捏造
翌日
福寿事務所に、一人の女性が来訪していた。大学時代の友人で、弁護士の工藤淳子である。
「向陽電機よね。ここ、一般的には『模範的ホワイト企業』とされているわ」
工藤が資料をめくる。
「経産省表彰、厚労省の安全衛生優良企業、顧客満足度も高いです」
正木が眉をひそめる。
「こういう会社は、体面を飾ることを第一に考えているの。だから内部の火種は、最初から『無かったこと』にされる。組織ぐるみで消しにかかるのよ」
工藤は眼鏡を外しながら言った。
「荒木さんのケースも、その構造よね」
福寿が続けた。
「直接的な違法行為が見えないようにされていて、証拠が残らない設計なのよ。タチが悪いわ」
工藤が重苦しい話し方をした。
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その日の夜
福寿のスマホに、荒木から短いメッセージが届いた。
[会社から、説明の面談が入りました。同席者は宮下総務課長のみです]
[社内情報を外部へ漏洩している疑いで、懲戒審査にかけられる可能性があるようです]
続いて、二通目のメッセージが届く
[少し怖いです]
福寿は画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。そして短く返信する。
[録音は可能な限り確保してください]
[送信]
正木が不安そうに聞く。
「『通報者が孤立する設計』が完成されているわね」
工藤が静かに口を開く。
「孤立する…設計ですか…」
正木が訝しんだ。
「そして、その設計を作った側は、次の手も準備してるはず」
福寿が静かに言う。
「次の手…ですか?」
正木が聞く。
「荒木さんの『信用』を壊す手よ」
工藤が目を細めた。
「そう。告発者を黙らせる一番安全な方法は、孤立させて、誰からも信用されないようにすることなのよ」
福寿の言葉に、正木は呆然としていた。
「信用を壊すって…そんなこと、どうやって?」
「一番簡単なのは、『通報者こそが問題アリ』という構図に作り替えること」
工藤が言うと、福寿がゆっくり頷いた。
「例えば『社内情報漏洩』とかね」
工藤が言う。
「え!?どういうことですか…?」
「例えば、外部に相談した事実がある。それだけで『情報漏洩の疑い』にはできるのよ。『疑い』で良いの」
工藤の声は淡々としていた。
「それを『誇張』して、それらしい解釈を乗せれば、懲戒審査の材料には十分でしょ」
工藤が続けた。
「さらに審査が始まれば、『調査中』を理由にして、外部との接触を物理的に断たせるわけ。そうすることで、さらに孤立化させられるのよ」
福寿が言うと、工藤は二度頷いた。
「じゃあ荒木さんは…もう、会社の中で完全に悪者扱いにされる可能性が…」
「可能性の段階ではなくて、もう始まっていふと見るべきよ」
工藤は目を細め、強く言い切った。




