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56 近くて、便利。

「コンビニって良いわよね。毎週色々な新商品が出てて、いつも売り場を見るのが楽しいのよ。」

以前に日本の常連様から仰って頂いた言葉だ。発注を覚えたての私にとっては嬉しい言葉で、半年経った今でもよく覚えている。


コンビニでは毎週火曜・水曜に食品のほぼ全ての売り場で何かしらの商品がデビューしている。

毎週毎週売り場を作り品出しをする店員側からするとこれが結構な大仕事だったりするんだけど、毎週売り場を探索するお客様からすると結構楽しいお買い物時間となっているんだと気付けた一言だった。


「やっぱり変わり映えのない品揃えはつまんないもんね。新商品や期間限定って魅惑だし……ねぇ、そう思うよね、ベル君?」

「知らないよ、ボクは。それより早く《トイキャム》返してくれない?早く戻りたいよ。ちょーろーだって怪しんでたんだしさ。」

「あ、うん、分かってるよ。もうちょっと待って……」


夜も更けたデュッセニーの深い森の中で、ぽつんと明かりを灯す『カインマート鈴浦店(当店)』の中。

本日の営業も既に終えて自動ドアも閉め切った店内には、レジカウンターの上に行儀悪く腰掛けるヴェルなんとか君ことベル君と、彼に急かされながら発注タブレットをいじる私の姿だけがあった。



「それで?怪しむちょーろーには何てごまかしたのさ?あんまり余計なこと言われてもボクが困るんだけど。」

「…え?あぁ、それね……」

慣れ親しんだ姿勢でカウンター前に立ち、脳と手の大半を見下ろす発注タブレットに費やしながら、僅かに残った意識と口でおざなりに返事をする。


「もう、ほんと大変だったんだからね?ベル君が始めから全部教えといてくれたら良かったのに…」

「別に言わなくても問題ないって思ってたんだよ。まさかあのちょーろーがそこまでカンがいいとは思わなかった。……昔はあんなんじゃなかったのにな……いや、ボクを見つけた時からあんなんだったか……?」


「ん?なんか言った?ごめん、こっちに夢中だった。」

「気にすんな。早くそれ終わらせて《トイキャム》返せ。それとちょーろーとのこと、説明しろよ。」

急かす割には邪魔もしてくる、困った子だ。まぁ、ベル君には多大なる恩があっちゃうからね、文句言えないし仕方ない。


「…分かったよ。長老さんね、ここに来る前からなんとなく予想してたみたいだよ?」

顔を上げず視線はそのままに、口だけを動かし始める。集中して発注してないと昔からすぐミスっちゃうんだけど、まぁいっか。

今やってる発注は加工食とお菓子だし、最悪ミスって過剰に取っちゃってもハケるでしょう。主に今話題の長老さんの力で。




「アリ様、我らが初めてお邪魔した日の事を覚えておいでですかな?」

重たそうな六つのレジ袋(戦利品)は一旦テーブルに置いておいてイートインを我が物顔で独占する長老さんが、神妙な顔をしてテーブルに肘を付きつつ切り出した。長老さんの座高が高すぎるからテーブルがちっちゃく見える。

「あ、はい。まだ一週間も経ってませんし。」

記念すべきオープン初日だったし、何より色々とトラブルや感動もあったからね。忘れようにも忘れられないよ。


「改めまして、あの日はお約束を守れず申し訳ありませんでした。自ら言った時間に遅れるなど…アリ様にもご迷惑をおかけしてしまいました。」

「いえ、そんな謝らないで下さい。お客様にご来店頂けただけでも有り難いです。もっと気楽に来てください。身近で便利なのがコンビニです。」



これは私の勝手なイメージなんだけど、コンビニって『よし、今から行くぞっ!!』って着替えてメイクして気を張って出掛けるものじゃないと思うんだよね。

何かのついでに『あ、ちょっと寄っていい?』っていうオマケくらいの気軽で緩いくらいがちょうどいいと思う。

一日のちょっとしたスキマ時間を埋めるくらいの微力な存在でいいと思うんだ、コンビニって。


「…なので、しっかり来店時間を決めたり、一日中コンビニで過ごしたりしなくても大丈夫です。思い立った時にフラッと寄って下さるだけでも私は嬉しいです。」

まぁ現状でこれに該当するのはもう長老さんだけだったりするんだけどね。他のエルフ様達は滞在時間も短いし買う量も数点だけになってきたし。


「…アリ様……今度からは私も気楽に通いつめることにします!」

「え、ああ、ありがとうございます。」

頑張って言葉を選んで伝えた私のコンビニイメージは果たして伝わったのだろうか。

まぁ私の勝手なイメージを押し付ける訳にもいかないし、お客様の買い物スタイルは自由だし。気にしなくていいか。



「で、そのオープン初日が何でしたっけ?すみません、余計な事言って脱線しちゃって。」

「いえ、構いませんよ。実はその日ここに来るまでに、色々とトラブルがあったのです。いやぁ大変でしたよ、長年住み歩いた森なのに。」

「そう言えば前もそんなこと言ってましたっけ…。何があったんですか?」

私が外の森を歩いたのは異世界転移初日だけではあるけど、そんなに危険な森ではなかったと思う。

樹の根や土で固められた地面が歩き難くはあったけど、幸い獣には会わなかったし、魔物や他の種族さんはいないらしいし。


「森の樹々が我々に向かって倒れてきたり、大岩が転がって来たり、本来生息していないはずのトラが襲ってきたり、道中の平野に謎の崖が出来ていたり……いやぁ大変でしたよ。各所のダンジョンを冒険していた昔を思い出しました。今までそんな物はなかったはずなんですがねぇ。」

「え?そんな過酷な道程なんですか?!皆さんよく無事でしたね……」

まさかお客様方が、コンビニに来るまでにそんな大冒険をしていたなんて。全然『身近で便利』じゃないじゃん。


「いやぁ、なんとかなるものですな。特にみな大ケガもなく乗り越えられました。リーリャなんかは、珍しいアトラクションが出来たと喜んでおりましたぞ。」

「いやその反応もどうなんですかね…?でも、お怪我がなくて良かったです。」

恐るべし、エルフの戦闘力と適応力。例え道中が大冒険でも、屈する所か喜んじゃうんだ。


「…てかもしかして、今も毎日そんな危険なダンジョンロードを通って来てるんですか?」

コンビニ行く為だけに毎回大冒険してたら、マジで『身近で便利』とか言ってられないじゃん。

もし本当にダンジョンロードだとしたら、お客様に気軽にご来店くださいなんて言えないし、私も怖くて外出できなくなるんですけど?まともに外出してないけど!


「ええ、まぁ、それはですねぇ……」

変にしどろもどろな長老さんの態度が、私の不安を更に煽る。

あれ、マジで外に出掛ける時は大冒険を覚悟しなきゃいけない感じですか??

今回亜里が語った気軽なコンビニの理想図は、STAY HOMEの現在は当てはまらない場合もあると思います。時短営業したり納品数を極端に減らす店もあるそうです。

しかしその反面、通常通り開いている店舗も多いので、コロナ対策をしながら無理をせずお気軽にご利用下さいませ。

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