表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UnChain  作者: 大垣礼緒
PR
15/20

⬛︎UnChain [REBOOT](第2巻目):プロローグ

挿絵(By みてみん)


――『……Bẫy……ấy……』


 途切れるたびに巻き戻し、サムは再生ボタンを押し直した。

 無線機の小さなスピーカーから、何度も同じ声が漏れる。

 音の隙間に、自分でも気づかない呼吸を合わせながら。

 湊はベッドに横たわって、それをぼんやりと眺めていた。

 回復してきたとはいえ、戦いで折れた肋骨はまだ疼く。咳をすれば、肺の奥がきしむ。

 けれどサムは、そんなことお構いなしに再生を繰り返していた。


「サム、何回目だよそれ。いい加減聞き飽きたって」


「うーん、なんか妙に引っかかるんだよね。あのきれいなお姉さん。こんな単純な無線をただただ残すかなって思って」


「考えすぎじゃないか?」


 湊が言うと、サムは首をかしげた。

 「俺の国じゃ、別の意味に聞こえることもあるんだ。

  言葉って、ちょっとした発音で全然違うものになる」

 その声の奥に、かすかな緊張があった。

 彼は何かを思い出している。けれど、それが何かをまだ言葉にできない。

 湊は目を閉じる。

 頭の中で、青年の姿が何度も渦を巻く。

 あの「君はまだ、自分の中の“音”を聞いていない」という一言が、どうしても胸に刺さっていた。

 「……サム」

 「ん?」

 「もし結乃さんがいった言葉が“バイバイ”じゃなく、別の言葉を残したとしたら――」

 湊は言いかけて、やめた。

 沈黙の中で、旧型無線のランプがかすかに点滅する。

 サムは波形を拡大したまま、顎に手を当てていた。

 「……発音が、なんか違うんだよな。日本語じゃない気がする」

 「混線の干渉じゃないのか?」

 「うーん……それにしては、ノイズが綺麗すぎる」

 サムはもう一度再生しようとしたが、無線機が低く唸って停止した。

 電源が落ちたわけでもない。ただ、突然、拒まれたように沈黙した。

 「……壊れたか?」

 「いや……今の、なんだ?」

 しばし、二人は言葉を失った。

 無線の余韻だけが、まだ空気の奥に残っていた。

 外では雨が降り出していた。

 ポツ、ポツとダクトを叩く音が、薄暗い部屋に滲む。

 湊は毛布を引き上げ、薄く笑った。

 「ま、どっちにしたって――休まねぇとな。

  奪取したナノマシンの改良終わったっていってたから明日当たり接種じゃない?」

 「そうだね。まあ、ゆっくりやりますか」

 サムの声は淡々としていたが、その奥に何かを押し込めたような硬さがあった。

 湊はその違和感に気づきながらも、何も言わなかった。

 無線の小さな光が完全に消える。

 夜が、再び沈黙を取り戻した。

 ――そして翌日。

 芹沢はロゼリア地下の研究室で、静かに息を吐いた。

 テーブルの上には、アイスブラストから奪取した旧式ナノのタンクからアンプルに移し替えられたものが置かれていた。

 その液体の中で、無数の微粒子がかすかに脈打っていた。

 換気ダクトの奥では、夜通し降り続いた雨がまだ滴っている。

 ポツ、ポツと音が落ちるたびに、芹沢の指がリズムを刻む。

 「……まるで心臓みたいだな」

 その呟きに、奥の席でキヨシが顔を上げた。

 「そいつ、まだ動くんか?」

 「動くっていうか……“呼吸してる”んだ。七二年式の旧ナノ。制御式は古いが、構造は今のモデルより生々しい。リミッターを組み直せば――たぶん、まだ使える」

 「7R事件の時のものか…。そうだわな、それこそこいつが始まりやもんな」

 芹沢は端末を叩き、コードを上書きしていく。

 緑の文字が流れるたび、モニタに映る粒子が脈動を強めた。

 「……ただし、使い方を間違えれば、“化け物”を生むことになる。それでも――やるしかない」

 芹沢が顔を上げると、無菌室の自動扉が静かに開いた。

 白衣の裾がふわりと揺れる。

 現れたのは、黒い肌に長い髪を束ねた女だった。

 ゴーグルの奥の瞳は光を反射せず、ただ液晶の明滅だけを映している。

 無言のまま、彼女はアンプルを一つ手に取り、光に透かして微細な濁りを確認した。

 「メタ、濃度パラメータを再調整してくれ」

 芹沢の声に、彼女は短く頷く。無言のままコンソールを操作し、ガス循環弁を回す。

 その瞬間、ナノ粒子の波形が僅かに整い、液体の色がわずかに澄んだ。

 キヨシが呟く。

 「ほんま、あの子の手ぇは機械より正確やな」

 メタは応えない。

 ただ静かにアンプルを戻し、ゴム手袋を外すと、また影のように部屋を出ていった。

 しばらくの沈黙のあと、芹沢は小さく笑う。

 「……あいつの手がある限り、失敗はない」

 そして再び端末に向かい、低く呟いた。

 「REBOOTプロトコル、始動!」


第1巻を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


本日より第2巻の掲載を開始いたします。

今後は隔週土曜日更新を予定しております。


ただし私事ではありますが、現在引っ越し準備や諸手続きなどが重なっており、状況によっては更新が前後する可能性があります。

その際はご容赦いただけますと幸いです。


近況報告をひとつ。


人生でこれほど短期間に引っ越しをした経験がないのですが、不思議なことに箱詰めしてる量が生活と合わない気が……。

つい最近捨てたはずの段ボール以上に復活している気がします。


現在は段ボールの壁に囲まれながら生活していますが、ホームレスではありません。

たぶん大丈夫です。


新生活の準備と並行しながら、これからもUnChainをお届けしていければと思います。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ