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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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魔力操作



翌朝。


 目を覚ました大河は、ベッドの上でゆっくりと身体を起こした。


「……まだ少し痛むな」


 昨日、渋谷ダンジョンの最奥で受けた傷は、ポーションのおかげでかなり回復している。それでも、強く打ちつけられた左肩や脇腹には、まだわずかな痛みが残っていた。


 大河はしばらく身体の具合を確かめたあと、ベッド脇に置いていた探索者ライセンスへ視線を向ける。


 三日前までは、ただの高校卒業生だった。それが今では、一つのダンジョンを最後まで攻略し、レベルも22まで上がっている。


「……三日で結構変わったな」


 そう呟きながら、大河は昨日新しく手に入れたスキルを思い出した。


《魔力操作》。


 自分の中にある魔力を認識し、動かし、制御するためのスキル。


「まずは、これだな」


 大河はベッドから降り、その場で静かに目を閉じた。


 目を閉じても、最初は何も分からなかった。身体の中に魔力がある。そう理解していても、それをどう感じればいいのかまでは分からない。


「……意識しろって言われてもな」


 大河は呼吸を整えながら、自分の内側へ意識を向ける。すると数十秒ほど経った頃、胸の奥にごく小さな違和感を覚えた。


 熱とも違う。鼓動とも違う。けれど確かに、そこに何かがある。


「これか……?」


 意識を集中させると、その感覚は少しずつ輪郭を持ち始めた。胸の奥から全身へ、細い流れのようなものが広がっている。


 大河は試しに、その流れを右腕へ集めるよう意識した。


「……お」


 ほんのわずかだが、何かが動いた。胸の奥にあった感覚が、ゆっくりと右肩を通り、腕へと流れていく。


 右手を開いて、握る。


「……これ、ちゃんと動かせるな」


 まだ何ができるのかは分からない。それでも、自分の意思で魔力を動かせる。


 大河はそれだけで、しばらく右腕へ魔力を流したり、胸元へ戻したりすることを繰り返した。右腕へ集める。戻す。今度は左腕。次は右脚。


 最初は途中で散っていた魔力も、意識を途切れさせなければ狙った場所まで運べるようになっていく。


「じゃあ、これをもっと集めたらどうなるんだ?」


 大河は右腕へ流す魔力の量を、少しずつ増やしていった。すると、腕の内側がじんわりと熱を持ち始める。


 試しに拳を握ると、普段より明らかに力が入りやすい。


「……強くなってる?」


 半信半疑のまま、今度は右脚へ魔力を流してみる。その場で軽く跳ねた瞬間、大河の身体が予想以上に高く浮いた。


「うおっ!?」


 慌てて着地し、数歩よろける。大河は自分の脚を見下ろしたあと、ゆっくりと笑った。


「なるほどな」


 魔力を流せば、身体そのものの性能を一時的に引き上げられる。少なくとも、今の一度でそれだけは分かった。


 大河はもう一度、今度は慎重に右脚へ魔力を流した。さっきのように一気に集めるのではなく、量を抑えながらゆっくりと。


 軽く屈伸し、その場で数歩動いてみる。


「……やっぱり違うな」


 脚が軽い。力を入れた時の反応も、普段より明らかに速かった。


 ならばと、今度は両脚へ同時に魔力を流そうとする。しかし――。


「っ……難しいな」


 右脚に意識を向ければ左脚の魔力が薄れ、左脚へ集中すれば今度は右脚が乱れる。一か所へ集めるだけなら簡単になってきた。だが、複数の場所へ均等に流し続けるとなると話は別らしい。


「これ、使えるようになるまで結構練習いるな」


 それでも、大河の表情は楽しそうだった。レベルを上げるだけではない。同じ《魔力操作》を持っていても、扱い方次第で強さが変わる。


 その事実が、大河には何より面白かった。


 何度か試しているうちに、少しずつ感覚が分かってくる。魔力を流しすぎれば制御が乱れ、逆に少なすぎれば、身体能力の変化もほとんど感じられない。


 自分が扱える範囲で、必要な場所へ必要な量だけ流す。


「……身体強化って、こういうことか」


 《魔力操作》のスキルを得たからといって、それだけで急に強くなるわけではない。大切なのは、そのスキルをどう使いこなしていくのか。


 魔力を身体へ流して能力を引き上げる《身体強化》は、スキルとして与えられたものではなく、自分で身につけていく技術なのだと大河は理解し始めていた。


 そこで、ふと昨日手に入れたものを思い出す。


「そういえば……あれも魔力を流すんだったな」


 大河は《アイテムボックス》へ意識を向けた。次の瞬間、昨日手に入れた《マジックソード》が大河の手の中に現れた。


 黒みがかった刀身を眺めながら、改めて《鑑定》を使う。


【マジックソード】

【高い魔力伝導性を持つ魔法武器。一定以上の魔力を流し込むことで、刀身の外側に魔力の刃を形成する】


「一定以上、か」


 大河は剣を両手で持ち、今度は右腕ではなく、その先にある剣へ魔力を流すよう意識した。


 最初は上手くいかない。右手までは魔力を運べるものの、そこから先へ押し出そうとすると、流れが途切れてしまう。


「身体の外に出すってなると、また違うのか……」


 何度か繰り返し、手のひらから剣へ魔力が繋がっていく感覚を探る。


 やがて――。


「……きた」


 握っていた柄から、何かが吸い込まれていくような感覚が伝わる。それと同時に、黒い刀身の表面へ淡い光が浮かび始める。


 大河はさらに少しだけ魔力を流した。すると、刀身の外側を覆うように半透明の刃が形成される。


「おお……」


 思わず声が漏れた。実物の刀身より一回り大きな、魔力だけで作られた刃。


 だが、大河の集中がわずかに乱れた瞬間、その形は揺らぎ、すぐに消えてしまった。


「こっちも簡単じゃないな」


 それでも一度は成功した。


 大河はもう一度試そうとして――狭い部屋の中を見回した。


「……さすがにここで振るのはやめとくか」


 壁に穴でも開ければ、探索で稼いだ金が修理代に消えかねない。


 《マジックソード》を《アイテムボックス》へ戻した、その時だった。ベッドの上に置いていたスマートフォンが震え、着信音が部屋に鳴り響く。


「ん?」


 魔力操作の練習を始めてから、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。


 大河は一度大きく息を吐くと、ベッドまで歩いてスマートフォンを手に取った。画面に表示されているのは、見覚えのない番号だった。


「誰だ?」


 少し迷ってから通話ボタンを押す。


「はい」


『天草大河さんのお電話で間違いないでしょうか』


「そうですけど」


『探索者協会の者です』


「協会?」


 昨日まで何度も出入りしていた場所ではあるが、向こうから連絡が来るとは思っていなかった。


『昨日の渋谷ダンジョンでの探索記録について、いくつか確認させていただきたいことがありまして』


「探索記録……」


『五層のボスを討伐されていますよね?』


「ああ、ホブゴブリンなら倒しました」


 電話の向こうで、一瞬だけ間が空いた。


『……やはり、間違いではないんですね』


「?」


『お時間のある時で構いませんので、一度協会本部までお越しいただけますか』


 大河は時計へ目を向けた。まだ昼前だ。身体の痛みも、昨日に比べればかなり軽くなっている。


「今日でも大丈夫ですか?」


『はい。こちらは問題ありません』


「じゃあ、今から行きます」


『ありがとうございます。受付でお名前をお伝えください』


 通話が切れる。


 大河はスマートフォンを見つめながら首を傾げた。


「わざわざ呼び出すようなことなのか?」


 自分としては、ただ奥まで進んでボスを倒しただけだ。だが昨日の職員の反応を思い返すと、どうやらそう簡単な話でもないらしい。


「まあ、行けば分かるか」


 大河は出かける準備を始めた。


            *


 それから一時間ほどして、大河は探索者協会本部を訪れていた。受付で名前を告げると、すでに話が通っていたらしく、すぐに奥の応接室へ案内される。


「こちらで少々お待ちください」


「分かりました」


 職員が部屋を出ていき、大河は勧められたソファへ腰を下ろした。登録に来た時とは違い、今日は探索者用の窓口ではなく、本部の奥にある区画まで通されている。


「……やっぱり、何かあるのか?」


 そう呟いてから数分後。扉がノックされ、一人の男性職員が部屋へ入ってきた。


「お待たせしました。天草大河さんですね」


「はい」


「探索者協会でランク管理を担当している者です。本日はお越しいただきありがとうございます」


 男性は向かいのソファへ座ると、手元の端末を開いた。


「早速ですが、昨日の渋谷ダンジョンについて確認させてください。記録を確認したところ、天草さんは昨日、渋谷ダンジョンの五層ボスを単独で討伐されています」


「はい」


「そして探索者登録をされたのが、その二日前」


「そうですね」


 男性職員は端末へ視線を落としたまま、わずかに眉を上げる。


「率直に言いますと、かなり早いです」


「やっぱりそうなんですか?」


「はい。渋谷ダンジョン自体は初心者向けですが、登録から三日で単独攻略まで到達する探索者はほとんどいません」


 昨日、入口の職員から向けられた反応と同じだった。大河自身は、進めるところまで進んだ結果、最奥へ着いただけという感覚の方が強い。


「特に五層のボスは、Gランク探索者であれば複数人で挑むことも珍しくありません」


「……結構危ないことしてたんだな」


「今さらですか?」


 思わず漏らした大河の言葉に、男性職員が苦笑する。


「ただし、討伐記録そのものに問題はありません。ゲートの通過記録とボス部屋の攻略記録、どちらも確認済みです」


 男性職員は端末を操作すると、大河へ向き直った。


「そのため、今回の実績を踏まえて探索者ランクの昇格手続きを行います」


「昇格?」


「はい」


 男性職員ははっきりと告げた。


「本日付で、天草大河さんをGランクからFランクへ昇格とします」


「Fランク……」


 大河は小さく呟いた。探索者になった時は、一番下のGランクからのスタートだった。それが三日で、一つ上へ進んだことになる。


「昇格後は、Fランク指定のダンジョンにも入場できるようになります。もちろん、これまで通りGランクダンジョンへ入ることも可能です」


「なるほど」


「新しいライセンスはこのあと受付で発行します。今お持ちのものと交換になりますので、忘れずに受け取ってください」


「分かりました」


 そこで男性職員は一度端末を閉じ、別の資料を取り出した。


「それと、もう一点あります」


「まだ何かあるんですか?」


「昨日持ち帰られた魔石についてです。通常の魔石はすでに査定できますが、ホブゴブリンの魔石はボス個体のものなので、通常より高額になります」


 その言葉に、大河の目がわずかに輝く。


「高額?」


「はい。状態にもよりますが、今回のものならかなり良い金額になると思います」


「……それは助かるな」


 真っ先に頭へ浮かんだのは、ポーションだった。それから新しい防具や装備。探索を続けるなら、必要になるものはいくらでもある。


 男性職員はそんな大河の表情を見て、小さく笑った。


「探索者は稼げますが、その分出ていくお金も多いですからね」


「昨日それ、かなり実感しました」


「でしょうね」


 大河の全身が血だらけだったことは、すでに職員間でも共有されているらしい。男性職員は少し呆れたように笑いながら、再び端末を開いた。


「では、せっかくなので今ここで査定に回しましょうか。昨日持ち帰った魔石はお持ちですか?」


「あります」


 大河は《アイテムボックス》へ意識を向ける。次々と取り出した魔石をテーブルの上へ並べていくと、男性職員の手が途中で止まった。


「……全部、昨日の分ですか?」


「はい」


 ゴブリン、スライム、ケイブウルフ。一層目から五層目まで進む間に倒した魔物の魔石に加え、最後にホブゴブリンから取り出した一際大きな魔石もある。


「なるほど。攻略記録を見て想像はしていましたが……かなりの数ですね」


「持ち歩かなくていいんで、途中から気にせず全部取ってました」


「《アイテムボックス》持ちでしたか」


 男性職員はそこで一度大河を見たが、それ以上深く尋ねることはなかった。


「では、こちらはまとめて査定に回します。少し時間がかかるので、ライセンスの更新が終わる頃には金額も出ていると思います」


「お願いします」


 男性職員が魔石の入ったケースを閉じる。


「こちらから確認したかったことは以上です。改めて、Fランク昇格おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 大河は立ち上がり、軽く頭を下げた。


 探索者になって四日目。


 次に潜る場所は、もうGランクダンジョンだけではない。


            *


 その後、受付で新しいライセンスを受け取った大河は、査定の終わった魔石の代金も受け取った。昨日一日で得た金額として考えれば、十分すぎるほどだった。


 だが、真っ先に思い浮かぶのは新しい装備にポーション。これから先、より危険なダンジョンへ挑むなら、今まで以上に金が必要になる。


「稼げるけど、使う金も増えるんだよな……」


 そんなことを考えながら協会を出たところで、ポケットのスマートフォンが震えた。画面には、以前から登録している探索者の配信開始通知が表示されている。


『――本日はBランクダンジョン、三十五層から攻略していきます!』


 何気なく配信を開くと、画面の端を大量のコメントが流れていた。視聴者数は数万人。企業スポンサーの名前や、次々と送られる投げ銭も目に入る。


 子供の頃から何度も見てきた光景だ。けれど今までは、見る側でしかなかった。


「……配信か」


 大河は足を止めた。


 探索すること自体は、これからも続ける。だったら、それを配信したところで大きく変わるわけでもない。上手くいけば収入にもなる。


 それに――自分がどこまで強くなれるのか。その過程を誰かに見せるのも、少し面白そうだった。


 大河はしばらくスマートフォンの画面を眺めたあと、小さく笑う。


「……やってみるか、配信」



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― 新着の感想 ―
子どもの頃から配信見てたのに、ダンジョンの前情報無さすぎじゃない?
 血まみれでダンジョンから出てきた時に職員に渡されて飲んだポーションってタダなの?  実費請求されるのなら、今回換金した中から引かれたと描写があったほうが良いと思いますよ
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