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圧力

向陽電機本社に入ると、周囲が敢えて視線を逸らしているのが分かった。宮下を先頭に、荒木と工藤、福寿がつづく。


 案内された会議室に入ると、宮下は荒木達と会議机を挟み、向かい合った。宮下の両隣には、人事部と思われる社員が三名同席した。


「先生…本当に来てくれたんですね…」


 荒木が小声で福寿に言った。


「当たり前です」


 福寿は短く答えた。


「こういう場は、一人にされるのが一番危険なの」


「では、査問委員会を始めます」


 宮下の隣りに座る若い男性社員が言った。

 

「弁護士の先生だけでなく、社労士の先生まで。ずいぶん深く介入されるんですね」


 宮下が椅子の背もたれに体重をかけた姿勢で、福寿を見た。


「依頼を受けていますので」


 福寿は一歩も引かなかった。


「それとも向陽電機では、外部専門家への相談は禁止されているんですか?」


 一瞬、宮下の笑みが止まった。


「とんでもありませんよ先生。弊社は国から表彰された企業です。極めて民主的に物事を運営しております。誤解しないでいただきたいですが、我々は会社の秩序を守ろうとしているだけです」


「秩序ですか…それが、通報者を監視対象にすることなのでしょうか?アクセス権停止、席移動、接触確認、査問。これのどこが民主的なのか、教えていただけますか」


 福寿が目を細めた。

 

 宮下は作り笑いをしながらも、顔がこわばっている。

 

「先生方は、全貌をご存知ありませんよね」


「過労死疑惑、労災隠し、勤務記録改ざん。これは極めて真っ当な、公益に相当する通報ですよ。それがなぜ、本人だけが処分対象になるんですか?」


 福寿はすぐに宮下に切り返したが、宮下は答えない。代わりに荒木に視線を向ける。

 

「荒木さん。あなたは冷静さを失っています。言動や行動が極めて不穏当ですし、他の社員から、その様な報告を受けています。精神的負荷の高い状況が見られますから、事実の誤認が生じている可能性が高い。そうじゃありませんか?」


 その言葉に、荒木の肩が震えた。


「そんなことありません…私は…」


 荒木が気色ばんだのを察し、工藤が荒木の膝に手を置いた。


「論点のすり替えではありませんか?宮下課長。『通報者がおかしい』という体にして、誘導しています」 


 工藤が言うと、宮下は小さく首を横に振った。


「誘導ではありません。社員保護です。すぐにでも産業医面談の準備をしたいと思っています」


「宮下課長。荒木さんの言動や行動が不穏当とおっしゃいましたが、それを示す証拠はありますか?これまで荒木さんが、問題を起こしてきたという客観的な証明をしてください」


 福寿が工藤に続いた。


 宮下は視線を外し、沈黙した。会議室内の周囲の空気が冷たく、重く張り詰める。


「工藤先生、福寿先生」  


 沈黙を破ったのは宮下だった。相変わらず冷たい笑みを浮かべてはいるが、目にはこれまでにない明確な敵意を見せていた、ら

 

「貴方がた、勘違いしてもらっては困るが、これは弊社の内部の問題です。私的自治の原則くらい、知らないわけがないですよね?」


「また論点ずらしですか?これは、公益通報者保護の問題ですよ」


 工藤が静かに言うと、宮下の顔から作り笑いが消えた。


「そしてもし、本当に過労死案件を隠蔽していたなら…『私的自治の原則』で逃げ切れる問題ではありませんよ」


 福寿は宮下から目を逸らさなかった。


「御社の社会的批判は免れない、そう言っているんです」


 工藤が声を低くして言った。宮下が黙ると、人事部員達も、無言のまま視線を下げる。


 工藤は表情を変えない。


「それとも、社会的批判を恐れていないのでも?ならば、なぜ第三者同席を拒否したんでしょう?なぜ荒木さんだけ孤立させて、監視対象にしたんですか?」 


 工藤は机に手を組んで置いた。 


「真実が広がることが怖かった…ですね」


 工藤の言葉に、宮下の目に敵意が浮かんだ。

 

「言いがかりだ、名誉毀損ですよ」


「それなら出せますよね」 


 福寿が続ける。


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