、そのナイフを手に持ち直すと、三人へ鋭く言い放つ。
「そこから動かないで」
言い終えるや否や、扉が無くなった方からするりと流れるような動作で外の装飾品を伝って御者台へと移動してしまう。
前から声と一緒に音がする。
「うわ! なんだ、貴様……!」「ぐあ!」
刃がぶつかる金属音。打撃音。肉を切る鈍い音。噴水のような飛沫音。呻く声。
そして無くなった扉から見える景色に、御者台から落とされ、首筋から血の尾を引く男の姿が一瞬だけ見えて流れていく。逆側からも落とされたらしき音だけがした。
呼吸を五回ほど数えていると、馬車の速度がゆっくりと落ちていくのが体感で分かり、しばらくして完全に停車した。
三人共緊張を切らずに固まっていると、御者台の方からまた少女が現れ、中へひょいと顔を覗かせた。その顔にはさっきまで無かった返り血が頬に付着している。あっという間の出来事でよく観察出来ていなかったが、翡翠色の瞳は硝子玉のようで、まるで殺しても何も思っていないような無機質な雰囲気が漂っていた。
そんな目を見たことが無かったクロムも唾を飲み込んでしまう。
少女は三人へ問いかける。
「怪我は?」
「き、君……味方でいいんだよな?」
「怪我は?」
アーセニックの詰問を無視してもう一度聞かれ、三人して首を横に振った。
彼女は緊張したままの三人を見て、一拍置いて袖で頬についた血を拭ってから、微笑を浮かべた。この時になると、無機質さが無くなっている。
「あたしはガリウス様の護衛をしているルテナと申します。今回は殿下達の護衛を仰せつかっております。マグネス殿下が女性に対して嫌になっていると聞きましたので隠れていましたが、緊急事態のため姿を見せました」
「そうだったのか……」
「ガリウス様がもうじき来ますので、そのまま待っててください」
それだけ言うと、ルテナが首を引っ込める。しかし、破壊された扉の前にはいるようで、黒服の背中が見えた。護衛のつもりか、敵がいないか見張っているらしい。
すると、彼女が微かに動いた。
コートの腰辺りを探って小瓶を取り出した。どうやらポーチを付けていたらしく、その小瓶の中身を一気に煽ってしばらく呼吸を整えている音が微かにする。
マグネスは僅かに見えているその様子に何か察した。
「ポーションか? 大丈夫か? 怪我をしたのか?」
ポーションは、国が研究の末に作り出した秘薬だ。傷や体力、魔力など、体に関わる回復薬として知られているが、かなり高価だ。
話しづらい雰囲気でもお構いなしのマグネスに、ルテナが軽く仰け反るようにして首を巡らせた。
「魔力が切れただけですので気にしないでください」
「魔力……その、追い付けたということは、【加速】能力かい?」
「その通りです」
「あの速度を追い付くなんてとんでもない魔力量じゃないか?」
アーセニックも気になって声を上げると、ルテナは首を傾げる。
「いえ、一般人とそんなに変わらない量と聞きましたよ。体を鍛えて、魔力の消費と能力の使い方を工夫してるので長距離も走れます」
「へ、へぇ」
彼が口を引き攣らせる。クロムは後で聞いたが、大人でもやれるか分からないような事をしていたらしい。無茶な事を平然と話す者は何人か見たことがあるらしく、『あれは天才の反応だ』とアーセニックは言っていた。
するとマグネスがさらに質問する。
「……あの、もう一ついいか?」
「なんでしょうか」
「俺を見ても何も思わないのか?」
「はい?」
ルテナの疑問の声に、クロムも同じく肩から力が抜けてしまった。傍のアーセニックも失笑を堪えているのが気配で分かる。
言い方がおかしい。完全に自意識過剰なのだが、それも仕方ない。婚約破棄の後に、女性なら誰もが愛想を振りまいて寄って来ているのだ。これだけ気にも留めないのはむしろ気になってしまったのだろう。
ルテナはマグネスを横目で見て、外へと視線を逸らし、それからまた視線を戻す。
「お話は聞いてます、マグネス殿下。あたしは平民ですし、出過ぎた真似はしませんし、何も思ってませんよ。好きな人がいますので……今思っている事と言えば、これ以上敵が来ないでほしいぐらいです」
「そ、そうか」
護衛としての重責を優先させた態度にマグネスが狼狽していると、遠くからけたたましい蹄の音が近づいてくるのが聞こえ、馬のいななきと共に止まる。
気付いたルテナが馬車から離れ、姿が見えなくなると、入れ替わるように焦燥したガリウスが壊れた扉から現れた。
「お前ら無事か!?」
「お、おじ様……」
アーセニックがようやく肩から力を抜くと、三人が負傷していない事を目視で確認したガリウスも長い息を吐きだし、力なくその場にへなへなとしゃがみ込んだ。
「よ、よかった……今回はマジで焦った……」
本気の安堵も当然だった。
何せ、国で最も尊い命。王位継承権一位と二位なのだ。決して何かあってはならない立場が誘拐されかけ、殺されかけたのだから、大騒ぎどころじゃなかった。
クロムも巻き込まれただけだが、内心では心臓が全力疾走していて、今も痛いぐらいだ。あっという間過ぎて、戦う選択肢すら考えられなかった。
大人を見てやっと緊張から解放されると同時に、深い屈辱感に苛まれる。
(な、情けねぇ……)
騎士としての鍛錬や教育を受けて一年が経つのに、この体たらく。
しかし狭い密室空間で武器を向けられた時の対処も、落ち着いた今でも思い浮かばない。もっと勉強と訓練が必要ということか。
ガリウスがすぐに立ち上がると、背後を見る。
「ルゥ、他に馬鹿共がいないか確認してこい」
「御意」
抑揚のないルテナの声が短く聞こえ、コツコツと足音が遠ざかって行く。
さらに馬蹄の音が聞こえて来ると、ガリウスに促されて馬車をひとまず降りる。
「「殿下!」」
護衛の馬に同乗させてもらったようで、守護騎士の少年達は真っ先にそれぞれの主君へ駆け寄って来た。その目は真っ赤に腫らしている。
それを見て、クロムの屈辱感が引っ込んだ。
一番屈辱的な事をされたのはあの二人だ。守るべき主君から一瞬で引き離され、何も出来なかったのだから。
怪我の有無を改めて確認されて護衛達も一息つくと、アーセニックがガリウスに詰問する。
「あの、さっきの女の子……ルテナと言ってましたが、おじ様の護衛と聞きましたが本当ですか?」
「ああ。本当だぞ。俺の専属護衛をさせてる腕利きだ」
「マグネスを気遣って隠れてたとか……ずっといたんですか?」
「おう、すぐ傍にずっといたぞ。気付かなかっただろう? 良い腕してるから、敵だった奴が惚れ込んで部下になったりもしてるんだ、見てて飽きないぞ」
ガリウスが自慢げに説明し、全く気付かなかった三人はさらに困惑して顔を見合わせるのだった。
クロムの話を聞き終えたネオが苦々しい顔をする。
「それはまた、強烈な出会い方したな……」
「爆走してる馬車に追いつく【加速】能力者って初めてだったぞ。それにあっという間だったし、直に見てねぇけどよ、四人の殺し屋相手に圧倒して殺してんだぜ。しかも年下で女がだ。ヤベェぞ、あいつ。何の罪悪感も躊躇いもないって感じの淡々とした人形みてぇなあの顔。今でも目に焼き付いてる」
「そりゃ黙って従うな……。それで、その事件はどうなったんだ? 連中を雇った奴とか、何か分かったのか?」
「いや、それが全然。ガキだったからそれほど詳細な事は教えて貰えなかったけどよ、どうも首謀者は未だに捕まってないらしいぜ」
クロムが口を尖らせ、あの後の事も語り出す。
「それでな、二度目に会ったのは王城だった。俺はともかく、二人の王子の窮地を救ったんだぜ? 陛下の耳にも入ってガリウス卿と一緒に謁見してるのを三人で並んで見ることになったんだ」
「ふむ。当然の流れだな」
「で、そん時に九歳でアルミナと同い年だって分かって陛下も気に入ってな。その場でアルミナの守護騎士になってほしいって陛下から誘われたんだ」
「――そうなのか? そんな特例とは聞いていないが……」
物凄い異例な上に誉れなことにネオが驚くと、クロムはとんでもない事を言った。
「ああ、それについては、その場で断りやがったぞ」
「は?」
あまりにも不敬な行動に、ネオも絶句してしまうが、クロムの次の一言で納得した。
「『選抜試験もせずに決まったら他の特待生達のチャンスを奪うことになる』だとさ」
「あ。……ああ、そうだな……確かに」
王族と同い年かつ、貴族からの推薦で実現できる人生で一回きりのチャンス。いきなり出て来て推薦もされていない平民が選ばれたなんて、推薦を勝ち取った同世代たちは納得できないだろう。
「だが結局選ばれたんだな」
「おう。そういう理由ならってことで『本気で忖度なしでの選抜試験をする』ってことで、やっと納得させて、ガリウス卿が推薦して、選抜試験受けたらしいぜ。……まぁ、あとは知っての通りだ。選ばれたの聞いた時は『そりゃそうだ』って思ったぞ」
「うむ。さっきの聞くと、私も思うな」
貴族の一部しか知らないような話にネオも首肯し、前方を見て声を上げる。
「む。見えて来たな。あれじゃないか?」
彼に促されてクロムが前方を見ると、確かに目的地が見えて来ていた。
一日ずれてしまいました。申し訳ありません。
これにて第一章は終了となります。
正直いうと、物語的には何も進んでません。完全にキャラ紹介。
それからだんだんと『ルテナのおかしな点』が見えて来た回かと思います。
次からは種族が抱える問題の説明を織り込みながら話が進んでいきます。このため墓守隊の方が話が多くなっております。もう少しキャラも出てきますので、ごちゃごちゃするかもしれません……。




