交差する錯覚の巻
「その宝は我輩の物だ。ここに置いていけ……」
その骸骨は目を光らせ、立ち上がった。
右手には両刃の剣を携え、今にも襲って来そうだ。
「嫌だと言ったら?」
クレアは臆することなく、その骸骨に返す。
骸骨は骨格をカタカタさせ、ニヤリと笑った。
「ならば斬るまでよ。我輩の名はキャプテンクック。七つの海を我が物にした海賊……我輩にケンカを売ったこと後悔させてやる」
「大したことない奴に限って、能書きを並べるのよねぇ……いいわ。相手になってやるわ」
クレアは鞘から剣を抜き取り、両手に珊瑚の剣を構えた。
「二刀流? 戯けたことを……」
「戯けたことか試してみる?」
「よかろう……」
キャプテンクックは危険を省みず、クレアに襲い掛かる。
――キィン――
キャプテンクックの錆び付いた両刃の剣は、珊瑚の剣を前に使い物にならないくらい刃こぼれした。
「やっぱり大したことない。今度はこっちの番よ」
キャプテンクックは、後退りしながら目を光らせる。
「小娘が……舐めるなよ。我輩の力はこんなものではない……」
キャプテンクックは露出した骨を砕き、それを何十本も投げ付けた。
意表をついた攻撃に、クレアは弾き返すことも出来ず数本程、食らってしまった。
「痛いわね、何すんのよ」
クレアは手当たり次第、金銀財宝を投げ付けた。
もはや、戦闘とは言い難い愚行だ。
しかし、これが思いの外ダメージを与え、キャプテンクックはカタカタと音を立て崩れ落ちた。
「何これ、超弱いんだけど……」
「クレア、油断するな……」
しかし、ジェイムの忠告は無駄に終わり、キャプテンクックは再び立ち上がることはなかった。
「さぁ、帰るわよ」
「ん? あぁ……」
何となく納得がいかないジェイムだったが、クレアに従うことにした。
「掴まって、ジェイム」
「すまん……」
クレアはジェイムを抱き抱え、一気に水面へと上昇した。
水圧が、体を締め付ける。
予想より、早く到達する水面。
「ぷはぁぁ……やっぱり、空気があるっていいね」
「あぁ……ていうより、クレア、ここは?」
そこはクレアがよく知る場所……精霊の泉だった。
「そんなことより、お宝は?」
「わからん……水面から出た途端、消えたようだ……」
「まぁ、いいわ。ベスタニャに戻ってこれたようだし、ナップとメルルも戻っているかもね」
「そうだな、行ってみよう」
二人は急ぎ、ナップの住みかへと急いだ。
――バサバサ――
大量のコウモリが飛び立つ。
何処と無く、見たことがある風景。
クレアは嫌な予感を感じながらも、ナップの住みかの扉を開いた。
「ナップ! メルル! 居るんでしょ? 返事しなさいってば!」
ゆらゆらと燃え盛る暖炉の火。
人の気配はするが、ナップとメルルの気配は感じられない。
ますます、あの日と重なる。
「じょ、冗談はやめてよね……」
と、次の瞬間、引っ張られるようにクレアとジェイムは奥の部屋に引き摺り込まれた。
「ようやく、来たね……」
「お、お前は? 黒き魔女……生きていたのか?」
「はて? 質問の意味がわからんが……私は死んでおらんよ」
「そんなことより、ナップとメルルを返しなさいよ」
「あぁ、このゴミかい?」
――ドガドガ――
石化したナップとメルルが床に横たわる。
何もかもあの時と同じだ。
ていうことは、この後緑の液体を掛けられ……
――ピシャッ――
そう思っていると、黒き魔女は緑の液体を投げ付けた。
「クレア……危ない……」
ジェイムはクレアの代わりに、その緑の液体の餌食になった。
「ちっ、外したかね……」
「ジェイム! あたしの為に……」
しかし、ジェイムには何の変化も見られなかった。
すると黒き魔女は、
「ま、まさかお前は……」
と、驚きを見せた。
「黒き魔女よ……よく我が呪いを解いてくれた……」
「ジェイム? 一体どういうこと?」
「クレア、今まで黙っていて済まなかった。我の本当の名は、ジャスティス。そう……お前らが倒した魔王だ……」
ジェイムはそう言うと、禍々しい魔族の象徴とも言うべき角を出し、その姿を露にした。
「ジェイム、まさかアンタがジャスティスだったなんて……」
「我に呪いを掛けた主、ジーナのお陰で我は生き延びた。この時をどんなに待ち望んだことか……」
黒き魔女、そしてジェイムに扮していたジャスティス。
クレアの運命は、狂い始めていった。




