家族、はじめました(仮)ー前編ー
対戦お願いします
ここは剣と魔法と魔法科学の世界。
この世界は一度崩壊している。
遥か古代人たちは莫大な魔力と科学を持ち、
まるで楽園のようなそこで幸福な人生を歩んでいた。
それがなんらかの理由で崩壊し、今のこの世界がある。
もっともそんな話は、歴史学者が調べる事であって我々の知ったことではない。
ただ、それらの痕跡を示す遺跡があちらこちらにあり今日も一組の男女がそこへ足を踏み入れていた。
男は30代後半から40代前半のベテランの風格漂う男。本業は傭兵なのだろう。
長剣を腰に差し、鍛え上げられた肉体に精悍な顔つき、顎には無精髭が生えている。
女の方は20代半ばから30代前半。
やはり傭兵なのだろうか。ショートソードを差した肉体は女性的な柔らかさもあるもののしっかりとしている。
2人は長年背中を預け合い生死を共にしてきたパートナーだ。
この物語は、この2人が古代遺跡の最深部にたどり着いたところから始まる。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
2人が足を踏み入れた途端、地面が揺れた。
「地震か!?」
男ーーーヴァルターは言って、咄嗟に女を支えた。
「いいえ、これは遺跡が揺れてるのかもしれない」
女ーーーアリアはいうと、ヴァルターの手に捕まりバランスを取る。そして顔を上げ、何かを見つけてかけだした。
「なんだって急に…」
ヴァルターも後に続き息を呑んだ。
彼女が祭壇に駆け寄ると振動が止まった。
そして祭壇だった場所に、不思議なポッドがあり、それが開いている。
中には1〜2歳くらいの小さな子供がぽかんと座っていた。
「おチビちゃん、どこからきたの?」
アリアが尋ねると、子供はキャラキャラと笑い「マーマー」と彼女に腕を伸ばす。
アリアはそっと抱き上げた。
子供は彼女の胸に頬擦りする。
「隠し子か?」
「張っ倒すわよ!」
「……すまん」
謝るヴァルターに今度は「パーパー」と腕を伸ばした。
「あら?隠し子?」
仕返しのようにアリア。くすくすと笑っていた。
「お前な……」
そんなやりとりを見て、子供は笑い続ける。
不思議な子供にヴァルターは尋ねた。
「お前は何者だ?」
「あーぅ?」
「バカね、子供にわかるわけないでしょ?」
「だぁ!」
子供はとにかく喜んでいる。
「せめて名前でも手がなりない?」
尋ねるアリアにヴァルターは辺りを見渡した。
「と言われても…手がかりなんて…」
ふいに子供が入っていたポッドの底が目に入る。
歴史学者ではないので詳しくはわからないが、古代文字でリオと書かれていることだけは読み取れた。
「リオ?」
「あい!」
読み上げたヴァルターに子供は応えた。
どうやら名前はこれであっているらしい。
「……ってことは古代人?」
子供の顔を覗き込んでアリア。
確かに普通の人とは違う魔力反応は感じたがそれだけだ。どこからどう見ても普通の子供だ。
「実在したのか…」
顎髭をなぞりながらヴァルター。
だとしたらまずい。
歴史学者や研究者はこぞってこの子供を欲するだろう。研究材料として。
傭兵としてはあってはならないことだが、アリアが抱きしめ、パパ、ママと呼ばれ、腕を伸ばされ、笑い声を聞き……すでに情が湧いてしまった。
モルモットにされると分かっているのに引き渡すことなどできない。
「アリア…」
真剣な声でヴァルターは彼女を呼んだ。
「なあに?」子供をあやすのに夢中になっていた彼女が振り向く。
「………家族にならないか?」
「はぁ?!」
呟くようなヴァルターと反対にアリアは声を上げた。
腕の中でリオが目をまんまるにしている。
「あ、アンタ、な、何言ってるのよ!?」
真っ赤になって動揺するアリア。
10年近い付き合いではあるが、そこに恋愛感情があるかと言われれば微妙なところだ。
そうでなければ共に野宿などできない。
それを見てヴァルターも自分が言ったことを思い返して赤くなった。
「い、いや、そう言う意味ではなく…」
「はあ?意味なく言ったの?!」
「いや、そうでもなく…」
ーーーリオを守るために、協力してくれないか?
「そ、そうならそうって早く言ってよ!」
真っ赤になったまま、アリア。
「まーま?」と不思議そうにアリアの頬を触っている。
「勘違いしないでよ!リオのためだからね!」
「それでいい、感謝する」
短い言葉で返したヴァルターだが、耳は真っ赤だった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
兎にも角にも。3人は遺跡をでて街へと向かった。
リオの服、そして日用品、揃えなければならないものが多い。
「いらっしゃいませ」
「すみません、子供服、見たいんですが…」
交渉担当はいつもアリアだ。
ヴァルターは不器用で正直だ。
下手に対応して荒事になってしまったことも少なくない。
対してアリアは、愛想がよく機転も効く。
誰にでも笑顔で話しかけては、友好的に話を済ませてくる。
そんな彼女の笑顔を見ると、ヴァルターは胸に靄がかかったようになる。
ヴァルターはリオを抱えながら、複雑な気持ちで見守っていた。
「可愛いお子さんですねー」
ふいにヴァルターは店主に話しかけられた。
頼みの綱のアリアは真剣に幼児服を吟味していて気づいていない。
「……ああ」
「お名前は?」
「リオだ」
ぶっきらぼうになってしまったが、店主は笑顔のまま……ではなかった。
よく見れば、営業スマイルなのが見てとれた。
「なにか?」
「いえいえ、あなた、傭兵でしょ?」
とても一児の父親には見えない…声には出していなかったが、目が、そう語っていた。
「ぱぱ?」
不思議そうにリオ。ヴァルターの頬をペチペチと叩く。
「おやおやおや」と店主はわらった。
「お子さんは懐いてるようで…」
「すみません…旦那がなにか?」
その時、やっとアリアが気づいた。
「いえいえ、お子さんがあまりにも可愛かったので…」
「よく言われるんですよー」
自慢の子なんです、とアリア。
そして、リオに「ねー?」と声をかけると、リオもきゃっきゃと声を上げて笑った。
その言動はまさに親バカ。
「これとこっちと…これください」
「はい、まいど」
どうにか乗り切った。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
店を出て、宿に入る。
先ほど怪しまれたことも考慮に入れ、ダブル一部屋だ。
「なんで」とヴァルターがいうが、傭兵が下手に子供を連れて歩いていれば誘拐にしか見えない。さっきもそれで疑われた。
これで部屋を別にしようものならより怪しい。
そもそも「なんで」と言いたいのはアリアも同じだ。
「いいヴァル。今からいう設定を頭に叩き込んで」
眠ってしまったリオをベッドに寝かせ、ヴァルターの鼻頭に人差し指をら突きつけてアリア。
「私たちは元傭兵の夫婦。これから国境沿いの私の実家にリオを見せに行く、いい?」
ヴァルターはうなづいた。
「お前の親にも挨拶しないとな…」
「設定って言ってるでしょ!」
本当は行く宛などない。
だがリオが眠っていた遺跡に近いこの街は早めに離れなければならない。
だが幼児がいるので野営や強行軍は避けたい。
難しい。
「……分かった」
それを聞いてアリアは胸を撫で下ろす。
「で、今夜はどうする?」
そして尋ねた。
ベッドは一つ。
3人ーーーリオは体が小さいので実質2人で寝るには十分な広さはある。が、どうにもアリアには抵抗があった。
「別に気にすることもないだろう」とヴァルター。
「夫婦、なんだろ?」そしてニヤリと笑う。
次の瞬間、ヴァルターの顔面に枕が飛んだ。
それが彼ら家族の始まりの話だった。
続くのじゃ




