戦場(いくさば)の心の巻
迫り来る幻影兵を薙ぎ倒し、ようやく辿り着いた敵本陣。
禍々しい雰囲気を漂わせ、妖気を纏いし男がこちらの様子を伺う。
血で血を洗う戦を終わらせるべく、クレア達はその男の前に立った。
「アンタが信長ね。無駄な殺生は止めなさい」
クレアがそう言うと、信長と思われる男は刀を手に取り、
「笑止。うぬが愚行、我が受け止める」
と、言い放ち身構えた。
話し合いで解決する気は更々ないようだ。
そこに長政とお市が割って入る。
「信長殿、どうしても戦うと仰るのですか?」
「愚問だな……天下統一には、うぬら浅井家、朝倉家が邪魔だと言っている」
その目に生気は感じられない。
強いて言うなら、何者かに操られた亡者。
長政の陰にいたお市も、信長に言う。
「兄上、お止め下さい。人と人が争って何になります。市は人が死ぬのを見とうございません……」
涙ながらに語るお市に向かい、信長はにじりよる。
「市……」
「はい……兄上」
「死ね――っ!」
「きゃぁぁぁ」
信長は刀を振り上げると、力任せにお市を叩き斬った。
――ドサッ――
お市は大量の血を撒き散らし、正面から倒れ込んだ。
「お市――っ! 信長殿……いや、信長! 某はそなたを許さない……」
長政は、信長に向け槍を構える。
もはや戦闘は避けられない。
恐らくどちらか一方が、果てるまでは終わらないであろう。
そんな中、ジェイムが何かに気付く。
「クレア、黒き魔女の気配がする」
「あたしもさっきから気になってたんだけど、ジェイムがそう言うなら間違いないわね」
クレアとジェイムは、後退し辺りの様子を伺う。
すると空からヒラヒラと、黒き魔女が姿を現し、
「誰をお探しかな? こんな所までノコノコと、邪魔しにくるとは……」
と、言ったかと思うと、杖を取り出し信長に向かって念じる。
「信長! そいつらは憎むべき敵だ。やっておしまい!」
信長の目は蒼白く光り、無言のまま刀を振り回す。
その刀は長政の肩を切り裂いた。
「うぐっ……」
「長政さん――っ! ここはあたし達に任せて。お市さんと一緒に逃げて」
「クレア殿……かたじけない……」
長政は傷付き倒れたお市を抱え、戦線離脱した。
自らの傷も致命傷とまではいかないが、流れ出る血は強固な鎧を伝っていた。
クレアは回復してやりたい気持ちもあったが、今の姿では魔法が使えない。
仮に貧乳の姿に変えたとしたら、その隙にダメージを喰らうであろう。
戦況は、そこまで緊迫していた。
「信長! アンタを許さないからね!」
信長は冷酷なまでに、刀を振り回す。
黒き魔女は、高みの見物と言わんばかりに、信長を操る。
「ジェイム、アンタは黒き魔女を足止めしておいて。また逃げられたら事だわ」
「承知!」
クレアは信長に向け大剣を振るい、ジェイムは黒き魔女に飛び掛かる。
信長の振り回す刀をクレアは紙一重でかわしながら、攻撃に転ずる。
素早い動きは信長を翻弄し、やがて信長の喉元に大剣を突き付けた。
「信長! もう終わりよ。覚悟なさい!」
信長はそれに動じず、自らの喉元を大剣に押し込んでくる。
「なっ! 馬鹿な……」
動脈から弾け飛ぶ返り血を浴びながら、クレアは後退りした。
「こ、こいつ化け物……」
身を呈し迫り来る信長に、クレアはおののいた。




