知られざる過去の巻
クレアは人気のない城を脱け出すと、城下町にある勇者の石碑を訪れた。
城下町もお城と同様に、人影は全くない。
いつもなら多くの人で賑わうこの石碑も、今はクレア一人だ。
クレアは石碑に手を当て、静かに目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
今から一年前……。
「あれが魔王の城だ。これで、ようやく決着がつけられるってもんよ。ここまで、俺に着いてきて来てくれてありがとな、クレア、サラ……」
「何、言ってのよジーナ。まるで最期のお別れみたいじゃない。ねぇ、サラ?」
「クレア姫の言う通りでございます。私共はジーナを信じてここまで、やって来たのでございます」
「ふっ……嬉しいことを言ってくれる……クレア、サラ、行くぞ」
三人は、魔王のいる城の中へと雪崩れ込んだ。
さすがに守りは鉄壁で、今まで以上に強いモンスターが立ちはだかる。
傷付きなからがも辿り着いた玉座には、世界を恐怖の渦に巻き込んだ魔王が不気味な笑みを浮かべていた。
「魔王、覚悟!」
ジーナは鞘から聖剣を抜き取り、剣先を魔王に向ける。
「何だ……勇者とは男ではないのか……」
「馬鹿にするな! 俺は女を捨てた。世界を救う勇者だ!」
「戯れ言を……貴様ら女に何が出来る?」
「女だからって、舐めないでよね!」
「そうでございます」
魔王は玉座から立ち上がり、黒光りした両腕を広げた。
有に五メーターは越える巨体である。
ジーナはマントを翻し、一気に魔王の懐に飛び込んだ。
洗練された剣さばきは見事で、魔王は真紅の血を撒き散らした。
魔王はその行為に激怒し、鋭く尖った爪をジーナに向け降り下ろす。
「ジーナ!」
ジーナの危機を悟ったクレアは、直ぐ様回復の魔法を詠唱する。
しかし、それに気付いた魔王は、咆哮を上げながら灼熱の炎をクレアに放った。
「クレア姫、危ないですわ……きゃぁぁ」
身を投げ出すように、サラがクレアの前に立つ。
「サラ――っ! 己れ、魔王――っ!」
ジーナは大量の出血をしながらも、高々と跳躍し、魔王の目に向かって聖剣を突き刺した。
「ぐぉぉぉ」
――ドサッ――
その一撃で、魔王は断末魔を上げ、床に倒れた。
「や、やったわ~。ジーナ、アンタやっぱり凄いわ」
「へへっ……それよりサラは?」
「何とか無事ですわ。聖衣が守ってくれたようです。ジーナこそ大丈夫ですか? 顔色がすぐれないようですが……」
「大丈夫だ……これくらいの傷……」
その後、クレアは二人を傷を癒したが、どういう訳かジーナの傷はふさがらなかった。
むしろ、悪化を辿る一方でジーナの体力は徐々に奪われていった。
世界に平和は訪れたが、ジーナの傷の原因は解明されないまま、一ヶ月が過ぎた。
ジーナは連日高熱に魘され、遂には息を引き取った。
その傷の原因が、魔王による毒の所為だとわかったのは、ジーナがこの世を去って半年が過ぎた頃だ。
ベスタニャ王は彼女の死を嘆き、平和の象徴として城下町に石碑を建てた。
◇◇◇◇◇◇
「あれから一年……。ジーナ、あたしがもっと強かったら……」
クレアは石碑にしがみつき、涙を流した。




