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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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奥多摩ダンジョン



 剣をかわしたリザードマンの尾が、低く地面を薙いだ。


 大河は追いかけようとした足を引き、尾が通り過ぎるのを待った。踏み直して剣を返すと、魔力刃が横腹へ入る。相手が槍を引き戻す前にもう一度斬り、倒れる身体から離れた。


「……その尾、結構嫌ですね。腕と脚だけ見てると、下から来るんで」


【初戦から足払い】

【人間より一本多いからな】

【奥多摩来た!】

【今日から泊まり?】


「はい。何日か潜るつもりで来てます。食料も水も持ってきたんで、あとは俺がちゃんと道を見つけられるかですね」


 大河は笑い、奥へ続く通路を見た。


 奥多摩ダンジョンの一階層だった。入口から続く道は岩に囲まれ、壁際には水の染みた跡がある。ただ、今いる場所の地面は乾いていて、足を取られるようなところもなかった。


 倒れたリザードマンへ目を戻す。


 鱗に覆われた身体に、細長い口。二本の脚で立ち、槍まで使う。蜥蜴を相手にしているようにも、人を相手にしているようにも感じられた。


 見た目が違えば、動きも違う。


 魔石を回収する間も、大河は先ほどの尾の動きを思い返していた。


 藤堂たちの戦闘記録を見てから、六日が経っている。


 予定していた探索を終え、ギルドでは奥多摩へ潜ったことのある探索者にも話を聞いた。物資を補充し、装備を点検してから、今日の出発を迎えていた。


 身体も十分に休めてきた。最近の探索でレベルは六十六まで上がり、以前より楽に動ける場面も増えている。


 それでも、初めての相手へ近づく時には、剣を構える手に自然と力が入った。


「上層のうちに、こいつらの動きを覚えておきたいですね。中層へ入ってから、尾を忘れてましたって転ぶのは嫌なんで」


【今のちゃんと止まったな】

【槍の間合いは悠真くんで練習済み?】

【水あるところからが本番だぞ】


「槍は見てますけど、悠真は尾で足を払ってこないんですよ。あれまで使われたら、訓練でも文句言います」


 コメントが流れ、大河は笑いながら立ち上がった。回収した魔石を収納し、剣を握り直す。


 まずは、先へ進んでみよう。


 下りる道を探しながら、大河は次の曲がり角へ向かった。


            *


 上層では、槍持ちだけでなく、幅広の剣を使うリザードマンも出てきた。


 尾を振る動きは、武器が違っても変わらない。槍をかわして近づけば、柄で押し返してくることもある。大河は飛斬で先に傷をつけたり、相手の武器を弾いてから踏み込んだりして、一体ずつ倒していった。


 五階層と十階層のフロアボスを越え、途中で食事と休憩を挟む。


 十五階層で待っていたリザードマンリーダーは、大ぶりな鉈を持っていた。通常の個体より太い尾を使い、斬りかかる大河の足元を何度も狙ってくる。大河は無理に追わず、鉈を空振りさせたところへ飛斬を重ね、最後は懐へ入って倒した。


 宝箱の品を回収し、十分に休んでから下りた先で、水の音が大きくなった。


「……おお。こっちは、ちゃんと川みたいになってますね」


 十六階層。


 階段の先には、幅のある水路が通っていた。水は澄んでいるが、底が見えるところと、暗く沈んで見えないところがある。両側に道は続いているものの、岩に遮られ、ずっと先まで見渡すことはできなかった。


 少し進むと、水路が二つへ分かれた。


 一方の道は流れに沿い、もう一方は岩壁の奥へ曲がっている。大河は地図へ分岐を書き込み、まず階段から戻る方の景色を確かめた。


【中層だ】

【水きれいだな】

【底見えないとこ深そう】

【飛び込むなよ】


「飛び込みませんよ。見てるだけなら、ちょっと気持ちよさそうですけど。装備つけたまま泳ぐのは、遠慮したいです」


 大河は水際から離れ、壁に近い方を歩いた。足元の石はところどころ濡れている。靴を置くと、乾いた場所よりわずかに滑った。


 強く踏み込む前に気づけたことに、ほっとする。


 ギルドで聞いた話でも、水路そのものより、水際の足場に注意するよう言われていた。転んだ先が水なら、そのまま落ちることもある。


「なるほどな。速く走れるかより、止まれるかを先に見ないと駄目か」


 歩幅を小さくして進むと、前方の岩陰から、槍を持った影が現れた。


 リザードマンだった。


 上層で見たものより鱗の色が濃い。水際へ片脚を置き、こちらへ槍を向けている。大河は《鑑定》を使い、表示を確かめた。


【リザードマン】

【レベル:68】


 ほかに魔物の姿はない。


 大河は後ろに広さがあることを見てから、剣へ魔力を流した。半透明の刃が、黒い刀身を包む。


「一体ですね。……その場所で待つの、やめてほしいんだけどな」


 リザードマンが低く喉を鳴らした。


 大河が近づくと、槍が伸びた。横へ外し、柄へ剣を当てる。金属が鳴り、大河は空いた胴へ踏み込もうとした。


 尾が動く。


「それは、見た!」


 足を止めずに外へ抜け、肩口へ魔力刃を走らせた。鱗が裂け、血が飛ぶ。もう一撃を入れようと向き直った大河の前で、相手が水路へ身を投げた。


 大きな水音が響く。


 槍も尾も、水の中へ消えた。


「……え、そっち行くのか?」


 大河は水際へ出かけた足を止めた。水面には波紋が残っているが、その下の身体までは見えない。剣を構え直し、相手が沈んだあたりから距離を取った。


【泳ぐぞ、そいつ】

【上層とは違うな】

【水際に立つなよ】

【潜ったまま動けるからな】


「聞いてはきたんですけど、あんなに迷わず行くとは思わなくて。……今、どこだ?」


 水面を追っていると、背筋へ警告が走った。


 大河は顔を上げ、近くの岩と水際へ目を走らせた。沈んだ場所よりも手前で、水が盛り上がっている。


 そこから槍が飛び出した。


「っ、近い!」


 剣を当て、身体ごと横へ逃れる。穂先が防具の脇をかすめ、大河は踏み出した靴が滑るのを感じた。膝を曲げて立て直す間に、鱗に覆われた顔が水面から現れる。


 槍が、もう一度伸びた。


 大河は大きく下がり、今度は乾いた石の上まで離れた。リザードマンは追って上がってこない。細長い口を開き、こちらを見たまま、また水へ沈んでいった。


「……そりゃ、そっちの方が得意だよな」


 心臓が速く打っていた。


 見失った相手が、思っていたより近くにいた。槍を外せても、足が滑れば次を避けられない。上層と同じつもりで追っていたら、あのまま水へ落ちていたかもしれなかった。


 大河は靴の裏を地面へ擦り、剣を握り直す。


「でも、俺がそこで付き合う必要は、ないよな」


            *


 水面を見つめて待つのをやめ、大河は来た方へ戻り始めた。


 壁際に寄り、水路から離れられるところを選ぶ。少し先には、歩いた時に足が滑らなかった、幅のある場所があった。


 リザードマンが追ってこないなら、それでもいい。


 ここで倒すためだけに、相手のいる水へ近づくつもりはなかった。


 歩いている横で、小さな水音が続く。


「……ついてきてるな」


 大河は歩調を変えず、横目で流れを見た。岩の向こうで、水が揺れている。相手の姿は見えないが、先ほど槍が出てきた場所を思うと、十分に追いつける距離なのだろう。


 少しずつ水路が細くなった。


 大河は乾いた場所で足を止めた。水際との間には、低い岩が横たわっている。相手が槍を届かせようとするなら、その脇から身体を出す必要があった。


 剣を構え、待つ。


 水が鳴った。


 岩の端からリザードマンの肩が現れ、槍の穂先がこちらへ向いた。大河はすぐには踏み込まず、相手が腕を伸ばすのを見た。


「そこからなら、見える!」


 槍を弾き、傷ついた肩へ飛斬を放つ。


 半透明の刃が入り、リザードマンが悲鳴を上げた。水へ戻ろうとする身体へ、大河はもう一度剣を振る。二発目が水際の脚を斬り、相手は岩へ手をついた。


 大河は走った。


 水へ飛び込むのではなく、岩のこちら側を回る。届いてきた槍を外へ弾き、伸びた腕へ魔力刃を振り下ろした。


 槍が落ちる。


 相手の尾が石を叩いたが、大河はその内側まで近づいていた。傷ついた肩へ左手を当て、水路から離す方へ押す。


「悪いけど、今度はこっちで戦ってくれ!」


 リザードマンの身体が岩の上へ崩れた。


 大河は手を離し、剣を突き込んだ。暴れた尾が脚の防具へぶつかったが、今度は靴が滑らない。柄を握り、さらに刃を押し込むと、相手の身体から力が抜けた。


 大河は剣を引き抜いて離れ、動かなくなるのを確かめた。


 水の音が、またはっきり聞こえ始める。


「……よし。今の場所なら、踏ん張れましたね」


【倒した!】

【水の中追わなくてよかった】

【先に飛斬で止めたな】

【地面って大事なんだな】


「大事でした。さっき、避けたあとに足が滑ったんで。俺は間に合うつもりでも、地面がそのつもりじゃなかったです」


 言ってから、大河は苦笑した。


 肩を斬ったところまでは、上層と同じように戦えていた。そのあと、水へ入っただけで、急に手が届かなくなった。


 相手が特別に速くなったわけではない。


 自分が知らない道を、あちらは使っていたのだ。


「……面白いな。水があるだけで、こんなに変わるのか」


【そういう感想になるんだな】

【今ちょっと危なかっただろ】

【こっちは槍出てきたところで声出たぞ】


「俺も声出ましたよ。でも、次は水へ入るところから見ます。今日は、まだ一体目なんで」


 大河は剣を構えたまま、水路の奥を見た。


 ほかにも、同じように潜っている魔物がいるかもしれない。今、見えている岸だけを見て、誰もいないとは決められなかった。


 回収は、もう少し周りを確かめてからだ。


 ドローンを少し後ろへ移し、大河は水面と、戻ってきた道へ交互に目を向けた。


            *


 十六階層の安全エリアへ辿り着いた時には、夕食を取る頃合いになっていた。


 水路に沿って進んだ先は行き止まりで、一度戻り、別の分岐を調べ直している。高い岩棚へ上がる道を見つけ、その奥でようやく、ほかの探索者が休んでいる場所へ出た。


 水の音は聞こえる。それでも、流れからは離れた、乾いた区画だった。


 挨拶をして壁際へ場所を取り、大河は椅子を出した。腰を下ろしてから、靴と脚の防具を確かめる。尾が当たったところには跡があったが、外して脚を動かしても、痛みはなかった。


「今日は、ここまでにします。十六階層へ入ってから、進んだ距離のわりに、結構時間使いましたね」


【初日お疲れ】

【上層は早かったな】

【ここから水路と迷路か】

【寝床見つかってよかった】


「はい。乾いてるところで寝られるの、ありがたいです。今日は新しいマットも使えるんで、そこはちょっと楽しみにしてました」


 食事を用意しながら、今日の地図を開く。


 道だけでなく、水路の分かれる場所と、深そうだった場所にも印をつけていた。魔物が沈んだあたりと、槍を出してきたところも残してある。


 見返すと、思っていたより近かった。


「これ、明日も気をつけよう。水の音で足音も分かりにくいし、近くに来られてから探すんじゃ、遅いんですよね」


 大河は書き足してから地図を閉じ、食事へ手を伸ばした。


 明日は、十七階層へ下りる道を探す。まだ歩いていない分岐があり、水路の向こうへ渡れる場所も確かめたい。


 今日のように、追いかける前に止まらなければならない相手もいるだろう。


「次に潜られても、今度はもうちょっとうまくやります。あいつらの方が泳げるのは分かったんで、俺は俺のやれる方で」


【ちゃんと覚えていくな】

【その前に飯食え】

【今日は何食べてるんだ】


「あ、はい。今日はこれです。見た目は地味なんですけど、温かいと結構うまいんですよ」


 器を少し持ち上げると、戦闘から見ていた視聴者とは別のコメントも増えてきた。昼には見られなかったという人へ今日の話を返しながら、大河は食べ進める。


 奥多摩で最初の夜だった。


 食後には、使った剣を拭き、寝具を広げよう。大河は椅子へ背中を預け、器に残った温かい汁を飲んだ。


【天草 大河】

【レベル:66】

【体力:112】

【筋力:113(+10)】

【耐久:111(+10)】

【敏捷:114(+5)】

【魔力:110(+5)】

【精神:115】

【常在スキル:《レベルアップ補正》《危機感知》】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》《魔力属性変化・雷》《飛斬》】

【装備:《マジックソード》《ミノタウロスの指輪》《疾風のブーツ》《魔力の腕輪》《鋼拳の手甲》】

【探索者ランク:E】



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