63 コンビニ本部の企画部って実は強メンタルなのでは。
コンビニのレジ商品登録って、ただスキャナーをピッとするだけだって思ってませんか?
まぁ大半はそうなんだけど、例外もある。
バーコードが付いていないが為に、店員さん側のタッチパネルでポチッとタッチで登録する必要がある商品もあるのだ。
具体的にはレジ横のホットスナックや中華まん、おでん、カウンターコーヒーなんかだね。あ、あとは切手や金券類もか。
店員さん側のレジ画面を詳しく見てみたいという方は、最近増えてきたセルフレジを利用してみるといいと思うよ。あれって店員さんが使っているのと大体同じらしいから。
田舎育ちの私は実物なんて見たことないけど。
他にも、値段と商品ジャンルを手打ちして商品登録する方法もある。販売商品データが明確に反映されないから一時しのぎ的な方法だけど、意外と役立つ時もあったんだと思い知った。
半値商品を売る時とか、急にレジ袋を有料に変更した時とかね。
「…てな訳で、とりあえずレジ袋は一枚30ミオンで手打ちしよう。元々売り物じゃないからバーコードも商品データも何もないし、レジの金額だけ合ってればいっか。」
ゆんわりふんわりと適当に、レジ袋有料化計画は始まった。
「…さて、システムを決めたら次は告知だね……」
一般的に、新システム導入日の二、三週間前に従業員向けのお知らせが来るし、必要な場合は一週間前くらいにお客様用のお知らせが納品される。
それくらい事前の告知というのは重要なのだ。
周知不足でトラブルやクレームが来たらたまったもんじゃないし。今朝の夢みたいに。
「よし、今日からお知らせ始めて、実施は来週からかな!」
「おやアリ様、魔術具有料化の件はお決まりになりましたかな?丁度良かったです、ではこの私が有料化第一号の客にならせて頂きましょう!!大丈夫です、研究資金はまだまだありますぞ!いやぁ光栄ですな!!」
「あ、長老さんまだお買い物されてたんでしたっけ…」
すいません、あれからけっこう時間経ってたんで忘れてました。しかしまぁ、中身パンパンの重たいかごを持って小一時間も立ちっぱなし歩きっぱなしでよく疲れませんね、すごい。
今は他にお客様がいないので、まぁイートインでぐっすり寝てる姉妹はいるけど気にせず放っておくとして、重たそうなかごを一度レジでお預かりしてレジ越しに対話する。お会計は後回しだ。
「とりあえず、あれこれ一気に有料化するのは止めて、まずはこの袋から値段を付けさせて頂くことにしました。お値段は袋一枚30ミオンで、勿論袋を買わずに、ご自分で袋をお持ち頂いたり直接手に持って帰られても大丈夫です。袋が必要な方だけ、代金を頂きます。……えーっとそれから、あ、袋のサイズ色々ありますけど、めんど…じゃなくて分かりやすくする為に全サイズ同じ値段にします。」
考えながらしどろもどろ、文法も文脈もハチャメチャな状態で説明する。
完全オリジナルの策を説明するのってこんなに緊張するんだね。
今までコンビニ本部の施策を横流しで使っていただけだから知らなかったよ。
「ふむぅ……」
しかし私のドキドキとは裏腹に、長老さんは喜怒哀楽を全て溶かして混ぜて練り込んだかのような、なんだか難しい顔をしていた。
たしか500ミオンだったかの、長老さん達の案の十分の一以下の値段だもんね。安すぎるとか思ってそうだなぁ…
「30ミオンですか…レアな魔術具の値段としては安すぎますね…」
ほら、やっぱり。
「アリ様、失礼ですが収支計算は大丈夫ですか?アリ様はお優しいですから、我々客の為にお値引きをして下さっているのかもしれませんが、アリ様が破産してしまってこのお店が無くなってしまうのは元も子もないのです。」
「いえ、優しいなんて……」
私なんて、自分が故郷に帰る為に勝手に異世界で商売始めただけの人間ですよ。
「えっと、ご心配ありがとうございます。…ですが、コンビニの備品はそもそも魔術具じゃないですし…原価だって、たしか千枚で1500円から2000円くらいです、サイズによりますけど。ですから30ミオンでも十分元が取れます。本当は3円とかでも全然いいです。」
今ここで発注タブレットが起動できればちゃんと原価も確認できるんだけど、ベル君の魔具、《トイキャム》を借りないとタブレットの電源すら付かないからなぁ…
正確な数字に関しては曖昧な記憶で話を押し進めるしかない。
「私は何も、レジ袋で利益を得たい訳じゃありません。ほんとは無料のままでもいいと未だに思ってるくらいですし…それにコンビニとして営業していく以上、コンビニ本部の企画やコンビニの前例には従っていたいのも事実です。ですが、異世界でたくさんのお客様にお買い物して頂き、貴重なご意見も頂きました。それらもちゃんと大切にしたい。コンビニらしさとお客様のご意見と、両方を取り入れたい。……レジ袋を安価で販売する。これが私なりの、精一杯の、新しい試みへの第一歩なんです。」
我ながら大分自己中な事を言っている自覚はあるけれど、余所者を優しく受け入れてくれた長老さん達には失礼になるかもだけれど、それでも曲げられない思いを最大限詰め込んで声に出した。
自分の決意の強さを眼力に乗せて、レジ越しに対面する長老さんを真っ直ぐと見つめる。決してガンを飛ばしてる訳じゃありませんよ。真剣さを一生懸命アピールしてるんですよ。
どうやらそのアピールは無事通じたらしい。
「…そうですか。分かりました。いやぁアリ様は意志がしっかりしてらして素晴らしいですなぁ!私も見習わなければいけませんな。」
「いえ、ただビビりなだけです…」
長老さんは、ふにゃっと力の抜けたような笑みを向けてくれる。その笑みが、押し隠していた私の本音を喉元まで引き上げた。耐えきれずに俯いてしまう。
あんなに偉そうで熱意のありそうな事を言ったけれど、実際はただ臆病なだけなのだ。
オーナーの母さんやコンビニ本部の保証も助けも何もない中で、自分の力だけで新しい試みを始めるのが怖いから。何か問題があった時に、自分では責任を取り切れないと分かっているから。
だから、自分が慣れ親しんだ、確かな実績のある今までのコンビニスタイルに固執しているだけなのだ。ただ、それだけ。
まぁこんな弱音、誰にも言えないけど。ゴクっと唾と一緒に弱音を飲み込み直した。
「では袋は全サイズ一枚30ミオン。その他の魔術具の有料化は後々ゆっくりと実施していくということで……実施は早速今からで宜しいですかな?それとも何か準備が必要ですかな?私がお貸しできる魔術具などがありましたら、全力で協力致しますぞ!!」
長老さんの声が、ネガティブってた私の意識を引き戻してくれた。ハッと顔を上げる。
「あっ、はい、それなんですけど、お客様に何もお知らせせずにいきなり値段付ける訳にもいかないと思うので……まずは今日からちょっとずつ皆様にお知らせしなくては……POP…は論外だから口頭ですかね……」
長老さんの説得は無事なんとかなったけど、レジ袋有料化計画はまだまだ道半ばなのだ。弱音吐いてる場合じゃない、もっと頑張らなきゃ。
「ああ、それなら問題ありませんよ!前々から里の者達は全員、『魔術具のお金を払うべきだ、お金も払わずにアリ様のご厚意を受けていることは申し訳ない』と申してましたから。いやぁ、私も以前からアリ様にご提案しようしようと私も思ってはいたのですが……こちらへ来るとついお買い物に夢中になってしまいましてな…お恥ずかしい限りです。」
「あ、そうだったんですか…」
てっきりリーリャさんとアンジェちゃん発の有料化案だと思っていたら、エルフの里皆さん全員発だったらしい。
まぁデュッセニーの皆さんからしてみたら、むしろサービスが無料の方がおかしいっていうのが常識なんだろうね。
「ですから我々は皆、魔術具有料化に賛成ですし、いつ実施されても心と資金の準備は出来ております!アリ様、《ヴァルファルジィーク》をお借り出来ますか?お貸ししてましたよね?対の鷹は秘書が管理しておりますし、私が直ぐに里に知らせれば、今日から開始でも全く問題ありませんぞ!!」
「《ヴァルファ……》……あ、伝書鷹のことでしたっけ……そういえばそんな便利なのありましたね……」
今日から時間をかけて、お客様一人一人に口頭で丁寧に説明する気だったけど…そっか、伝書鷹を使って直接エルフの里に伝えれば良かったんじゃん……魔術具の存在自体をまるっとすっかり忘れてた。
「これで問題は全て解決ですぞ!では《ヴァルファルジィーク》を使う前に、まずは私のお会計からお願いします!!勿論、袋代はお支払いしますぞ!!さあさあ!!!」
グイグイと圧の強い長老さんのお会計を以て、当店のレジ袋有料化が正式にスタートした。
それにしてもここまで長かったなぁ……
現実世界では政府が決めてコンビニ業界はただ従っただけのレジ袋有料化ですが、異世界で自分で一から制度を決めて導入しようとすると、こんなにも文字数や話数を使うのかと、書き上げた作者自身が一番驚いてます。




