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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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高尾の最奥



 折れた柱の向こうに、大剣を持ったオークが立っていた。


 天井が高く、広く開けた区画だった。中央には石畳が残り、その周囲を崩れた柱や岩が囲んでいる。大河は通路の出口で足を止め、ほかに魔物がいないことを確かめた。


 高尾へ入って十日目。三十階層の迷路を抜け、安全エリアで休んでから、ようやくここまで辿り着いた。


「オークジェネラル。……いましたね。こいつを倒したら、高尾は攻略です」


【ついに最後】

【大剣でけえ】

【十日間の締めだな】

【頼むぞTAIGA】


 オークは胸と肩を金属鎧で覆っていた。両手で握る大剣は、大河のマジックソードよりはるかに長い。それを身体の前へ立て、こちらを見据えている。


 大河は《鑑定》を使った。


【オークジェネラル】

【レベル:85】

【体力:174】

【筋力:168】

【耐久:154】

【敏捷:118】

【魔力:105】

【精神:92】


 表示を閉じても、数字が頭に残った。力も耐久も、自分より上。敏捷まで高い。あの大きな剣を、遅い一撃だと思って避けるわけにはいかなかった。


 大河は入口側の道を振り返り、ドローンを後方へ移した。


「休んできたんで、身体は動きます。まずは戦ってみますね。無理だと思ったら下がるんで、最後だからって、そこは変えません」


【帰るまでが探索だぞ】

【ちゃんと逃げ道見たな】

【六十でここまで来たんだから十分すごい】

【勝って帰ろうぜ】


 大河が石畳へ踏み出すと、オークの身体に淡い魔力が浮かんだ。肩から腕へ、胴から脚へ。その光を見た大河は、剣を握る手に力を込める。


 オークが地面を蹴った。


「速っ――!」


 大河は全身へ雷を循環させ、横へ跳んだ。大剣がすぐ脇を叩き、石畳が砕ける。振り下ろした隙を狙おうと足を踏み直したが、相手の剣はもう戻ってきていた。


 横薙ぎをマジックソードで受け流す。


 重い音とともに、腕が外へ持っていかれた。大河は踏ん張らずに下がったが、オークはその距離まで追ってくる。胸へ突き出された切っ先を避け、ようやく刃の届く範囲から離れた。


「……あの剣で、そんなに動くのかよ」


 指が痺れていた。受け止めたつもりはなくても、あれだけの衝撃がある。真正面でぶつけ合ったら、剣ごと押し切られる。


【今の重そう】

【ボスも身体強化してるだろ】

【一回避けても終わらんぞ】

【距離取れ】


 大河はさらに下がりながら、剣へ魔力を送った。近づくオークの胸へ狙いをつけ、《飛斬》を放つ。半透明の斬撃が飛んだ先で、大剣が振られた。


 魔力の刃が散る。


「それも防ぐのか!」


 オークは大剣を引き、また走ってきた。大河は振り下ろされる一撃を外し、相手の横腹へ剣を返す。鎧を削る手応えがあったが、押し込む前に肘で腕を弾かれた。


 懐へ入った大河の視界に、膝が迫った。


「ぐっ……!」


 脇腹へ衝撃が突き抜け、息が止まる。大河は後ろへ逃れようとしたが、すでに大剣が持ち上がっていた。背筋に走る警告を感じ、上がった腕を見る。


 剣を斜めに当て、必死に外へ流した。


 切っ先が左の前腕を裂いた。痛みをこらえて横へ跳び、着地した足をもう一度動かす。大剣が背後の石畳を削り、大河は崩れた柱の陰へ逃れた。


【やばい】

【腕切られたぞ】

【一回下がれ!】

【呼吸できてるか】


 大河は柱へ手をつきかけ、やめた。立ち止まれば追いつかれる。痛む脇腹をかばいながら柱を回り、その向こうにいるオークを見る。


 こちらへ近づく足に、迷いはなかった。


 大河は左手を握った。指は動く。傷から血が流れているが、剣を支えられないほどではない。息を吸うと脇腹が痛み、浅く吐いて、もう一度吸った。


 入口へ戻る道は、見えていた。


 ここから逃げれば、まだ戻れる。


「……くそ。まともに斬らせてもらえないな」


 大河は剣を構え直した。攻撃が通じなかったわけではない。胸の鎧には傷がある。問題は、こちらが斬ろうとするたび、相手も殴り、蹴り、剣を返してくることだった。


 大河が避けてから攻撃することを、相手も待っている。


 柱の端から大剣が現れた。


 大河は低く身を沈めた。頭の上を刃が通り、柱へ食い込む。砕けた石を浴びながら踏み込み、剣を戻そうとする腕へ魔力刃を走らせた。


 鎧に覆われていない左肘から、血が飛んだ。


 オークが吠えた。大河は追撃せず、その横を抜ける。大剣が柱から離れ、さっきまでいた場所を薙いだ。


 距離を取って振り返ると、左腕から血が流れていた。


「……入った」


【腕に当たった!】

【追わなかったのよかった】

【大丈夫かTAIGA】

【逃げてもいいんだぞ】


 大河は相手から目を離さず、息を整えた。攻撃を外しただけでは足りない。柱へ剣をぶつけ、戻すのに時間がかかったところへ、ようやく刃が届いた。


「まだ動けます。もう少しだけ、やらせてください。今ので、斬れるところは分かったんで」


 オークが左手を握り直す。傷を負っても、大剣を手放す気はないらしい。大河はそれを見て、歯を食いしばった。


 こちらの腕も、脇腹も痛い。


 このまま長く戦えば、不利になるのは自分だった。


「次は、こっちから行くぞ」


 大河は刀身へ魔力を流し、相手の胸へ剣を向けた。オークが大剣を持ち上げる。それを見ながら、大河は狙いを下げた。


「これならどうだっ」


 低く飛ばした斬撃が、脚へ迫る。オークは大剣を下げて防いだ。散った魔力の向こうへ、大河は全身にスパークを走らせて踏み込む。


 狙うのは、傷ついた左腕。


 相手は柄を持ち上げ、大河の剣を受けた。重い衝撃がまた腕へ返る。大河は押し合わず、前へ出た足首へ蹴りを叩き込んだ。


 オークの足が滑る。


 その肩へ左手を当て、身体を回す方へ押した。大河の前腕にも痛みが走ったが、手を離すより先に、相手の肘が開いた。


「そこだっ!」


 魔力刃が傷へ深く入り、雷が弾けた。オークの左手が柄から離れる。大河はすぐに下がろうとしたが、右手だけで振られた大剣が追ってきた。


 刃を避けた先へ、太い足が迫る。


 腹を蹴られ、大河は後ろへ飛ばされた。


「がっ……!」


 背中から石畳へ落ちた。剣は離さなかったが、息が吸えない。起き上がろうとした視界の上で、オークが大剣を振りかぶっていた。


【逃げろ!】

【立て!】

【TAIGA!】


 大河は身体を横へ転がした。耳元で石が砕け、頬へ欠片が当たる。片膝をついて起き上がると、相手は剣を引き抜こうとしていた。


 大河は肩で息をしながら、その胸へ剣を向けた。


「……まだ、終わってないぞ…」


 《飛斬》が、裂けかけていた鎧へぶつかった。


 金属が割れ、オークの上体が揺れる。大河は立ち上がり、剣を構えたまま数歩下がった。オークの胸からも血が流れていた。左腕は下がり、大剣は右手だけで支えている。


 大河はようやく息を吸い、痛みに顔を歪めた。


 ポーションを飲む時間が欲しかった。入口へ戻れば、戦いを切り上げられる。そう考えながら相手を見ると、オークもすぐには踏み込んでこなかった。


 大剣を肩へ担ぎ直し、こちらを睨んでいる。


 あれなら、振り下ろしたあと、左手で引き戻せない。


 大河は自分の剣へ目を落とした。ここまで、何度も避けてきた。腕へ傷をつけ、鎧も裂いた。その全部を、次に使う。


「……あと一回。あいつが振ったところで、決める」


 刀身へ送る魔力を増やした。半透明の刃が厚みを増し、その周囲で雷が弾ける。全身の循環を保ち、大河は足を踏み直した。


 オークが吠え、走ってきた。


 大河も前へ出る。肩から下ろされる大剣を見上げ、届くより先に《飛斬》を放った。斬撃は大剣へぶつかって散ったが、一撃がわずかに外へ流れる。


 大河はその反対側へ飛び込んだ。


 刃が肩のすぐ横を通る。相手が身体を向け直す前に、踏ん張る脚の膝裏へ蹴りを入れた。巨体が沈み、傷ついた胸が近づく。


「うおおおっ!」


 大河は魔力刃を突き込んだ。


 裂けた鎧を押し広げ、刃が深く入る。握った柄へ抵抗が返ったが、足を踏み込み、身体ごと押した。オークが吠え、大河の肩へ左手を伸ばす。


 大河は剣を引き抜き、その手から逃れた。


 まだ、倒れない。


 オークは血を吐きながら、大剣を持ち上げた。大河へ近づこうとして脚が揺れ、それでも右腕は止まらなかった。


 大河は追おうとした足を止めた。


 あの剣の下へ、もう一度入る必要はない。


 残る魔力を刃へ送り、露出した首へ狙いをつける。オークが大剣を振り下ろすより先に、大河は剣を振り抜いた。


「届けぇぇぇっ!」


 雷をまとった斬撃が、二人の間を走った。


 オークの首元へ刃が入り、大剣を持つ腕が落ちる。重い剣が石畳へぶつかり、その音に続いて、巨体が前へ倒れた。


 大河は剣を構えたまま、動かなかった。


 肩も、指も、脚も止まっている。身体を包んでいた淡い魔力が薄れ、消えていく。それを見届けてから、大河は自分の雷を解いた。


「……勝った」


 膝から力が抜け、その場へ座り込んだ。剣を脇へ置き、痛む腹を押さえる。息を吐くたびに身体が震えたが、顔には笑みが浮かんでいた。


【勝ったああああ!】

【高尾攻略!】

【生きてるか!?】

【最後届いたぞ!】

【早くポーション飲め!】


「飲みます。……ちょっと待って、手、震えてる」


 取り出したポーションの蓋を、一度滑らせた。握り直して開け、口へ運ぶ。呼吸が少しずつ落ち着くと、目の前に倒れているオークが、ようやく追ってこない相手に見えた。


「……強かった。途中、帰ろうかと思いましたよ。あの剣、避けても避けても戻ってくるんで」


【帰ってもよかったんだぞ】

【マジで怖かった】

【よく最後まで見てたな】

【今度こそちゃんと休め】


「はい。もう動きたくないです。……でも、勝てたんですね。俺、こいつに」


 言いながら、また笑ってしまった。


 痛かった。怖かった。転がって避けた大剣が、耳元で石を砕いた音も覚えている。それでも最後の斬撃は、相手へ届いた。


 大河は剣へ目を向け、その柄を軽く撫でた。


            *


 立ち上がれるようになった頃には、空間の奥に宝箱と光の輪が現れていた。


 大河は急がずに魔石を回収し、持ち帰れる素材を《アイテムボックス》へ収めた。倒れたオークの横を通る時、大剣が目に入る。あれが振られるところは、しばらく夢にも出てきそうだった。


「……次に会う時は、もっと楽に勝ちたいですね。今日はもう、勘弁してほしいですけど」


【次に会う話してる】

【そこは変わらんのか】

【まず今日帰れ】

【よく頑張ったよ】


 宝箱にはポーションと金属素材、それから魔物素材が収められていた。大河は一つずつ《鑑定》し、収納する。新しい装備はなかったが、使ったポーションを補充できたことには、心から助けられた気がした。


 回収を終え、自分へ《鑑定》を使う。


 レベルが、一つ上がっていた。


【天草 大河】

【レベル:61】

【体力:102】

【筋力:103(+10)】

【耐久:101(+10)】

【敏捷:104(+5)】

【魔力:100(+5)】

【精神:105】

【常在スキル:《レベルアップ補正》《危機感知》】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》《魔力属性変化・雷》《飛斬》】

【装備:《マジックソード》《ミノタウロスの指輪》《疾風のブーツ》《魔力の腕輪》《鋼拳の手甲》】

【探索者ランク:E】


 表示を閉じると、大河は剣を収納した。成長したことはうれしい。それでも、今は次の魔物を探す気にはならなかった。


 宝箱の横に浮かぶ光へ向かい、その前で足を止める。


「これで入口へ戻れるんですよね。帰りも全部歩くんだったら、今日はここで寝るしかなかったです。あの迷路、今からもう一回は無理ですね」


【帰還ゲートに感謝】

【三十層歩いて帰るのはきつい】

【忘れ物ないか?】

【椅子置いて帰るなよ】


「椅子は入ってます。剣も、手甲も……はい、全部あります。じゃあ、帰りましょう」


 光をくぐると、視界が白く染まった。次に足をついた場所には、見覚えのある入口側の通路が続いている。大河は後ろにドローンがいることを確かめ、出口へ歩いた。


 外へ出ると、風が頬へ当たった。


 木の葉が揺れていた。管理所の方から、人を呼ぶ声がする。入口へ向かう探索者が横を通り、大河は道の端へ寄って空を見上げた。


 眩しくて、目を細めた。


「……帰ってきた」


【おかえり】

【高尾ソロ攻略おめでとう!】

【ちゃんと外に出たな】

【十日間お疲れ!】


 大河はゆっくり息を吸った。草の匂いがする。冷たい飲み物を買って、座って、何も考えずに飲みたかった。


 スマートフォンを見ると、お祝いの言葉が流れ続けていた。初日から見ていた人も、最後の戦闘から来た人もいる。大河はその文字を読み、ドローンへ顔を向けた。


「高尾ダンジョン、攻略できました。……最後、結構心配かけたと思います。俺も怖かったですけど、ちゃんと帰ってこられました。見てくれた皆さん、ありがとうございました」


【最後の飛斬よかったぞ】

【あそこから勝つとは思わんかった】

【今日はもう休んでくれ】

【風呂入れよ!】


「入ります。今日だけは、風呂も洗濯も勝手に終わってくれないかなって思ってますけど。帰って寝たいのと、すぐ風呂入りたいのが、今ちょっと喧嘩してます」


【風呂が先だ】

【そのまま布団入るなよ】

【飯も食え】

【やること多くて草】


 大河は声を出して笑った。笑うと腹が少し痛み、そっと押さえる。ポーションで傷を治しても、疲れた身体まで休ませたことにはならなかった。


「はい。まず報告して、帰ります。次の配信は、ちゃんと休んでからですね。十日間、付き合ってくれてありがとうございました」


 手を振って配信を切り、ドローンを収納した。


 管理所へ向かう道は、平らで歩きやすかった。分岐を調べる必要も、壁の向こうの足音を気にする必要もない。それがうれしくて、大河は歩きながらもう一度、空へ顔を上げた。


 十日前、この道を入口へ向かって歩いた。


 あの時より強くなって、今は帰ってきている。


 大河は管理所の扉を開け、受付へ向かった。


「戻りました。高尾ダンジョンの攻略報告、お願いします」


 言い終えたところで、ようやく肩の力が抜けた。受付の向こうから返ってくる声を聞きながら、大河は疲れた顔に笑みを浮かべた。



戦闘描写が下手くそすぎてすみません。

もっと読みやすいよう色々試しながらやっていきます。

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