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赤壁より紡ぐの巻

 曹操軍から難を逃れた劉備軍は、赤壁で孫権率いる呉軍と共闘の状況にあった。

徹底抗戦の構えを見せる呉の切れ者周瑜(しゅうゆ)は、火計を打ち出すべく玄武池に大船団を打ち並べた。

しかし、戦力で勝る曹操軍を打破するには心許ない作戦。

そこで劉備軍は、火計による拡大を促すべく、東南の風を呼び起こす役目を諸葛亮に与えた。





◇◇◇◇◇◇




 ここは玄武池の畔に設置された祈祷所。

諸葛亮は東南の風を呼ぶべく、祈りを捧げていた。

その傍らには、神妙な面持ちで劉備が見守っていた。


「諸葛亮、風はまだ吹かぬか?」


「劉備殿、焦ってはなりませぬ。私が必ずや風を呼び起こします。それまでどうかお待ち下さい」


「うむ……」


 劉備は焦っていた。

先の戦いで曹操軍に大打撃を喰らい、家臣達の尊い命を失っていたからだ。

はやる気持ちを抑え、じっとその時を待つことにした。





◇◇◇◇◇◇




 一方その頃、劉備軍を追い南下していた曹操軍の元に、この時代には似つかわしくない動物が、総大将である曹操の前に姿を現していた。


ジェイムである。


ジェイムの他にメルルもいたが、曹操の目にメルルは映らない。


「何とも珍しい猫よ。どうだ? ワシの飼い猫にならぬか?」


 曹操は軍馬を降り、路頭に迷うジェイムに手を差し出した。


「俺は、誰の配下に落ちん。俺は俺の生き方をする」


「なんと、喋る猫とは……ますます気に入った。では、猫よ……」


「猫ではない。ジェイムだ」


「失礼した。ジェイムよ、配下ではなくパートナーになってはくれまいか?」


「それなら構わん。お主、名は何と申す?」


「ワシは魏を纏める長、曹孟徳(そうもうとく)。孟徳と呼んでくれれば良い」


「わかった、遠慮なく孟徳と呼ばせてもらう」


 その二人のやり取りに、納得のいかない男がいた。


夏候惇(かこうとん)である。


 彼は青龍刀と使い手として有名であったが、大の猫嫌いとしても有名であった。

そんな夏候惇であったから、曹操の愚行を黙って見過ごす筈もなかった。


「孟徳、そんな汚ねぇ、野良猫を連れていくのかよ」


元譲(げんじょう)よ、貴様の猫嫌いには呆れたものだ。ワシは此度の戦にジェイムが使えると判断したまでだ」


 曹操の威圧的態度に、夏候惇はひれ伏すしかなかった。

それだけ、総大将である曹操の考えは絶対なのであった。


 決戦の舞台となる赤壁に向かう途中、曹操とジェイムは意気投合し、共闘を誓った。

加えて、お互いのこれまでの経緯も語った。


「なるほど、黒き魔女か……。ジェイムよ、ワシらが敵である劉備軍に其奴は身を寄せているやも知れぬな」


「孟徳、それは本当か?」


「劉備軍には、おかしな術を使う輩もいる。その背景に、黒き魔女がいると考えるのが妥当ではないのか?」


「もっともだ」


 曹操とジェイムが一通り話し終えると、劉備、孫権軍の対岸に位置する玄武池の畔に到着した。

 畔には前もって用意させておいた大船団が、まるで戦艦のように鎖に繋がれ一つの船のように連なっていた。


「曹操様、準備の方は整ってございます」


「うむ、ここに陣を構え、腕に自信のある者は各個出撃せよ」


「おおう――っ!」


 曹操の一言で魏軍の猛者共は、船に乗り込み対岸の劉備軍へ向け出発した。

ジェイムは、その様子を曹操の横で見守っていた。

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