57 私の元気。
「アリ様、不思議に思われた事はございませんか?何の前触れもなく、何故急に我々が少人数ずつお邪魔するようになったのか。」
「え?だってそれがコンビニらしい在り方だから普通なんじゃ…?あれ?でもそれは日本の常識でデュッセニーで通用する訳なくて……?もしかしてお客様の誰かにお願いとかしてましたっけ…?どうでしたっけ…?」
接客用語の合間合間に、商品PRをしたり少し雑談をした記憶はあるんだけど、具体的に自分の口が何を言ったのかまでは流石に覚えていない。
『いらっしゃいませこんにちはー』と『ありがとうございましたまたお越しくださいませー』を一番多く言ってたという自覚しかありません。
「アリ様からは何も伺っておりません。我らの身勝手な事情でそうせざるを得なかったのですよ。客が長時間に渡って出入りし続けるなど、お一人でお店を守るアリ様にとってはご負担が大きいでしょう。申し訳ありません。」
「あ、いえそれは普通のことですから、謝らないで下さい。」
まるでタイミングを合わせてんじゃないかってくらい、お客様が途切れることなく出入りするのはコンビニあるあるである……らしい。当店にはあまり関係がありませんでした。
そもそも来客があるだけでもとっても有り難いことだし!!文句なんて言ってられないよ!
「で、その事情って…?」
「はいっ!それがですね!!!ついに成功したのですよ!!いやぁ、アリ様のご協力のおかげです!詳しく説明するとですね…まずは半世紀前の私の研究が始まりでして…」
あ、これ聞かなきゃ良かったやつだ。急にイキイキと饒舌になる長老さんの姿だけで察したよ。
これ、長丁場の魔術具講義のパターンだ。
案の定、長老さんの長い演説はとある一つの魔術具に関する事で、その長さと言ったら、普段仕事で立ち慣れている私が耐えきれずに着席をお願いしてしまった程だ。もうお外真っ暗ですよ。
「しかしまぁ、あの不気味な右手がそんなに万能な物だったとは…」
そう、長老さんの言う事情とは、この店に帰ってくる時に私も使った…というか実験台にされた、美術室の石膏の右手こと《セグナシェス》の事だった。
「いやぁ、元々は小包程度しか送れなかった物ですが、研究と実験を重ねていく内に、五名程の送迎と行き先の登録、更には送迎時間の大幅短縮にまで成功したのです!今では片道半刻ほどで到着するようになりました!やはり魔術具は奥が深いですなぁ!!」
その最初の実験に使われた私は、片道二日もかかった上に、なんか天国の光とかも見えて死にかけたんですけどね。
「じゃあ今は皆さん、危険なダンジョンロードを使わずに安全快適に当店まで通って下さってるんですね。それなら良かったです。」
ご満悦な長老さんに水を差すのもアレだし、お客様が無事に来店して買い物してくれれば私もご満悦なので、人体実験の件はもう水に流しておこう。
「しかしまぁまだまだ改善の余地はありますがね…《セグナシェス》自体の持ち運びは出来ない為こちらからの帰りは里側で誰かが《セグナシェス》を使わねばなりませんし、出来るなら一度に運べる人数ももっと増やしたいのです。まだまだ精進せねば。」
「ええと、頑張って下さい。……それで…」
どう相槌を打てばいいかもよく分からないのですっぱりと話を変えてしまおう。私は早く済ませてご飯を食べたいんだ!!
「結局、長老さんの本題って何でしたっけ?なんか大事な質問があるんでしたよね?」
「おや、随分話が逸れてしまいました。すみませんアリ様。私の悪い癖ですな…」
「いえ、大丈夫ですよ…」
長老さんの魔術具マシンガントークにも慣れてきたしちょっと諦めも付いてきたので。
「先程挙げました道中のトラブルの数々の件ですが、アレは自然的又は偶発的に起こったものではありません。作為的な工作あってのトラブルなのです。」
「え…?崖作ったりトラ召喚したりが人間の出来る事なんですか…?どんな魔法なんですか…?あ、いや、もしかして魔術具使えば天変地異な魔法も出来ちゃうんですか??」
テレポート的な魔術具が大活躍しちゃうような異世界なんだ。トラがやって来ちゃったごときで驚いてちゃいけないのかもしれない。
「いえ、そのような強力な魔術具は普通、世に出回っているはずがありません。魔術具とは本来、日常生活を支えるだけのちょっと便利な道具に過ぎません。地形や生態系を丸ごと変えてしまう魔術具なんて今ではあり得ないことなのです。」
「はぁ、そうなんですね…」
すみません、私からしたら今まで見てきた魔術具だって十分に凄いし、人間やエルフを送迎する魔術具とトラを連れて来ちゃう魔術具の違いも分かりません!
私の中ではもう『魔術具=万能な魔法道具』という、まるで何処かの青いタヌキさんのような認識となっています!
まぁ長老さんが言うのなら、今後は『魔術具=便利なお助け道具』という認識でいるべきなのかな。
「いいですか?そもそも魔術具の歴史とはですね…」
「あー、いや、長老さん。その講義はまた今度でいいですから!今は本題を進めてください!話が延びていつまでもテーブルにほったらかしだと、せっかく買って下さったゼリーやチルドドリンクの味が落ちちゃいますし!!」
「おや、これは失敬。」
いつの間にか椅子から離れ狭い狭いイートインをぐるぐる回って授業を始めようとする長老さんを、我ながらよく分からない理論で押し止めて話を促す。ついでに着席も促す。
高身長マッチョさんがうろちょろするようなスペースは、当店イートインには設けられておりません!
「普通はあり得ないけど、実際に天変地異は起きてたんですよね?もしかしてそれも長老さんの魔術具研究の成果だったりするんですか?その成果を自ま…じゃなくて報告して下さるのが本題ですか?」
「いえ、私ではありません。確かに似たような研究も続けていますが、残念な事に全く進歩がないのが現状なのです。」
「へぇー……魔術具って、出来る出来ないの差がよく分かりませんね……何でも出来る訳じゃないと…」
「そういう物ですよ、魔術具は。我々が今使える物など、太古の魔術具と比べたら玩具のようなものです。そして太古の物でしたら、今回起きた事象の数々も実現できるでしょう。それ程の力を秘めていたと聞きます。」
「じゃあ、誰かがその太古の魔術具を使ったんじゃないですか?今も存在しているのならですけど。」
完全に今、私の発音が『太古』じゃなくて叩く方の『太鼓』になってたなぁ。どうでもいいなぁ。お腹空いたなぁ。
はい、もう集中力も切れてきています。
「はい、その通りでしょう。とは言っても、かなり大昔の魔術具なのでもうほとんど現存していないはずですし、使い方を知っている者がいるとも思えません。」
「じゃあ太鼓路線でもないんですね…だんだん訳分かんなくなってきました……」
どうやら私にはロジックは向いてないらしい。聞いた傍から話が抜けていく。
「ただ、一人だけ心当たりがあるのです。その者がこちらにお邪魔したかどうかを、アリ様にお聞きしたかったのですよ。」
「あ、もう犯人分かってるんですね…どちら様でしょうか…?」
当店のお客様だとしたらエルフの里の皆さんしかいないけど、名前とかで聞かれても誰だかちゃんと分かるかな?人と物の名前、つまりは固有名詞を覚えるのは超苦手なんだけど。
そして口には出さないけれど、本題に行くまでが長過ぎじゃないですかね、長老さん?!
ひたすら会話が続くだけの回でした。次で魔術具だらけ会話だらけは一旦終了です。




