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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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3/46

ダンジョン攻略



翌日。


 大河は再び、渋谷ダンジョンを訪れていた。昨日とは違い、《ゲート》を前にしても足は止まらない。受付でライセンスを提示し、そのままゲートをくぐる。


「今日は二層目だな」


 昨日一日でレベルは6まで上がった。一層目に出現する魔物の動きにも、ある程度は慣れたと思うが、油断するつもりはない。それでも昨日より、確実に先へ進める。


 そう思いながら、一層目の奥へと歩き始めた。


 一層目では昨日と同じように、ゴブリンやスライム、ケイブウルフが何度か姿を現した。けれど、昨日とはまるで感覚が違う。


 相手の動きがよく見える。どの距離なら攻撃が届くのか、どの瞬間に踏み込めばいいのか。考えるより先に身体が動く場面も増えていた。


「やっぱり、昨日より全然楽だな」


 魔石を回収しながら、改めてレベルアップの大きさを実感する。そのまま昨日たどり着いた一層目の最奥まで進み、下へ続く坂の前で足を止めた。


「ここからか」


 昨日は引き返した場所。坂の先に広がる暗がりを見つめ、大河は短剣の柄を握り直す。


 そして今度こそ、二層目へ向かって歩き出した。


            *


 二層目へ降りても、景色そのものは一層目と大きく変わらなかった。岩肌に囲まれた通路。淡い光を放つ苔。そして、現れる魔物も同じだ。


「……ゴブリンか」


 少し先に、一匹のゴブリンが立っている。見た目だけなら、一層目で何度も倒した相手とほとんど変わらない。


 けれど、こちらに気づいて走り出した瞬間、その違いはすぐに分かった。


「速い……!」


 昨日までの個体より、明らかに踏み込みが鋭い。振り下ろされた木の棒を横へかわすが、思っていたより余裕がない。


「なるほど」


 短剣を構え直しながら、自然と笑みが浮かぶ。


 二層目。


 出てくる魔物は同じでも、強さまで同じというわけじゃないらしい。


 二層目に入ってからも、大河は足を止めることなく魔物を倒し続けた。一層目より強くなったゴブリン、スライム、ケイブウルフ。最初こそ速さや力の違いに戸惑ったが、大河自身も戦うたびにレベルが上がっていく。


 レベル7。


 レベル8。


 レベル9。


 そして、何体目かのケイブウルフを倒した直後。


「っ……!」


 これまでとは明らかに違う感覚が全身を駆け抜けた。身体の奥から熱が広がるのと同時に、頭の中へ知らないはずの言葉と、その使い方が自然と流れ込んでくる。


「……レベル10」


 そして、新しく発現したスキルは二つ。


《アイテムボックス》

《鑑定》


「嘘だろ……」


 どちらも知っている。探索者なら、一度は欲しいと思うような希少スキルだ。所持者は決して多くなく、持っているだけで探索の幅が大きく変わる。


 大河は足元に転がっていた魔石へ手を伸ばし、《アイテムボックス》を意識する。


 次の瞬間、魔石が目の前から消えた。


「……入った」


 意識を向けるだけで、収納されている魔石の存在が分かる。


「じゃあ、鑑定は……」


 今度は自分自身へ《鑑定》を使った。すると、視界に自身の情報が浮かび上がる。


【天草 大河】

【レベル:10】

【体力:20】

【筋力:21】

【耐久:19】

【敏捷:22】

【魔力:18】

【精神:23】

【常在スキル:――】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》】

【探索者ランク:G】


「端末なしで見られるのか……」


 その時、少し先の通路から一匹のゴブリンが姿を現した。大河は試しに、そのゴブリンへ《鑑定》を使う。


【ゴブリン】

【レベル:7】

【体力:17】

【筋力:16】

【耐久:15】

【敏捷:14】

【魔力:6】

【精神:8】


 思わず口元が緩んだ。


「これは便利すぎるだろ」


 自分より三つ下のレベル。それだけで、今までとは戦う前の感覚がまるで違った。どれくらい警戒すべきなのか。無理に戦う相手なのか、それとも問題なく倒せる相手なのか。その判断を、戦う前にできる。


「便利どころじゃないな、これ」


「ギィッ!」


 ゴブリンがこちらへ駆け出してくるが、もう慌てる必要はなかった。振り下ろされた木の棒を横へかわし、すれ違うように短剣を振るう。


「ギャッ!」


 一撃。ゴブリンはそのまま地面へ倒れた。


 大河は魔石を取り出すと、今度はリュックへしまわず《アイテムボックス》へ収納する。荷物の重さを気にしなくていい。相手の強さも戦う前に分かる。


「……一気に探索が楽になったな」


 二つの新しいスキルの便利さを実感しながら、再び二層目の奥へ歩き始めた。


 《鑑定》と《アイテムボックス》を手に入れてから、探索速度は一気に上がった。遭遇した魔物を《鑑定》し、自分より明らかに格下なら迷わず仕掛ける。倒したあとの魔石も、その場で《アイテムボックス》へ収納すればいい。


 気づけば二層目の終着地点までたどり着いていた。


「もう終わりか」


 昨日とは違い、まだ時間にも体力にも余裕がある。


 大河は迷うことなく、そのまま三層目へ下りた。


            *


 三層目に入って最初に遭遇したケイブウルフへ《鑑定》を使う。


【ケイブウルフ】

【レベル:11】


「やっぱり上がってるな」


 二層目より、さらに魔物のレベルが高い。それでも今の大河なら戦える。


 そこからは、ほとんど止まることなく進み続けた。


 ゴブリン。


 スライム。


 ケイブウルフ。


 相手のレベルを確認し、戦い、倒す。何度か格上とも遭遇したが、最初の頃のように相手の動きを一から探る必要はなくなっていた。


 そして三層目の終盤。また身体の奥を熱が駆け抜ける。


「……レベル14」


 初めてダンジョンへ潜った昨日の朝は、まだレベル1だった。それが今では14。数字を見るたび、自分が確実に強くなっていることを実感する。


「まだ行けるな」


 目の前には、さらに下へ続く道。


 大河は迷わず四層目へ足を踏み入れた。


            *


 四層目に入ってからは、一度に現れる魔物の数が増えた。ゴブリンが三匹。ケイブウルフが二匹。時には、種類の違う魔物が同時に襲ってくることもある。


 それでも、《鑑定》で相手の強さを把握できる今は対応しやすかった。


【ゴブリン レベル:13】

【ゴブリン レベル:15】

【ケイブウルフ レベル:16】


「まずは速いやつからだな」


 真っ先にケイブウルフを仕留め、残ったゴブリンを順番に倒していく。


 最初の頃は二匹を相手にするだけでも慎重になっていたのに、今では複数の動きを見ながら戦えるようになっていた。もちろん、レベルが上がった影響も大きい。けれど、それだけじゃない。


 魔物との戦い方そのものに、少しずつ慣れてきている。


 四層目を進む間にも何度かレベルが上がり、終着地点へたどり着いた頃には――


【レベル:17】


「……順調だな」


 渋谷ダンジョンは全五層。


 つまり、次が最下層だ。


            *


 五層目。


 出現する魔物のレベルはさらに高くなり、中には大河と同程度の個体も混じっていた。それでも足は止めない。


 戦って、倒して、魔石を《アイテムボックス》へ収納する。


 気づけばレベルは18まで上がっていた。


 そして、しばらく進んだ先。


「……あれか」


 それまでの通路とは明らかに雰囲気の違う、巨大な扉が目の前に現れた。配信で何度も見たことがある。


 ダンジョンの最奥に存在する――ボス部屋。


「ついにここまで来たな」


 大河は扉を見上げながら、短剣の柄を握り直した。


 巨大な扉へ手をかけ、ゆっくりと押し開ける。その先に広がっていたのは、これまでの通路より遥かに広い空間だった。


 そして中央。


 六匹のゴブリンに囲まれるようにして、一際大きな影が立っている。


「……ホブゴブリン」


 通常のゴブリンより二回り以上大きい身体。太い腕には、粗末ながらも重量のありそうな鉄製の棍棒が握られていた。


 大河はすぐに《鑑定》を使う。


【ホブゴブリン】

【レベル:20】


 続けて、周囲のゴブリンにも視線を向ける。


【ゴブリン レベル:16】

【ゴブリン レベル:17】

【ゴブリン レベル:15】

【ゴブリン レベル:18】

【ゴブリン レベル:16】

【ゴブリン レベル:17】


「七体か……」


 数だけなら、これまでで一番多い。しかも中央には、自分よりレベルの高いボス。


 それでも、不思議と逃げたいとは思わなかった。


 むしろ――。


「やっと、歯ごたえありそうなのが出てきたな」


 短剣を構え、大河は一歩前へ出た。


「ギャアアッ!」


 ホブゴブリンが吠えた。それを合図にしたように、六匹のゴブリンが一斉に動き出す。


「っ……!」


 正面から二匹、左右から二匹ずつ。


「連携してくるのか……!」


 これまでのゴブリンとは明らかに違った。


 正面の一匹が振り下ろした木の棒をかわし、そのまま短剣を突き出そうとする。だが、その瞬間。


「ギィッ!」


 死角から回り込んでいたゴブリンの棒が、脇腹へ叩き込まれた。


「ぐっ……!」


 鈍い痛みが走り、身体が横へよろめく。さらに正面からもう一匹が迫る。


「くそっ!」


 咄嗟に後ろへ跳び、その攻撃をぎりぎりでかわした。痛む脇腹を押さえながら距離を取る。


 強い。


 個々の能力だけなら対処できる。けれど、互いの隙を埋めるように動かれるだけで、ここまで戦いづらくなる。そして何より――まだホブゴブリンは動いていない。


「……なるほど」


 さっきまで浮かんでいた笑みは、もう消えていた。


 これは今までと同じようにはいかないと感じ、気合いを入れ直す。正面から来る相手だけを見ていては、また同じように攻撃を受ける。


 六匹すべての位置を意識しながら、少しずつ後ろへ下がって動きを観察した。


 こいつらは適当に襲ってきているわけじゃない。前の二匹が大河の注意を引き、左右から残りが隙を狙う。


「なら……」


 連携そのものを崩せばいい。


「ギィッ!」


 再び正面の二匹が迫ってくるが、今度は下がらない。一匹目の攻撃をかわすと、そのまま横へ大きく踏み込む。


 狙うのは、右側から回り込もうとしていたゴブリン。


「まず一匹!」


 振り向くより早く、短剣を首元へ突き立てる。


「ギャッ――!」


 一匹が崩れ落ちる。その瞬間、残ったゴブリンたちの動きがわずかに乱れた。


「やっぱりな」


 短剣を引き抜き、すぐに次の相手へ視線を移す。連携が乱れた隙を逃さず、次の一匹へ踏み込んだ。


「ギィッ!」


 慌てて振るわれた木の棒をかわし、そのまま腹へ短剣を突き立てる。


 二匹目。


 だが、短剣を引き抜こうとしたその時だった。


「グオオオッ!」


「っ!?」


 低い咆哮とともに、これまで動かなかったホブゴブリンが一気に距離を詰めてくる。


 速い。


 巨体からは想像できない踏み込みだった。咄嗟に短剣を引き抜いたが、完全には避けきれない。


「ぐっ……!」


 棍棒が左肩へまともにぶつかり、身体が大きく吹き飛ばされた。地面を二度、三度と転がる。


「がっ……!」


 背中を岩肌へ打ちつけ、肺から一気に空気が抜けた。左肩が焼けるように痛い。腕を動かすだけでもズキズキと痛みが走る。


「グオオオッ!」


 それでもホブゴブリンは待ってくれない。顔を上げると、もう目の前まで迫っていた。


「くそっ!」


 振り下ろされる棍棒を転がるようにしてかわすが、地面が砕け、飛び散った石片が頬を切った。


 立ち上がった直後、今度は残ったゴブリンが横から飛び込んでくる。


「ギィッ!」


「っ!」


 木の棒を完全には避けられず、脇腹を強く打たれた。


「ぐぁっ……!」


 身体がくの字に折れる。その瞬間、正面からホブゴブリンの蹴りが飛んできた。


 咄嗟に腕を交差させる。


「――っ!」


 防いだはずなのに、身体ごと後ろへ吹き飛ばされた。地面へ背中から落ち、何度か転がって止まる。


「はぁ……はぁ……」


 痛い。


 肩も、脇腹も、背中も。口の中には鉄の味が広がっている。


 立ち上がろうとした足が、一度震えた。


「……強いな」


 これまで戦ってきた魔物とは違い、一つの判断ミスがそのまま死へとつながる。探索者になって、初めて明確な生命の危機に瀕した状況だった。


 しかし――。


「まだ……終わってない」


 短剣を地面へ突き立て、それを支えに立ち上がる。


 まだ四匹のゴブリンが残っている。迎え撃つだけでは、また後手に回る。


 そう判断した大河は、自ら地面を蹴った。


「ギッ!?」


 最も近くにいたゴブリンの振るった棒を紙一重でかわし、すれ違いざまに短剣で腹を切り裂く。


 浅い。


「ギィィッ!」


 背後から別のゴブリンの棒が振るわれ、背中へ直撃する。


「ぐっ!」


 前につんのめりながらも振り返り、そのまま懐へ飛び込む。


「しつこい……!」


 短剣を喉へ突き立てた。


「ギッ――」


 三匹目。


 その隙を狙って、さらに二匹が左右から迫る。一匹の攻撃を腕で受けながら、もう一匹の胸へ刃を突き込む。


「ぐっ……!」


 腕に鈍い痛みが走る。それでも止まらない。


 短剣を引き抜くと、棒を振り切ったばかりのゴブリンへ身体ごとぶつかり、地面へ押し倒した。そのまま喉へ刃を突き立てる。


 五匹目。


 残り一匹。


「ギィィッ!」


 最後のゴブリンが正面から飛び込んでくる。大河も前へ出た。


 振り下ろされた棒を避けきれず肩を掠めたが、それでも踏み込みを止めない。


「これで……!」


 短剣が胸へ深く突き刺さる。


「ギャッ――」


 六匹目のゴブリンが地面へ崩れ落ちた。


 これで取り巻きは全部。


 だが、短剣を引き抜いた瞬間。


「グオオオオッ!」


 ホブゴブリンが突っ込んできた。


「っ!」


 棍棒が横薙ぎに振るわれる。下がるのが遅れた。


 棍棒の先端が腹を掠め、その衝撃だけで身体が横へ弾かれる。


「がっ……!」


 地面へ倒れ込み、息がうまく吸えない。視界が揺れ、立ち上がるのもままならない。


 そんな状態の大河を見逃してくれるほど、ホブゴブリンは甘くない。棍棒を大きく振り上げる。


「……やばっ」


 痛む身体を無理やり動かし、横へ転がった。


 直後。


 轟音とともに棍棒が地面へ叩きつけられる。


 あと一瞬遅ければ、確実に終わっていた。


「はぁ……はぁ……」


 立ち上がる。


 左肩はまともに上がらない。脇腹も痛む。服は土と血で汚れ、頬から流れた血が顎を伝っていた。足にも力が入りづらくなっている。


 一方、ホブゴブリンはまだ立っている。


「……やっぱりボスってだけあるな」


 それでも、不思議と逃げたいとは思わなかった。頭の中にあるのは、どうすれば倒せるかということだけだった。


 ホブゴブリンが再び棍棒を構える。


 何度も見た。


 振り下ろす直前、わずかに右肩が上がる。


 攻撃そのものは速いが、予備動作はある。


「次で……決める」


 短剣を右手だけで握り直す。


「グオオオッ!」


 ホブゴブリンが地面を蹴ると同時に、大河も突っ込んだ。距離が一気に縮まる。


 棍棒が振り上げられ――右肩が上がった。


「ここだ!」


 振り下ろされる直前に横へ踏み込む。完全には避けきれず、棍棒が右脚を掠めた。


「ぐっ……!」


 激痛が走り、足が崩れそうになる。それでも止まらず、懐へ潜り込んだ。


「うおおおっ!」


 残っている力をすべて右腕へ込め、短剣をホブゴブリンの胸へ突き立てる。


「グアアアアッ!」


 巨体が暴れ、太い腕が大河の身体を殴りつける。


「ぐっ!」


 横腹へ衝撃が走るが、短剣から手を離さない。


「まだ……だ!」


 さらに深く、全体重を乗せて刃を押し込む。


「グ――オ……」


 やがてホブゴブリンの動きが止まった。握られていた棍棒が地面へ落ち、その巨体がゆっくりと崩れ落ちる。


「……勝った」


 そう呟いた瞬間、全身から力が抜けた。大河はその場へ膝をつく。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 立っていられない。肩は痛み、脇腹も背中もズキズキする。右脚にはまともに力が入らず、頬からはまだ血が流れている。


 全身ボロボロだ。


 決して上手く戦えたわけじゃない。何度も攻撃を受けた。一歩間違えれば死んでいた。


 それでも――。


「……はは」


 気づけば、笑っていた。


 今までで一番苦しかった。今までで一番怖かった。


 そして。


「……最高だな」


 今までで一番、楽しかった。


 ホブゴブリンの身体が完全に動かなくなった、その直後。大河の身体を、これまでとは比べものにならないほど強い熱が一気に駆け抜けた。


「っ……!」


 戦闘が終わったことで、この戦いで得た経験値がまとめて反映される。熱が収まるのを待ち、《鑑定》で自身のステータスを確認した。


【天草 大河】

【レベル:22】


「一気に四つ……」


 戦闘開始時はレベル18。そこから一度に22まで上がっている。


 そして、もう一つ。頭の中へ新たなスキルの情報が流れ込んできた。


《魔力操作》


「魔力を……操作する?」


 自身の中に存在する魔力を認識し、動かし、制御するためのスキル。


 試してみたい気持ちはあったが、今は身体がまともに動かない。ひとまずホブゴブリンから魔石を回収し、《アイテムボックス》へ収納する。


 その時だった。


 部屋の奥に、それまで存在しなかった宝箱が置かれていることに気づく。


「……宝箱?」


 痛む身体を引きずるようにして近づき、蓋を開けた。


 中に収められていたのは、一振りの剣だった。一般的な長剣よりは短く、片手でも扱いやすそうな大きさをしている。黒みがかった刀身には、淡い光沢が浮かんでいた。


 大河は剣を手に取り、《鑑定》を使う。


【マジックソード】

【高い魔力伝導性を持つ魔法武器。一定以上の魔力を流し込むことで、刀身の外側に魔力の刃を形成する】


「魔力の刃……」


 獲得したばかりの《魔力操作》。そして、魔力を流すことで真価を発揮する武器。


「……ちょうどいいな」


 ボロボロの身体でありながら、大河の口元には再び笑みが浮かんでいた。


 《マジックソード》を《アイテムボックス》へ収納すると、ようやく大きく息を吐く。戦闘が終わったことで張り詰めていたものが切れたのか、全身の痛みが一気に押し寄せてくる。


「……帰るか」


 これ以上ここに残って《魔力操作》や新しい武器を試す余裕はない。


 ボスを倒したことで部屋の奥に出現していた帰還用の《ゲート》へ、足を引きずりながら向かう。その手前で一度だけ振り返った。


 倒れたホブゴブリン。散らばる取り巻きの死体。そして、空になった宝箱。


 探索者になってまだ三日目。その三日目にして、大河は一つのダンジョンを最奥まで踏破した。


「……攻略したんだな」


 口にして初めて、その実感が湧いてくる。一歩間違えれば死んでいた。それでも、その先にあったものを自分の目で見ることができた。


 大河は小さく笑うと、帰還用の《ゲート》へ足を踏み入れた。


            *


 帰還用の《ゲート》を抜けた瞬間、見慣れた渋谷の景色が視界に戻ってきた。


 そのまま数歩進んだところで、


「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですか!?」


 入口付近にいた職員が、大河の姿を見るなり慌てて駆け寄ってきた。


 無理もない。服はところどころ破れ、全身は土と血で汚れている。左肩はまともに上がらず、右脚も引きずっていた。


「一応、大丈夫です」


「大丈夫には見えませんよ。これ、飲んでください」


 差し出されたのは、赤い液体の入った小瓶だった。


 回復用のポーション。


「ありがとうございます」


 蓋を開け、一気に飲み干す。


 直後、温かな感覚が身体中へ広がり、痛みが少しずつ引いていく。完全に疲労まで消えるわけではないが、まともに動かなかった左肩も上がるようになり、右脚の痛みもかなり軽くなった。


「……すごいな」


「それだけ怪我してたら一本じゃ足りないかもしれませんけどね」


 職員が呆れたように言う。


 大河は軽く左肩を回しながら、ダンジョンへ入る前の自分を思い返した。


「ポーション、高いからってケチるんじゃなかったな。低級でもいいから、次から買っとこ」


 初探索では必要ないだろうと買わなかったが、今日の戦いを経験した以上、もう同じ判断をするつもりはない。


 そこで大河は、ふと思い出したように口を開いた。


「あ、五層のボスは倒しました」


「……はい?」


 職員の表情が止まる。


「ホブゴブリンです。取り巻きも全部」


「…………」


 数秒の沈黙。


 職員は大河の顔と、提示されたライセンスを交互に見た。


【探索者ランク:G】


「……今日で探索何日目ですか?」


「三日目ですけど」


 再び沈黙が落ちた。


「三日目で……五層まで?」


「はい」


 大河にとっては、ただ奥へ進み続けただけだった。だが職員の反応を見る限り、それはどうやら普通ではないらしい。


 こうして天草大河の、最初のダンジョン攻略は幕を閉じた。


            



【天草 大河】

【レベル:22】

【体力:32】

【筋力:33】

【耐久:31】

【敏捷:34】

【魔力:30】

【精神:35】

【常在スキル:――】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》】

【探索者ランク:G】



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