船上での駆引きの巻
「おぉ、黄蓋。ワシを助けに参ったか」
黒き魔女に、その斧は向けられるものと思われた。
しかし、黄蓋は曹操に向け斧を振るったのだ。
紙一重で曹操は交わすも、僅かに鎧を掠めた。
「おのれ、黄蓋! 貴様、ワシを騙したな!」
「へっ、魏の総大将が聞いて呆れる。我が君主は、孫権様ただお一人……その骨へし折ってやるわ!」
「うぬぅ……誰か居らぬか?」
「無駄だ……周りの奴は全てなぎ倒してきた。ガハハハッ」
「ならば、ワシ自ら相手になろう」
曹操は、剣を抜き構えた。
「仲間割れか? 面白いことになってきたね」
黒き魔女は一歩身を引き、曹操と黄蓋の戦いぶりを見物することにした。
「人間同士の醜い争い……見ていて飽きない」
黒き魔女はいつでも二人を撃破出来るように、魔力を高めた。
「黄蓋よ、ワシを怒らせたこと後悔するが良い」
「何を戯けたことを……。茶番は終わりだ! 行くぞ!」
――ギィィン――
犇めくように鳴り響く、鍔迫り合いでの金属音。
力で勝る黄蓋は、その状態のまま曹操を船の淵に追いやった。
「曹操よ、どうやらここまでのようだな?」
玄武池は別名地獄池とも言われ、落ちたら最後、凶悪な魚の餌食になってしまうのだ。
「どうした? もう終わりか?」
曹操は必死に押し返そうとするも、もう幾ばくも力は残っていなかった。
「む、無念……志し半ばで果てるとは……」
諦めにも似た言葉を曹操が発すると、黄蓋は突然倒れ込んできた。
何処から途もなく飛んできた矢が、黄蓋の強靭な肉体を背中から心臓にかけ貫いたのである。
曹操がそのまま剣の力を抜くと、黄蓋は玄武池に落ちていった。
踊るように魚達が、息絶えた黄蓋に群がる。
やがて、肉眼では確認することも出来なくなり、闇を纏った玄武池に沈んでいった。
「黄蓋よ、不器用にしか生きられん男……」
曹操は体勢を整え、今度は黒き魔女に剣を向けた。
「なんだい、悪運の強い男だね……いいだろう、相手になってやるよ」
「小わっぱが……覇王と呼ばれたこのワシが、果てる訳にはいかん!」
曹操は運を味方につけ、再び生きる気力を見出だした。
素早い動きで間を詰め、剣を振り抜く曹操。
しかし、黒き魔女は後ろに手を組んだままヒラリとかわす。
曹操は、それに怯むことなく追撃した。
剣術は、名のある武将と五分をはる腕前だ。
だが、剣は掠りもせず、悪戯に曹操の体力だけを奪っていった。
「そんなんじゃ一生当たらないよ。剣って言うのはね、こうやって使うんだよ」
黒き魔女は、氷の刃を作り出し、剣に見立てて曹操の心臓目掛けて突き出した。
「ぐはぁぁ……」
僅かに急所は外れたが、夥しい量の出血を伴った。
口からも深紅に染まる血液が吹き出し、呼吸を妨げる。
「さっきの勢いがないね。もう、遊びは終わりだ! 死ね!」
無抵抗の曹操に、黒き魔女は再び氷の刃を向ける。
「やめろ――っ!」
そこに現れたのは、船の消火活動を終えたジェイムとクレアだった。
「ちっ……またお前達か。何度も何度も邪魔しおって……」
「今度こそ、アンタ何かに負けないんだから!」
クレアは巨乳の姿になり、大剣を構えた。
「また巨乳の姿かい? 貧乳だから、その姿に憧れてんだろ?」
「うるさいわね! これも本当のあたし!」
ジェイムは『いや違うな』と思ったが、余計な口を挟まず両足を突き出し身構えた。
「そうだ、いいことを思い付いたよ」
黒き魔女は不気味に笑うと、何やら呪文を唱えた。




