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第一章 3

※注意※

この章では差別的な表現があります。しかし、決して現実に当てはめて考えないようお願いします。これは創作であって、何かを訴えたいわけでも差別したいわけでもございません。あらかじめご了承の上でお読みください。


十年後。

幼い頃の苦い思い出を夢で見ていたノイドは、武器庫で目が覚めた。

あれから目指していた華々しい騎士街道など全く歩めず、四年間騎士を務めてもまだ平騎士。

それどころか仕事を押し付けられ、パシられる毎日。

そんな時に、守護騎士から降格され、窓際部隊と揶揄される『第十二軍』に左遷されたルテナが『首都勤務の墓守』として戻って来る。

       3


 本部を出て、正面に見える目抜き通りから、さらに入り組んだ細道にその酒場はあった。

 道順(みちじゅん)を覚えようと地図を確かめながら着いて来たルテナは渋面になっている。

「いやぁ、また新しく道が出来てるじゃないですか。お店も、大分閉店と新店がありますし、ここも穴場って感じのところですね」

「そうね。一年いないだけでコロコロ変わっちゃうのもおかしいわよねぇ。全部覚えてるのなんて、『案内屋(あんないや)』とかあなたと同じ管轄(かんかつ)の『運(はこ)び屋(や)』ぐらいじゃないかしら」

「また覚え直しですか……」

 ルテナが諦めたように失笑する。

 案内屋とは、首都が迷路だから行きたい場所まで道案内してくれる首都だけの職業だ。赤い帽子を被っていて、どこにでもいるからすぐ分かる。代金が必要だが、数時間迷うよりは近道まで熟知(じゅくち)している彼らに案内してもらう方がマシなのである。

 マメ知識を手に入れたルテナが首肯すると、アルミナが怪訝(けげん)な顔で首を傾げる。

「あら、覚え直すの? 墓地に籠(こも)りっぱなしになるのに?」

「子供のころからの癖ですね。故郷に居る時も森の地形や場所の把握は欠かしませんでしたし、それに誰かさんの護衛でますます癖がつきましたし」

 敬語ではあるが、王族に対して平気で苦言を呈す。

 奔放(ほんぽう)で城下町散策が趣味のアルミナに付き合うために、ルテナは案内屋顔負けに道や店を覚えているのだ。

 アルミナは彼女の不敬(ふけい)も咎(とが)めずに、ツンとそっぽを向いた。

「私について来れない護衛なんてこっちから願い下げだったわ。だったら私が気に入ってる店も全部頭に入ってるわよねぇ? 久々に喫茶店巡り、付き合って貰おうかしら?」

「それは〝ライヘ〟の機嫌次第ですねぇ」

「墓守(はかもり)って大変よね……」

 ルテナの発言に墓守の仕事を再認識したアルミナが肩を落とすと、店へと入って行く。その後に続くと、昼間から酒を飲んでいる客達が怪訝な顔で二人を一瞥(いちべつ)し、再び我関せずと食事や会話に戻っている。

 ほどよい喧騒(けんそう)の中、アルミナが店内を見回し、奥のテーブルに目を止めた。

「あ、一人いたわ」

「お。どこです?」

 ルテナが視線を辿ると、確かに白い制服姿の青年が酒を飲んでいた。

「おや、ビルンバウムさん?」

「そうよ。もう知ってるだろうけど、一応補足で教えとくわね」

 前置きをしたアルミナが嘆息した。

「クロム・フォン・ビルンバウム。マグネス兄さんと同級生だったビルンバウム男爵家の次男。私とマグネス兄さんの幼馴染みよ。兄さんと同い年だから子供の少ない城で退屈(たいくつ)しないようにって、よく連れて来られてたし、舞踏会とかにも出てるから、ルゥとも何度も会ってるわよね」

「最初の出会いは舞踏会ではなく、王子殿下達の狩猟中の襲撃事件でしたよ」

「え……? ああ! あの事件で一緒にいたんだっけ。じゃあ、対面は最悪だったわけね」

 何を言っているのかすぐに把握したアルミナに、ルテナは遠巻きの青年を見て失笑する。

「失礼ですが、随分(ずいぶん)とやさぐれましたねぇ」

「そうなのよぉー。学校じゃ先輩だったけど、今じゃ私の方が階級は上だしね。札(ふだ)付きの悪(わる)って感じになっちゃってさ」

 アルミナが述懐(じゅっかい)しながら顔を顰(しか)めた。

「あの頃から素行(そこう)の悪さはあったけど。今じゃホントに不良よ。強いんだけどすぐ手が出るし、口も悪いし……全く、もう少し自分の立場を考えればいいのに」

「なるほど、なるほど」

 説明と愚痴(ぐち)を織り交ぜるアルミナの脇を通り、ルテナが青年へ近づくと、テーブル付近で彼が振り返った。

 歳はマグネス、そしてノイドと元同級生なのだから二十歳だ。

 程良く焼けた健康そうな肌で、あまり手入れをしてないのか黒髪は肩口辺りで外側へと跳ね回っており、前髪の下で揺れる切れ長の紺色の瞳は野生の獣のような眼光だ。スッと通った鼻筋や薄い唇など、顔全体の均整がとれてはいるが、殺気すら感じそうな雰囲気(ふんいき)が近寄りがたい印象を先立(さきだ)たせている。

 体型も無駄なく引き締まっているが、制服の前ボタンを全て外してだらしない格好で、腰にはベルトの他にも銀のチェーンアクセサリをジャラジャラと付けていた。

 一瞥というより睥睨(へいげい)に近い、ぎらついた眼光がルテナを射抜き、上から下まで見た後、嘲笑(あざわら)うように口の端(はし)を吊り上げる。

「誰かと思えば、左遷(させん)された元守護騎士様じゃねェか」

「同じ服を着たくないなら、目立つ行動は控(ひか)えた方が良いと思いますよ。ビルンバウムさん?」

 ルテナが皮肉を返して彼の正面へ回る。向かい側の席には誰かいたのか飲みかけの酒が置いてあった。

「お互い顔見知りではありますが、改めて自己紹介しましょう。本日付けでこの都市の特別(とくべつ)墓地(ぼち)を任されました。隊長のルテナ・シックザールと申します」

「へぇ、隊長? 左遷されても返り咲くために王族に媚(こ)びでも売ったのか? 不正も良い所じゃねェの? さすが、俺らより悪は違うってか?」

「ちょっとバカクロム、失礼にも程があるわよ。相手が名乗ったんだから名乗りなさいよ。礼儀も忘れた?」

 続けてやってきたアルミナがクロムの後ろに立ち、後頭部を軽く叩く。

 気付いていたのか、クロムは何か酸っぱい物でも含んだような顔で呟いた。

「第一軍所属、クロムだ」

「どうも。……話をする前に、もう一人いるとお聞きしましたが」

「私の事かな」

 不意に掛けられた低い落ち着いた男性の声に、ルテナが一瞥する。

 歳は二十代前半ほど。

 銀に近いような金髪は耳に掛る程度に整えられ、切れ長の水色の瞳は理性的な光を宿している。さらに長身(ちょうしん)痩躯(そうく)な上に、顔立ちも細面(ほそおもて)で女性と見紛(みまが)うほどの美貌の持ち主で、クロムとは違いきっちりと制服を着こみ、貴公子然としていた。

 粗野で野性的な燃え盛る炎を連想させる雰囲気を持つクロムとは対極で、怜悧(れいり)で沈着冷静な冷たい氷のような印象を受ける。

 ルテナが立ち位置を変えると、彼は持って来ていた酒瓶をテーブルに置いて席に着いた。

「改めまして……」

「いや、聞こえていた。私は第一軍所属ネオ・ヴァイスハイトだ。よろしく、死体処理の落伍者(らくごしゃ)。ああ、あまり近寄らないでくれるか、死臭が移る」

「あ、こいつはクロムより口が悪い軍師なの。マグネス兄さんとクロムとは一つ上の先輩だった人。一々気にしてたら胃に穴が開くから聞き流しちゃって」

 淡々とした冷たい言動に、素早くアルミナが補足する。

 すると、ネオが一瞥したかと思うと、ルテナを穴が開くほど見つめてゆっくりと口を開いた。

「……貴様、あのルテナ・シックザールか?」

「あの、と付けられる覚えはないんですが、その通りです」

「いや有名だろうが。平民でしかもナイフのガイストに【加速】という平凡な能力でありながら、異例の特待生。かつアルミナの守護騎士に選ばれ、学年トップのまま近衛騎士団に入り。エリート街道をひた走っていた平民の羨望(せんぼう)の的。経験も実績もあり、何度も戦闘で功績も打ち立ててる女の中じゃ第五軍団長のセレンティーナ団長と並ぶ最強の騎士」

 スラスラと実績を並べ、ネオは再びルテナを見上げた。

「確か一年前に不祥事(ふしょうじ)を起こして左遷されたんだったか? エリートが何をやったんだか」

「エリートだからこそ不祥事の内容は極秘でしてね。同僚を三十人もぶっ飛ばしてる人達には負けるかもしれない事件ですが」

「まぁ、不祥事になってるけど、やってる事は正しいかったもんねぇ、あんたの場合」

 ルテナの反論にアルミナが突っ込みを入れるが、彼女は涼しい顔で無視して二人を見てさっそく本題に入った。

「で、お察しとは思いますが、その一件の罰としてあなた方を墓守隊で預かる事になりました。といっても一週間ですし、あたしの判断でそれ以下にもなります」

「くっだらん。失せろ、酒がまずくな……」

「あー、分かった分かった。一週間でいいんだな」

「は?」

 ネオの罵倒(ばとう)に合わせて、クロムがひらひらと手を振って了承したのだ。

 予想外の反応にネオが困惑する。

「おい?」

「すまん、ネオ。黙って付き合ってくれ。理由はちゃんと話す」

 クロムの謝罪に、ネオを口を噤むしかなくなる。

 アルミナもあまりにも素直な対応に面食らっていると、クロムがそっぽを向いた。

「初対面の時の事件を見てりゃ、逆らわない方がいい相手ぐれぇ分かる」

「そりゃ、戦ってる姿を視たんなら大人しくもなるわ」

 先ほどのルテナの発言の事件を出されて、アルミナも納得していると、ルテナが頷いて予定を告げる。

「では明日の朝九時に特別墓地へ来てください。運び屋にも連絡しときます」

「……おう」

 嫌そうだがクロムが頷くと、彼女が急に提案してきた。

「そうだ、あまり乗り気ではないと思いますので、こんなのはどうでしょう? あたしは王城で過ごしてましたし、ラルフさんと一緒にいることも多かったんです。私生活とか、何が嫌いかとか、いろんなことを知ってますよ。もし来たら、あなた方の知らない事を教えてさしあげます」

「「……!」」

 自分達の憧れの騎士の話が聞けると知り、二人が顔を見合わせる。

 二人の心境の変化を感じ取ったルテナはすぐに踵(きびす)を返した。

「では明日、お待ちしてます」

 そう言って、ルテナはアルミナを連れて酒場を後にするのだった。

お待たせしました。


まず、謝罪させてください。

先週投稿しなかったのは、家族が逝去し、喪に服していたためです。さすがに投稿を控えさせていただきました。これからは週一ペースを維持して投稿していきます。

「X」とかやってれば告知などができるのですが、やっていないので、この場を借りてのご報告とさせていただきます。アカウント作ろうかなぁ……。


それから「不可思議」についてですが、一か月投稿しないと告知しましたが……もう少しお待ちください。どうも納得いかず、なかなか進んでおりません(平伏)。

黒幕とかもっと先に出しておけばよかったと頭を抱えております。というわけで、納得がいくまで頑張ろうと思います。それまで「イデアール」をお楽しみくださいませ……。

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