64 祭りだ祭りだ!特に嬉しくはないぜ!!
「いらっしゃいませこんにちはー!店内ごゆっくりご覧下さいませー!!」
一斉にお会計に来られるとレジが混んで混んで追い付かないので、出来るだけグルグルと店内回ってバラバラにレジに来て下さいませー!
「ああアリ様、この度は私達の願いを聞き入れて下さりありがとうございます!いくら女神様のご慈悲とは言え、崇高な魔術具を対価も払わず使わせて頂いていたのは、誠に誠に遺憾の想いでしたのです!」
「あー、そうなんですか…レジ袋は別に魔術具ではないですが……なんかすみません……」
買った物を入れて持ち帰るだけのレジ袋に、デュッセニーの魔術具みたいな便利機能は付いてないのに。『レジ袋=魔術具』は、もう覆りそうにないね、困ったなぁ。
明らかに必要以上に袋を買いまくり、袋代だけで600ミオンを支払った、レジ袋有料化第一号の長老さんのお会計を終えてから。
長老さんがささっと伝書鷹を使って今日から有料化の開始や値段等を細かく丁寧に、エルフの里に連絡を入れてくれた。
私が以前書いた日本語の手紙でも、今長老さんが書いた異世界語の手紙でも、どちらも同じように反応し読み上げてくれる伝書鷹さんは、喧しいけどけっこう便利な魔術具だ。喧しいけど。
そしてその後。
レジ袋の中に未使用の袋を大量に詰め込むという異常なお買い物をしてとても満足そうな長老さんが、それでもなんだか名残惜しそうに帰路に着いたのと入れ替わるかのように。
テロリロテロリロテロリロテロリロ
オープン初日を思い出させるような、四、五十人超大所帯のお客様が一気にご来店されたのだ。
「いらっしゃいませこんにちはー!いらっしゃいませーー!!」
ああ、いらっしゃいませが追い付かないこの感じ、一週間しか経っていないのになんだか久しぶりだ。一週間前のオープン日以降は、私がお願いしていたのもあって、こんなに一気にご来店されることがなかったからなぁ…
そして。
「アリ様こんにちは!!いよいよアリ様のお店の魔術具にお金を払わせて頂けるのですわね!!なんと有り難いことでしょう!!」
「あああアリ様、僕たちのような者の戯れ言を快諾して下さり誠にありがとうございます!!もう嬉しくて嬉しくて!!」
「おおおアリ様女神様……感謝致します……」
入店されるお客様一人一人が、やたら丁寧に感謝の意を述べてくれている。なんかドアの前でひざまずいて祈りを捧げてる男性までいる。入り口前で座ってたら邪魔ですよ。
これを聞くに、みんな始まったばかりのレジ袋有料化が待ちきれなくて、我先にとやって来てくれたみたいだね。
余計なお金を払うのがそんなに嬉しいのか…毎日コンビニで買い物しまくってるお金持ちさん達は流石だなぁ…
それにしても未だ訂正される気配もないね、私の女神様設定は。私はただのコンビニ店長(仮)なんだけどなぁ……
「お品物お預かり致します!えーっと……本日よりレジ袋が有料となっておりますがご利用ですか?…ありがとうございます!あー、一枚30ミオンとなります!!」
一通り入店祭りからの挨拶祭りからの感謝・賛辞祭りを終えたら、次はレジ接客のターンだ。
納品が一週間近く来ていないのに売上が上がりまくっているおかげで、当店の在庫は僅かな加工食や冷凍品、日用品、あとはカウンター回りの揚げ物やコーヒーとかしかない。
電池や充電器や煙草とかは邪魔になるほどあるんだけど、異世界で売ってても仕方ないとか体に害らしいから異世界に広めたくないとかの理由で、お客様に聞かれても売り物じゃないって断っちゃってるんだよね。
もし日本でこんなカス在庫の店があったら一発でSMSで晒され本部に怒られ下手したら閉店までいくかもしれない。ああ、ここが異世界で良かった…
話が思いっきり逸れたけど、そんな在庫カスでスカスカな陳列棚を縫うようにして、それでもお客様は各々商品を選んで下さり、順番にレジに並んで下さっていた。この一週間で商品を憶えてくれた方も多く、商品PRの必要もほぼなくなっていた。
おかげでレジに集中できる。なんせ言い慣れていない台詞が格段に増えた、ぶっつけ本番のレジ接客祭りをこなさねばならないのだから。
そうして多少もごもごしたレジ接客祭りをこなしていく内に、段々と改善点が出て来て、改善祭りが始まったのだ。
実践大事。事前に色々と想定してても意味ない事もあるんだね。
「いらっしゃいませお預かりします!……本日よりレジ袋が有料となっておりますがご利用ですか?一枚30ミオンです!」
「アリ様、大丈夫です!僕たちはみんな、魔術具に対価を払うのが目的です!お尋ね頂かなくても、全員お金を払わせて頂きますよ!お値段も承知しております!」
「いやぁ接客用語をおいそれと省略するのも……ああでも、たくさんのお客様にお待ち頂いても事実ですし……ではとりあえず今だけ、皆さん袋を購入される前提で、省略させて貰いまーす!!もし袋いらない方がいましたら、レジの時仰ってくださーい!!」
後ろで並んで下さっているお客様の列に届くよう、後半の台詞は大声を響かせた。
ちなみにその後のレジで、袋を断られた方は誰一人としていなかったし、皆さんルンルンと嬉しそうにお金を出していた。
聞くべきことを聞かないのはなんだか落ち着かないんだけど、問い掛けが多少減ったことでレジのスピードは上がったので結果オーライだ。
「いらっしゃいませお預かりします!…はい、チキンひとつですねありがとうございます!!温かいチキンとお飲み物、袋お分けしますか?」
「ええ、いいんですか?!!……ああアリ様、ありがとうございます!女神様直々に二倍のお支払いをお許し頂けるなんて…なんて素敵なことでしょう!」
「二倍?……あーそっか、袋分ける時のことまで考えてなかったです…うーん……既に一枚分ご購入頂いているので、二枚目は無料でもいいんですが……」
さっきの長老さんのお会計の時は、本人が袋自体を買いたいというので特例で20枚分のお金を頂いたけど、それと今回は状況が違うし。温かい物は袋分けないといけないなんて常識だし、それにまでお金を貰うのも……
「そんな罰当たりな!勿論、二倍の魔術具代を払わせて頂きますわ!!」
「えー……まぁ言い争うのもアレですし……じゃあとりあえず今は、袋分ける時もその都度お金を頂くということで……」
何故か無駄なお金を払いたがるお客様の圧にまんまと押し切られて、現状は袋を分ける際に二枚分の値段を頂くことにした。
なんか昨夜の夢のクレームがデジャヴしてるけど、異世界ではクレームどころかお客様たってのご希望となっていた。
これ以降、ホッターズと飲み物やアイスを同時に買って二枚分の袋代を支払う方が急増したんだけど、さてなんででしょうね。
「ありがとうございましたまたお越し下さいませー!!……げほっ……」
怒涛のレジ祭りをなんとか乗り越える頃には、『レジ袋30ミオン』が私の中の常識として、すっかり定着してしまっていた。
無料サービスを勝手に有料に変えるなんてとんでもないって今朝は思ったけれど、実際やってみると悪くはなかったかもしれない。お客様があんなに喜んでくれるのは本当に驚いた。……まぁ魔術具だという認識のおかげだろうけど。
デュッセニーで営業していく間は、このままレジ袋有料のままでもいいかな?
こうして、入店祭りからの挨拶祭りからのレジ接客祭りからの改善点祭りは、私の体力と喉と大量の商品とレジ袋の在庫を犠牲にして、ようやく終わりを告げた。レジ袋だけで2,000ミオンは軽く儲けちゃったんじゃないかな……?
ああ…疲れた……頑張ったよ私……
「む……う……」「むにゃ……うー……?」
そういえばこの盛大で騒々しいお祭り状態の中でも、全く起きずにずーーーーっと寝てましたね、リーリャさんとアンジェちゃん。もう日が暮れますよ。
夏から引っ張り続けてきたレジ袋有料編も、今回でやっとおしまいです。
次回からはプチ番外編として、エルフの里からお届けします。




