孤立
翌日の夕方
向陽電機社内では、荒木の周りで異変が起きていた。
社内イントラネットにログイン完全不可となり、アクセス権限が全面停止。その上、メール送受信は監視対象に切り替えられたという通知。
「どういうことよ…これ」
荒木は表情から血の気が引いた。
翌朝、福寿事務所には、青ざめた顔で座っている荒木が来訪していた。
「昨日から…全て変わりました」
声がかすれている。
「メールも、社内システムも、ほとんど使えなくなって…周囲の人も、急に私と距離を取るようになりました…」
「ひどいな…こんなあからさまなやり方がありますか」
正木が顔をしかめる。
「荒木さん、昨日の面談は行われましたか」
荒木はうつむいた。
「はい。宮下課長とだけでしたが」
「録音は?」
「それが…途中で気づかれてしまって…止めるように言われました」
「向こうは相当な警戒ぶりね。記録が残らないように圧力をかけてきたか…となれば、次は証言そのものの信頼性を崩しに来るわね」
福寿は遠くを見据えながら言った。
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翌日の午前中
荒木から、福寿のスマートフォンにメッセージが届いた。
[会社から、通勤経路の確認を求められました]
[最近、接触した人についても聞かれました]
[怖いです…どうすれば良いですか…]
福寿がスクリーンショットを工藤に送信すると、すぐに電話が来た。工藤からだった。
「完全に包囲網を敷いている感じね。『我々は監視しているぞ』という圧力。それにしてもやり口が卑劣だわ…ちょっと怖いわね」
電話口で工藤が言う。
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数日後、荒木の周りでさらなる異変が起きた。荒木の同僚社員が、匿名で社内にこう発言した。
「荒木さんが社外の人と頻繁に接触しているのを見た」
福寿や工藤、正木は荒木と面談したのは事実だが、一切口外していない。
しかし、向陽電機社内においては、既に違う意味に変換されていた。
[外部へ機密情報漏洩の疑い]
荒木は自席を、宮下の近い場所へ移動させられた。
「荒木さん、あなたには服務規程違反の疑いがかけられています。情報漏洩です。当面の間、一定の管理下に置かせていただきます」
宮下は冷たく荒木に伝えた。その日の夜、荒木は電話で今日一日に起きたことを、福寿に伝えた。
工藤も、所用が終わった後に福寿事務所へ来た。
「これ…もう止められない流れじゃ…」
正木の顔に不安が表れていた。
「まだこれからよ。こうして、無実の人にありもしない罪をでっち上げて、半ば公開処刑にするのよ」
工藤が言うと、福寿は頷いたが、正木は絶句した。
「もう誰も、荒木さんが内部告発した件に触れていないでしょ。目を荒木さんへ向けさせたのよ」
福寿が言うと、またスマートフォンが鳴った。荒木からだった。
一通り話を聞いて電話を切ると、内容を工藤と正木に伝えた。
荒木は週明け月曜日、本社で懲戒の為の査問委員会に出席することとなった。今日は木曜日。福寿はスマートフォンでメッセージを荒木に送った。
[査問委員会には、一人で行かないでください]
「先生、もしかして…荒木さんが我々と会ったことは…」
正木が訝しい表情で福寿に聞く。
「ええ、もう調べはついているでしょうね。私にも、何かしてくる筈」
福寿が言うと、正木は窓から外を見た。車と人が行き交ういつもの景色だったが、正木には目に入った人が、スパイに思えてならなかった。




