イヤな予感の巻
自分で言うのもなんですが、盛り上がって来ました。
若干、ベタではありますが。
クレアはお城に向かって、ひた走っていた。
当然、自分がお城から脱け出したことで、パニックになっているに違いない。
そう思っていたが、何やら様子がおかしい。
何時もなら、城壁の周囲を兵隊が巡回している筈なのだが、あまりに静かだ。
クレアは嫌な予感を感じ、更にスピードを上げた。
脱出時に使用した秘密の地下通路を抜け、こっそりと謁見の間に顔を出す。
「誰も居ない……」
まるで神隠しにあったように、人の姿はなかった。
クレアは思わず、本来の人間の姿に戻り、
「お父様――っ! ジルバーグ――っ!」
と、叫んだ。
しかし返答はなく、その声は頑強な柱によって虚しく跳ね返って来た。
いや、僅かに何か物音がする。
クレアは精神を研ぎ澄まし、音のした方向へ耳を傾ける。
「…………っ」
確かに、何かが聞こえる。
「誰? 誰なの――っ!」
不安と恐怖を払拭する為ではない、何者かに自分の存在を知らせる為に声を再度張り上げた。
「……じゃ。……ここですじゃ」
その声は、王座の影から聞こえた。
クレアは王座に近付き、身を屈め声のした場所に顔を近付けた。
「ジ、ジル……」
手のひらサイズにはなっているが、それは確かに大臣であるジルバーグだった。
「姫様、姫様ですね。ご無事でしたか。お懐かしゅうございます」
「ジル、これは一体……ねぇ、説明してよ」
クレアは小さくなったジルバーグを手のひらに乗せ、ジルバーグを揺さぶった。
ジルバーグは、涙を浮かべ、
「姫様が姿を消し、我々どもは必死の捜査活動を行いました。その後、黒いフードを被った占い師風の女が現れ、姫様の居場所を占うと言い放ったのです。我々は半信半疑だったのですが、王様はすっかり信じ込み、その占い師風の女を招き入れたのです。されど、一向に姫様の居場所は解らず仕舞いでした。しびれを切らした王様は逆上し、その占い師風の女をナイフで切りつけたのです。するとその占い師風の女は、不敵な笑みを浮かべ、次々と城の者を消し去ったのです。勿論、王様もです……」
と、語った。
それに対してクレアは、
「話はわかったわ。では、何故ジルは消されず小さくなっただけで済んだの?」
と、疑問に思ったことを聞いた。
ジルはその言葉を待っていたかのように、胸元から銀色に輝くロザリオを取り出した。
「恐らくこのお陰でしょうか……。これは母の形見のロザリオにございます。何でも、悪しき魔法をかき消すとか」
「ジル、貴方は運がいいわ。それで助かったのね。……城を襲った占い師風の女、それは恐らく黒き魔女……。あたしもその呪いでハムスターにされたわ。今は自在に姿を変えれるようになったけどね」
「姫様の身に、そんなことがあったとは……」
ジルバーグは、クレアの手のひらの中で、膝間付き十字架を描いた。
「ジル、力を貸して欲しいの。実は、あたしの仲間が、その黒き魔女に石にされたのよ。皆を、仲間をあたしは助けたい……。確か、書斎に古文書らしきものがあったわよね。案内しなさい」
クレアがそう言うと、ジルバーグは書斎へと案内した。
書斎はカビ臭く、埃が舞っていた。
長い間、使われた形跡はなく、古ぼけた本が立ち並ぶだけだ。
「姫様!」
ジルバーグは何かに気付き、一冊の本を指差した。
「何事? ジル」
「姫様、あれを……」
ジルバーグが指差す本は、他と異なり埃が綺麗に取り払われていた。
クレアはその本に興味を抱き、手に取り開いて見せた。
「これは……」
その本には、『空間追放及び、石化の呪いを解くには、ロザリオと…………が、必要である。しかし、……』と、記されていた。
それ以上はページが剥ぎ取られ、読むことが出来なかった。
インクが所々滲んではいたが、ロザリオが必要なことはわかった。
ジルバーグはそのことを知ると、そっとクレアにロザリオを差し出した。
「どうか、お役立て下さい」
「いいの? ジル……。大切形見なのに」
「皆を救う為です。姫様……後は頼みましたぞ」
「えぇ。留守の間、お城をお願いね」
「承知しました。この老いぼれが一緒に行っても、足手まといですからな」
「よくわかってるじゃない。それでこそあたしの召使いよ」
「これは、これは姫様に敵いませんな。姫様、旅立つ前に勇者の石碑をお参りくだされ」
「わかったわ。そうする。ジル、それじゃ行ってくるね」
「ご武運を……」
クレアは羽衣をヒラリとさせ、城を後にした。




