↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/54

飛ぶ相手



 頭のすぐ上を、黒い翼が掠めた。


 大河は身を沈めたまま剣を振り返したが、魔力刃は空を切った。頭上へ逃げた影を追って顔を上げると、もう一体が岩の陰から飛び出してくる。


「そっちにも、いたのかよ!」


 全身へ雷を巡らせ、横へ跳ぶ。硬い翼の先端が肩の防具を擦り、嫌な音を立てた。痛みより先に衝撃が来て、大河は着地した足を踏み直す。


 八王子ダンジョンの十二階層。


 天井の高い区画へ入ったところで、三体のブレードバットに襲われていた。一体ずつなら、大河の両腕を広げた程度の大きさだ。その翼の前縁は、濡れた金属のような光を帯びている。


【肩、大丈夫か】

【翼が刃物みたいになってるやつか】

【上にもう一体いるぞ】

【飛斬で落とせ!】


「擦っただけです。……撃ちたいんですけど、じっとしてくれないんですよ!」


 大河は剣を振り、《飛斬》を放った。こちらへ向かっていた一体が翼を傾け、飛んだ斬撃の上へ逃げる。魔力の刃は奥の岩へぶつかり、欠片を散らした。


 また外れた。


 大河は歯を噛み、天井へ戻る影を見た。最初に放った一撃も、同じように避けられている。走って追いつくには高すぎるし、降りてきたところを斬ろうとしても、そのまま飛び抜けてしまう。


 甲高い鳴き声が重なった。三体が頭上へ広がるのを見て、大河は入ってきた道へ下がった。


「一回、場所変えます。ここで上ばっかり見てると、首まで疲れそうなんで!」


 剣を構えたまま退くと、一体が追って降りてきた。大河は飛びかかる影を見て、さらに二歩下がる。翼が通路の張り出した岩へ触れ、乾いた音を立てた。


 ブレードバットが、羽ばたいて上へ逃げる。


 大河は通路の途中で足を止めた。今、ぶつかりかけた岩を見上げ、奥へ広がる空間と見比べる。ここなら、さっきほど自由には飛べない。


「……よし。ここで、やってみるか」


            *


 悠真と初めて潜ってから、一か月近くが経っていた。


 二人での探索は、あれから三度。そのほかにも、真壁たちとの依頼や、一人での攻略を続けている。訓練場へ行けば悠真と顔を合わせることも多く、三対三だった勝負の数は、もうどちらも正確に覚えていなかった。


 大河のレベルは、六十四になっている。


 強くなった実感はあった。以前なら大きく避けていた攻撃を、小さく外して返せることも増えた。《飛斬》も、地面に立つ魔物へなら、かなり狙いをつけられるようになっていた。


 それなのに、頭上を飛ばれるだけで、こんなに当たらない。


「……腹立つなあ」


 大河は呟き、通路の奥を見た。三体はまだ追ってきている。上へ逃げる場所を探すように、岩の近くで旋回していた。


【珍しく素直に悔しがってる】

【さっきから二発避けられたしな】

【飛んでる相手は難しいぞ】

【当たれば落ちそうなんだけどな】


「そうなんですよ。剣が届くところまで来てるのに、振った時にはもう上なんです。……ちょっと、静かになりますね。ちゃんと見たいんで」


 大河はドローンを自分の後方へ移した。背中側には、先ほど通ってきた道が続いている。追い込まれそうなら、さらに戻れる。


 雷の循環を保ち、剣を胸の前へ構えた。


 最初の一体が降りてきた。


 大河は足を止めず、相手の飛ぶ方へ少しずつ身体を向ける。低くなった影が斜めに走り、翼の先端をこちらへ向けた。大河は剣を振り上げかけたが、その向こうでもう一体が降りるのを見て、攻撃をやめた。


 横へ跳ぶ。


 一体目がすぐ脇を抜け、二体目の翼が続いて迫った。剣を斜めに当てて外へ逸らすと、鋭い音とともに腕へ衝撃が返る。大河は押し返そうとせず、その勢いから身体を逃がした。


「っ、順番に来るなよ!」


 三体目は、まだ高い。


 大河は通り過ぎた二体へ目を向けた。一体はすぐに翼を広げ、上へ向きを変えている。もう一体は大きく回り、張り出した岩を避けてから戻ろうとしていた。


 剣を構えると、そちらの翼が傾いた。


 まだ振っていない。


「……俺の剣、見てるのか?」


 大河は切っ先を少し動かした。相手は同じように横へ流れ、正面から外れる。天井の近くで旋回していた一体も、こちらへ降りるのをやめた。


 撃ってから避けられたと思っていた。実際には、剣を振る前から動いていたのかもしれない。


 大河は構えを戻し、息を吐いた。


「だったら……もう一回、来いよ」


 ブレードバットが鳴いた。高い位置にいた一体が降り、通路の岩を避けて内側へ傾く。大河はその進路へ剣を向けた。


 相手が外へ逃げる。


 大河は、まだ振らなかった。


 翼が広がり、岩の手前で曲がり始める。その先へ狙いを移し、今度こそ剣を振り抜いた。


「そこだっ!」


 飛んだ斬撃が、黒い翼の根元を裂いた。


 甲高い悲鳴が響く。ブレードバットは大きく傾き、通路の壁へぶつかって落ちた。大河はそちらへ駆け寄りかけたが、頭上から来る影を見て、剣を構え直す。


「よし、当たった! ……けど、まだ二体!」


 肩へ突っ込んでくる一体を避け、降りた翼へ剣を返した。切っ先が前縁へ当たり、硬い手応えを残して滑る。浅い傷をつけられただけで、相手は再び上へ逃げた。


【一体落ちた!】

【曲がった先に撃ったな】

【落ちた方、まだ動いてるぞ】

【焦るな、二体見ろ】


 地面へ落ちた一体は、傷ついた翼で身体を引きずっていた。近づけば、まだ噛みついてくるだろう。大河はそちらを片側へ置き、飛んでいる二体に正面を向けた。


 続けて来るなら、先に一体を止める。


 大河は剣へ送る魔力を増やした。半透明の刃が厚みを増し、刀身の周囲でスパークが弾ける。腕を大きく振りかぶらず、胸の前で待った。


 一体が低く飛び込んでくる。


 大河は横へ動きながら、迫る翼へ刃を合わせた。


「今度は、通れっ!」


 重い衝撃が腕へ返った。魔力刃が硬い前縁へ食い込み、その奥まで裂いていく。翼の半ばを失ったブレードバットが、大河の脇へ落ちた。


 残る一体が、その頭上から降りてきた。


 背筋へ警告が走る。大河は顔を上げ、迫る翼の位置を見た。剣はまだ低い。振り上げるより先に、身体を沈めて横へ跳んだ。


 耳のすぐ近くで、風が鳴る。


「危なっ……!」


 着地した大河は、通り過ぎた影へ向き直った。相手が岩を避け、通路の中央へ戻ってくる。先ほど当てた一体と、近い飛び方だった。


 剣を上げると、翼が傾いた。


 大河はその動きに狙いを合わせた。逃げる先を見て、足を踏み直す。


「そっちだろ!」


 《飛斬》が、翼と胴をまとめて斬った。


 最後の一体が地面へ落ち、石の上を転がる。大河はすぐに剣を構え、三体の位置を確かめた。飛び上がる影がないことを見てから近づき、まだ動く二体へとどめを刺した。


 鳴き声が止む。


 大河は雷を解き、その場で長く息を吐いた。肩の防具を見下ろすと、表面に細い傷が走っている。腕を回してみても、動かすのに支障はなかった。


「……ああ、疲れた。地面を走ってるやつの方が、だいぶ戦いやすいですね」


【お疲れ】

【最後はちゃんと当てたな】

【当たらない時ちょっと焦ってたろ】

【飛斬があってよかった】


「焦りました。俺、飛ばせるようになってから、届くなら何とかなると思ってたんで。あんなに外されると、結構きますね」


 剣を下げ、倒れたブレードバットへ目を向ける。最後の一体には、きちんと刃が入っていた。地上へ引きずり下ろせたことが嬉しくて、大河は口元を緩めた。


「……でも、最後は当てましたよ。もう一回会ったら、最初から今のをやりたいです」


【出た】

【悔しかった分、次やりたいんだな】

【まず魔石拾え】

【肩もちゃんと見ろよ】


「見ますって。今すぐ探しに走ったりしないんで、そこまで心配しなくても大丈夫です」


            *


 魔石と回収できる素材を収納し、見通しのよい通路まで戻った。


 ここは安全エリアではない。大河は周囲を確かめ、短く水を飲んでから、肩の防具を外さずに留め具を点検した。斬られたところは表面の傷で済んでいる。買い替える時には少し高いと思ったが、今は着てきてよかった。


「これ、なかったら肩も切れてたかもしれないですね。……帰ったら、店で見てもらおうかな」


【防具代を惜しむなという実例】

【三十万超えてたやつか】

【働いてくれたな】


「はい。次、買い物の話になったら、防具って大事ですよって、かなり説得力を持って言えると思います」


 大河は笑い、スマートフォンへ手を伸ばした。地図を開く前に、今日の戦闘の配信記録をあとで見返すため、時刻を控えておく。


 狙った時、剣をどう上げていたのか。ブレードバットが避け始めたのは、どこだったのか。自分の目では追いきれなかったところを、別の角度から見たかった。


 藤堂へ聞きたいこともできた。


 相手を見ていたつもりでも、自分の方が分かりやすく動いている。訓練で悠真に顔を見られていた時も、少し似ていたのかもしれない。


「……悠真には、先に言っておくか」


【何を?】

【今の戦闘の話?】


「こういう相手がいたって話です。今度ここへ来るなら、知ってた方がいいと思うんで。槍が長くても、あそこまで上にいたら届かないでしょうし」


 メッセージを送ると、少しして返信が来た。


『今見てた。二発目外した時、うわって声出た』


 大河は画面を見て、顔をしかめた。さらに続けて、もう一通が届く。


『最後のはよかった。俺も飛ぶやつ相手は嫌い』


「見てたのかよ……」


【友達も視聴中だった】

【悠真くん、コメントしていいんだぞ】

【配信見ながら個別に送ってくるの草】


「今、最後はよかったって来ました。最初の二発のことも、ちゃんと書いてありますけど」


 大河は笑いながら返信した。


『帰ったら話す。次は一発目から当てる』


 送ってから水をしまい、剣を握り直した。まだ奥へ進める時間はある。魔力の消耗を確かめ、雷を使わずに歩き始める。


 通路の先では、天井がまた高くなっていた。


 大河は足を止め、岩の張り出しと、戻る方の道を見比べた。進む前に上へ目を向ける。さっきまでは、足元にばかり気を配っていた。


「じゃあ、続けます。次に同じのが出たら、さっきよりうまくやるんで、見ててください」


【言ったな】

【一発目、期待してるぞ】

【天井ちゃんと見ろよ】


「はい。……今は、かなり見てます」


 大河は剣を抜いたまま、ゆっくり奥へ進んだ。頭上で小さな影が動くと、すぐに足を止める。翼を畳んで岩へ掴まっている姿を見つけ、今度はこちらから距離を測った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。