家族、はじめました(仮)ー中編ー
続きます
リオとの出会いからひと月がた経った。
瞼に朝日が当たって目を開ける。
そこからアリアの一日は始まる。
誰よりも早く起きて身支度を整える。
流石にヴァルターの前では着替えられない。
そして朝食を用意する。
大抵、前日に買ってきたものだが、リオがいるのでこの子の分だけは柔らかいものを手作りする。
そうするとムズムズとリオが起きてきて、ヴァルターを文字通り叩き起こす。
子供は手加減を知らないので、頬を赤く晴らしたヴァルターにおはようと言いながら笑うことになる。
そうして、今日も動き出すのだ。
最近は、街に滞在する間は、戦闘用装備をやめた。
傭兵2人が子供を連れてるよりは目立たなくするため…なのだが…
ヴァルターは長剣を手放さなかった。
「家族を守るためだと聞かない。
もっともアリア自身もスカートの下、太腿に小さな投げナイフを数本隠し持っている。
職業病だろう…。
「ねえ、ヴァル…今日、ちょっと買いたいものがあるんだけど…」
行ってきていい?とアリアが尋ねると、「分かった、ついていこう」とヴァルターは即答した。
基本的に3人は共に行動していた。家族ごっこを始めた途端、ヴァルターの過保護に火がついた様だった。
基本リオを抱くのはヴァルターだし、街を歩くときはアリアに腕を取らせる。
リオがぐずり、アリアが抱きしめている時は、アリアの細い腰を抱き、離さない。
まるで親バカでバカップルだ。
「いや、いいわよ」とアリア。
「今日は1人で行きたい気分なの」そう言うとヴァルターはあからさまに不機嫌な顔になった。
「リオはどうする」
「だからお願いしてるの」
「魔力暴走が起きたら…」
「まだ一回も起こしてないでしょ…」
「お前に万が一の事があったら1人で育てろと言うのか?」
「ないわよ、私だって傭兵の端くれよ?」
「それは…俺だって知っているだが…」
聞いてくれない。
アリアはため息をついた。
「…新しい…その……下着が欲しいのよ…」
こればかりはあんたも行きたくないでしょ?とかおをあかくして続ければ
「なんだそんな事か」とヴァルター。
「そんなことって何よっ!」
怒るアリア。流石に見られているところで下着を買いたくないという乙女心をこの男は微塵も理解できないのだろう。
「いつも通り、家族で行けばいい。お前が嫌なら店の外で待つ」
なあ、リオ?とリオを抱き上げるヴァルターに
「ぱーぱ、まーま?」
リオは不思議そうな顔をして2人の顔を見ていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
朝食を終え、街に行く。ランジェリーショップに到着すると…リオを抱えたヴァルターは恥ずかしげもなくアリアに続いて店に入った。
焦ったのはアリアだけではない。
店員も他の客も硬直する。
「あんたねー」
「夫婦なんだから気にすることもないだろう?」
「気にするわよ、ばかっ! 出て行ってっ!」
仕方なしに彼は店の入り口で待つことにした。
「まったく…」と赤面したアリアがため息をつく。
「仲がよろしいんですね」と店員は苦笑していた。
なんとか買い物を終え店外に行くと、ぐずるリオを必死にあやすヴァルターがいた。
ヴァルターの無精髭を引っ張りながら背中を逸らして「ままっ! ままっ!」と泣き喚く。
「ほらな、お前がいないとすぐこれだ」
初めてではないらしい。そんなに離れた記憶はないが。
「リオー、ここよー」
アリアが優しく声をかけ手を伸ばし抱き上げると、それまでが嘘のように泣き止んだ。
必死に抱きつき、胸に顔を擦り付ける。
よしよしとゆするとすぐに眠りに落ちた。
「眠かっただけじゃない」
「……すまん」
だが…と彼はいう。
「やはり不安だ、そばにいてくれ」
まるで告白のように…
アリアは赤くなって俯いた。
それを見守っていた通行人がくすくすと笑う。
「あらあら、仲のいい家族ね」
「旦那さんベタ惚れじゃないの…」
そして仮初の夫婦揃って赤くなるのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
下着に続いてリオ用の食材を買おうとしたところで、太陽が中天に差し掛かろうとしていた。
「そろそろお腹が空いてリオがぐずり出す頃ね」
「あーう?」
「なら飯にしよう」
とヴァルター。
適当な店に入り、ヴァルターは肉料理を、アリアはリオと分け合うようにリゾットを頼んだ。
「そんなんで足りるのか? 少し痩せたんじゃないのか?」
とヴァルターは心配するが、「こんなものよ、食べきれないもの」と彼女は返す。
リオは届いた食事を見て、待ちきれないとばかりに手足を揺らす。
彼女はくすりと笑って、適温まで冷ましリオの口に運んだ。
「だぁぁっ!きゃあっ!」とリオは喜び、次をくれ次をくれと口を開ける。
結局、リゾットの半分近くを平らげた。
「いっぱい食べたねー?」
そう言って彼女はリオの口元をハンカチで拭う。
その慈愛に満ちた姿にヴァルターの胸が高鳴る。
「どうしたの? ヴァル」
アリアに声をかけられてヴァルターは自分が彼女を凝視していた事に気がついた。
「いや…」
言ってしばらく考える。そして、
「やっぱりそれだけじゃ足りないだろう…」
そう言って、自分の皿の肉をアリアの器へと移した。
「ありがと」
「べつに…倒れられたら困るからな」
まるで素直じゃないんだから…というようにリオは「だーぅ」と呟いた。
それは平和な、どこでもいるような家族の風景だった。
だが、長くは続かなかった。
ーーーアリアが行方不明になったのだ
もう少しだけ続くのじゃ




