家族、はじめましたー後編ー
家族、はじめましたー後編ー
きっかけはつまらない事だった。
本当につまらない事すぎて覚えてもいない。
つまらない事で喧嘩をして、「頭を冷やしてくる」とアリアが宿を出て行った。
ーーーそして帰ってこなかった
10分…20分…30分…1時間…3時間…
不安が募った。
それが伝染したのが、リオが泣き出した。
「ままーっ!ままーっ!」
と泣き止まない。
ヴァルターはリオを抱き上げ、宿を出た。
「すまない…アリアを…妻を見なかったか?」
まずは宿の女将に聞いた。
「さてねぇ…だいぶ前に出て行ったっきり、見てないねぇ…」
彼女は答え「そういえば…」と続ける。
「最近この街、人攫いが起きてるの。奥さん美人だから心配ね…」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ーーーしくじった
アリアは心の中で呟いた。
目の前にはげひた笑みを浮かべる男たち。
ーーー野党の類か…
宿を後にし、1人街を歩いていたところ、薬をかがされ意識を失いここへ連れ込まれいた。
気付くのが遅れた。
日々の家族ごっこで平和ボケしていたか、あるいはヴァルターの存在が大きかったのか…。
ーーー数は…3.4.5…7人、決して逃げられない数ではないけど…
傭兵であるアリアなら素手でもいける…はずだ。
スカートの下のナイフにもまだ気づかれていない。
後ろを振り向けば同じ様に捕まって涙を流す少女が3人…。
置いては逃げられない。
ーーーさて、どうしようか
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ヴァルターはまず部屋に戻り装備を整えた。そしておんぶ紐を取り出す。
抱っこは好きだが基本的に自由を愛するリオはおんぶ紐を嫌がった。
基本的には。
「緊急事態だ、わかってくれ」
そう言いながらつけていく。
わかっているのか、この時に限ってリオは大人しく紐で背負われた。
そして、宿を後にし聞き込みをする。
幾人かの聞き込みの末、近くの森の洞窟、そこが怪しいと当たりをつけた。
「見張りが2人……当然か…」
「あう」
木陰に隠れ、洞窟を満ながらヴァルター。答えるようにリオ。
だが見張りがいるということは、ここが当たりだということだ。
「いくぞ、泣くなよ」
リオを背負ったまま長剣を構え、駆け出す。
「なんだコイツ?!」
見張りをしていた男が叫ぶ…前に、ヴァルターは2人とも切り捨てていた。
「舐めんなよ、ジジイ!」
後ろから増援が現れ、矢を放つ。
「きゃーう!」
リオが声を上げた。
ヴァルターは振り返って、目を疑った。
弓矢が跳ね返り、射ったおとこの顔の横に突き刺さっている。
「リオ…これはお前が」
「だーぅ」
膨大な魔力の片鱗、母への気持ちで目覚めたのか?
気になることは多いがそんなことよりアリアが先だと、ヴァルターは洞窟へと足を踏み入れた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「歳はいってるが、ずいぶん上玉ですね、アニキ」
アリアを見て男が笑う。
「少しくらい味見をしても…」
そして豊満なアリアの胸へと手を伸ばした。
「ちょっと、やめなさいよ」
体を捩って抵抗するが、縛られていてそれが精一杯だ。
「良い目だ…唆るなぁ…」
アニキと呼ばれた男がアリアの服を破る。
「ちょっ、アンタたち本当にいい加減にしなさいよねっ!」
「あっはは…良い、じつに良い」
男は笑いながらアリアの足を拘束している紐を解き、太腿へ手を這わせた。
「や、やめな…」
貞操の危機。そしてナイフがバレるという二重のピンチ。
「助けて、ヴァルーーーっ!」
「ままーーーーーーーーっ!」
アリアが叫ぶのと、リオの声が聞こえたのはほぼ同時だった。
瞬間見えない何かがアリアを覆い、男が弾き飛ばされる。
「え、なに?」
声のした方を見てみれば、剣を構えた相棒と、その背で泣きじゃくっているリオの姿があった。
ヴァルターはアリアの霰もない姿を見て、怒りが頂点に達した。
ぷちんと何かが切れた音が、おそらくリオには聞こえただろう。
「俺の妻に触れたのは…誰だ」
お前か?!お前か?!とあたりの荒くれ者を蹴り倒す。
「あう!あう!だー!」
まるでやっちまえーと言うように、リオがはしゃぐ。
あらかたの男たちが倒れた頃、アリアは立ち上がり、
「ヴァル…」と駆け寄った。
そして…頭突きを1発。後ろ手で縛られているのでそれしかできなかったのだ。
「……っつー」
「子供の前で何してんのよ!」
死屍累々とした当たりを見渡してアリア。
リオはママが無事で嬉しいのか、きゃっきゃっと笑っていた。
「……悪かった」
言うがヴァルターは反省はしていない。
「お前のカッコの方が目の毒だ」
言われてみればアリア服は破れ、胸もはだけている。
「ちょ、ちょっと見ないで!」
紐も解いてと後ろを向けば、ヴァルターはスッと紐を解いた。
「私は女の子たち助けてくるから、ヴァルはこの紐で男たち縛っといて」
「…あ、ああ」
「あうー」
「リオももうちょっとまっててねー?」
結局ヴァルターはアリアに勝てないのだ。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
街に戻るとヴァルターは英雄だった。
娘たちが帰ってきたと街中が騒ぎだ。
宿屋の女将も食べ切れないほどの食事と酒を振る舞った。
リオもアリアの膝で大はしゃぎだ。
アリアが救出されてからピッタリとくっつき離れない。
それはヴァルターも同じだ。
どこへ行こうにも視界に彼女をおさめている。
「心配性ね」とアリアは笑うが、実際攫われてしまったのだから文句は言えない。
夜も更け、リオが船を漕ぎ出したので部屋へと戻り寝かしつけた。
「ヴァル」
アリアに呼ばれヴァルターは「な、なんだ」と返す。彼女は笑い
「遅くなったけど、ありがとう」
と、眠るリオを見つめながら呟いた。
「家族なんだ、当然だろう」とヴァルター。
「そうだね」
「妻を助けただけだ」
うなづくアリアにヴァルターがいうと、
「それは設定でしょ?」彼女は振り返った。
「は?」
「は?」
時が止まる。
「俺は家族になってくれといったはずだが?」
声は低い。
「え?それはリオのためで…」
「はじめはな、だが…」
そこで切った。そしてアリアを抱きしめた。
「お前は俺の妻だ。お前がいなくなった時、目の前が真っ暗になった。お前があの男に触れられたとき、殺してやろうかと思った…」
声も抱きしめる指先も震えていた。
アリアはくすりと笑う。
「そうならそうと、早く射ってくれればよかったのに…」
「……いえるか」
「私は言えるわよ?」
そして耳元で続けた。
「大好きよ、ヴァル」
「俺もだ…愛してる」
ゆっくりと唇が重なる。
家族ごっこが、本物の家族になった瞬間だった
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
十年後、3人はとある田舎の村の片隅に居を構え生活していた。
家の前で木剣で素振りを行っているのはヴァルターと12歳になったリオだ。
魔法の才はあるものの、ヴァルターに憧れて今は剣術を習っている。
「にーに!」
不意にその足元に小さな少女が現れ飛びついた。
「わぁ」とリオは木剣を落とし、少女を抱き止める。
「マリー、訓練中は来るなとあれほど…」
「ぱぱがにーにをとるからです!にーに!ママがご飯って!」
ため息混じりのヴァルターにマリーと呼ばれた少女が怒る。その顔はアリアによく似ていてヴァルターは苦笑した。
「ご飯だね、行こうか?」
リオがマリーの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
家の中ではアリアが皿を並べている。
「さあ、食べましょう」
家族生活は明日も続く




