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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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届く刃



「じゃあ、まずは普通の魔力で飛ばしてみます。いきなり雷まで使って、何がうまくいったのか分からなくなるのも困るんで」


 大河はマジックソードを構え、少し離れた岩へ目を向けた。八体の魔石を回収し、食事と休憩を済ませてから、奥の区画へ戻ってきている。狙う岩の後ろは壁で、その間に人も魔物もいなかった。


 ドローンを自分の後方へ移し、足を開く。岩の中央には、縦に走る白い筋があった。そこへ刃を当てるつもりで、剣へ魔力を流す。


【初飛斬】

【ちゃんと後ろも確認したな】

【どんな感じで飛ぶんだろ】

【剣振る向き気をつけろよ】


 半透明の魔力刃が、黒い刀身を覆った。大河は岩を見据えたまま《飛斬》を発動し、右上から剣を振り下ろす。振り抜いた刃から弧を描く魔力が離れ、空中を走った。


 岩の右端が削れ、欠片が壁へ飛ぶ。


 大河は剣を下ろさず、狙っていた白い筋と、実際にできた傷を見比べた。飛ばすことはできた。ただし、当たった場所は思っていたところより右に寄っている。


「……飛んだ。飛んだんですけど、真ん中を狙ったつもりなんですよね。見てるだけじゃ、そっちへ行ってくれないのか」


【視線で飛ぶわけじゃないからな】

【振った刃の方に行ってたぞ】

【初回で岩には当たってる】

【普通に楽しそう】


「そりゃ楽しいですよ。今までなら、あそこを斬るには歩いていくしかなかったんですから。もう一回、今度は剣の向きも見ながらやってみます」


 大河は足の位置を少し変え、同じ場所へ剣を構えた。近くの相手を斬る時には、刃が届くところまで身体ごと動いている。飛ばしたあとには、腕を動かしても直せない。


 狙う筋へ刃を通すつもりで振ると、二発目は先ほどより中央に近い場所へ当たった。斜めの傷が白い筋を横切り、大河は小さく笑う。続けて横へ振った斬撃も飛ばせたが、今度は少し高くなった。


 岩へ近づいて傷を確かめると、表面には深い溝ができていた。魔力刃を直接叩き込んだ時と同じかどうかは、これだけでは分からない。それでも、離れた場所から相手を傷つけられる威力はあった。


「これ、届くからって当たるわけじゃないんですね。止まってる岩でもずれるんで、動いてる相手の腕とか狙うなら、まだ練習が要りそうです」


【急に手足狙わん方がいい】

【まず胴体だな】

【今までの剣とは距離感違うだろ】

【近づかなくても攻撃できるのはでかい】


 大河は頷き、元の位置へ戻った。次は刀身へ送る魔力を雷属性へ変える。半透明の刃にスパークが走り、手元から小さな音が響いた。


「雷でも飛ばせるか、これで試します。剣に残っちゃうなら、それはそれで分かりますし」


 剣を振り抜くと、離れた斬撃にも細い雷がまとわりついていた。光の弧が岩へ当たり、溝の周囲でスパークが弾ける。大河は傷より先に、刃が通った空間へ顔を向けた。


「……今の、雷も一緒に行きましたよね?」


【飛んでた】

【斬撃にスパークついてたぞ】

【雷乗せられるのか】

【また使い道増えたな】


 大河は岩の前まで歩き、できた傷を覗き込んだ。通常の魔力でつけた溝と比べても、岩を削っただけでは違いを確かめきれない。剣を当てた時のように、魔物の動きを止めることがあるのかも、まだ分からなかった。


 それでも、飛ばせたことは確かだった。


「ちゃんと一緒に飛ぶなら、こっちも使えそうですね。ただ、雷が当たったからって絶対に止まるわけじゃないんで、そこは剣で斬る時と同じつもりで見ます」


【そこ忘れないの大事】

【さっきの槍持ちも動いてたしな】

【石相手じゃ分からんもんな】

【もう一発いこうぜ】


「いや、試し撃ちで魔力を使いきったら、進めなくなるでしょう。続きは実際に戦う時ですね。俺ももっと振りたいですけど、岩を倒しに来たわけじゃないんで」


 名残惜しそうに剣を下ろすと、コメントに笑われた。大河は刀身への魔力を止め、地図を開く。八体が集まっていた場所の奥には、左右へ分かれる道が残っていた。


 岩についた傷をもう一度振り返ってから、大河は先へ進んだ。


            *


 二十九階層へ下りる階段は、崩れた石橋の下にあった。


 橋の上へ向かう道を調べていた時には、向こう岸へ渡れずに戻るしかないと思っていた。引き返す途中、壁沿いに下りる坂を見つけ、橋の下を回り込んだ先で、ようやく階段へ辿り着いたのだ。


「上から見えてたのに、行けないのが一番きついですね。あそこへ飛斬を撃ったところで、俺が向こうへ飛べるわけじゃないですし」


【新スキルでも迷路は解決しなかった】

【橋壊したらもっと困るぞ】

【でも二十九まで来た】

【あと一層だな】


「そうですね。今日はまず、ここで寝られる場所を探します。三十階層へ行くのは、それからです」


 下りた先では、壁に沿って長い石積みが続いていた。途中には人の腰ほどの高さまで崩れた場所もあるが、その向こうが歩けるとは限らない。大河は地面の割れ目を避け、通れる道を確かめながら進んだ。


 二つ目の分岐を越えると、杖を持ったオークが見えた。


 その前に、斧を持つオークウォリアーが一体いる。大河が足を止めると、前衛もこちらを見つけ、低く吠えた。奥のオークメイジが杖を上げる。


【オークウォリアー】

【レベル:79】

【オークメイジ】

【レベル:80】


 《鑑定》の表示を閉じ、大河は全身へ雷を循環させた。前衛が走ってくる間にも、杖の先へ赤い光が集まっている。二体の後ろに別の魔物がいないことを確かめてから、大河は右へ動いた。


 オークウォリアーが斧を持ち上げ、進路を塞ごうとする。大河はその懐へ入らず、石積みから離れる方へ回った。前衛が身体を向け直したことで、後ろにいたメイジの上体が見える。


 まだ、普通の剣では届かない。


 大河はそちらへ向けて、剣を振り下ろした。


 飛んだ魔力の斬撃が、メイジの肩から胸へ斜めに入る。血が散り、杖の先に集まっていた光が崩れた。オークはよろめいたものの、倒れずに杖を握り直す。


 大河は結果を見届けながらも、足を止めなかった。前衛の斧が頭の高さを薙ぐ。低く身を沈めてかわし、振り抜かれた腕へ近くから剣を返した。


 傷口で雷が弾けたが、斧は止まらない。オークが腕を引き、再び振ろうとしたため、大河は外側へ離れた。


【今の当たった!】

【魔法止めたぞ】

【前衛見ろよ】

【ちゃんと避けてる】


 メイジは石積みの後ろへ下がろうとしていた。大河は前衛を挟んだまま追わず、斧を握る腕を見た。血が流れ、柄を握り直す指にも力が入っている。


 オークが踏み込んだ。


 振り下ろされた斧を横へ外し、大河は相手の脚へ蹴りを入れる。膝が曲がり、傾いた身体を支えようとした左手が地面へ伸びた。その首元へ、厚みを増した魔力刃を振り抜く。


 前衛が倒れたところで、奥から火球が飛んできた。


 大河は石積みへ近づかず、開けた側へ跳んだ。足元の後ろで炎が広がる。向き直ると、メイジは傷ついた肩を下げながらも、杖をこちらへ向けていた。


 先ほどの一撃で、倒せたわけではない。


 大河は黒い刀身へ雷の魔力を流し、メイジの胴へ狙いをつけた。相手が石積みの陰へ隠れようと動くのを見て、その進む先へ剣を振る。


 スパークをまとった斬撃が、オークの脇腹へ入った。


 身体が横へ傾き、杖を持つ腕が下がる。大河はすぐに距離を詰めた。メイジは杖を持ち上げようとしたが、向け終わる前に、大河の魔力刃が胸を深く斬り裂いた。


 オークが石積みへぶつかり、そのまま倒れる。


 大河は周囲を見渡してから雷を解いた。二体とも動かなくなったことを確かめ、メイジの死体へ目を向ける。離れた場所からつけた二つの傷が、はっきり残っていた。


「……届きましたね。最初ので倒せなくても、あそこで魔法を止められるなら、かなり助かります。前のやつと戦ってる間、ずっと撃たれるより全然いいです」


【使えたな】

【後ろにいるやつへ手が出せるようになった】

【飛斬撃ってから普通に剣で倒すのいいな】

【最後の雷、止まってた?】


 大河は剣を下ろし、最後の斬撃が当たった場所を見た。腕が下がったことは分かる。ただ、雷で止まったのか、脇腹を斬られて身体が傾いたのかは、今の一度だけでは判断できなかった。


「腕は下がりましたけど、今ので雷が効いたって決めるのは早そうです。傷をつけただけでも動きは変わるんで、また使った時に見てみます」


【確かに斬られたら止まるわ】

【でも雷ごと届いたのは分かった】

【近接も遠距離も使える六十】

【奥にいれば安全だった魔法使いがかわいそう】


「俺だって、さっきまでは奥から撃たれて困ってたんですよ。せっかく使えるようになったんで、その分は楽させてもらいます」


 大河は笑い、魔石の回収へ取りかかった。視線を上げれば、メイジが立っていた場所が見える。そこまで走る前に、こちらから攻撃できた。


 次に同じ並びが出たら、もっと早く使えるだろう。そう思いながら剣を拭くと、自然と口元が緩んだ。


            *


 二十九階層の安全エリアへ辿り着いたのは、配信画面の時計が十八時を過ぎてからだった。


 そこまでに、石積みの続く道を二度戻り、低い天井の下を回り込んだ。途中で見つけた下り階段の位置も、地図へ残してある。三十階層へ繋がる道を確認してから、安全エリア探しへ戻ってきたのだ。


 区画の奥では、三人組の探索者が食事の準備をしていた。大河は配信中であることを伝えて挨拶し、カメラへ入らない場所を選ぶ。壁際へ椅子を出して腰を下ろすと、脚から力が抜けた。


「今日はここまでです。階段も見つけたんで、明日はそこまで戻って、三十階層へ下ります」


【九日目お疲れ】

【ついに最下層か】

【今日は新スキルも取ったしな】

【明日ボス?】


「そのつもりです。道を見つけて、ちゃんと休んでからになりますけど。ここまで来たんで、最後まで見たいですね」


 手甲を外して指を開き、剣を手元へ置く。食事を用意しながら地図を開くと、最初の階層から残してきた記録が画面へ並んだ。迷って戻った道も、今は通らなくていいと分かっている道だった。


 十日前には、まだ高尾の中を一歩も歩いていなかった。


 正確には、今日は九日目だ。入口に立っていた頃のことが、もう少し前のように感じられる。


「入口で、皆さんが大きい荷物を背負ってたのを見た時は、そこまで持ってくるのかって思ったんですけど。今なら、あれぐらい要るのも分かります」


【アイテムボックスに感謝しろ】

【お前も中身は大荷物だろ】

【食料九日分減ってるんだからな】

【椅子まで持ってるし】


「それは本当に助かってます。もし背負ってたら、この椅子を持ってくるか、入口でかなり悩んだと思います。今は持ってきてよかったとしか思わないですけど」


 背もたれへ身体を預けると、脚を伸ばしたくなった。食事を済ませてから立ち上がり、肩と股関節を軽く動かす。痛めたところはないが、歩いた時間も、戦った回数も、地上から日帰りしていた頃とは違っていた。


 剣の整備を終え、手甲の留め具を確かめる。ポーションと食料を見直してから、大河は自分へ《鑑定》を使った。六十になった身体の数値を、今度は落ち着いて読む。


 《飛斬》も、確かにそこへ加わっていた。


【天草 大河】

【レベル:60】

【体力:100】

【筋力:101(+10)】

【耐久:99(+10)】

【敏捷:102(+5)】

【魔力:98(+5)】

【精神:103】

【常在スキル:《レベルアップ補正》《危機感知》】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》《魔力属性変化・雷》《飛斬》】

【装備:《マジックソード》《ミノタウロスの指輪》《疾風のブーツ》《魔力の腕輪》《鋼拳の手甲》】

【探索者ランク:E】


 表示を閉じると、スマートフォンには明日の配信を楽しみにするコメントが流れていた。その中に、風呂を忘れていないかと聞くものが混じっている。


「忘れてないですよ。帰ったら絶対に入ります。最後のボスを倒して、ちゃんと帰って、それからですけどね」


【順番は大事】

【明日は風呂のために戦う男】

【いいから先に寝ろ】

【最後まで見るぞ】


 大河は声を出して笑った。入口を通った時より、装備も、できることも増えている。明日の相手に何が通じるかは、まだ分からない。それを確かめたい気持ちは、初めてダンジョンへ入った頃から変わっていなかった。


「明日も、よろしくお願いします。ここまで付き合ってもらったんで、最後もいいところを見せたいですね。まずはちゃんと寝て、動ける身体に戻しておきます」


 配信を切り、ドローンを収納する。寝具を広げる頃には、近くの探索者たちも食事を終えていた。大河は挨拶を交わし、剣と手甲を《アイテムボックス》へ収めてから横になる。


 九度目の夜は、新しく得た斬撃の感触を思い返しながら過ぎていった。振り抜いた剣から離れ、相手まで届いた魔力の刃。明日は、それも持って高尾の最奥へ向かう。


 大河はスマートフォンのアラームを確かめ、画面を閉じた。



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