↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/50

空いた手



 オーガロードの魔石は、大河の掌からはみ出すほど大きかった。


 表面についた血を拭い、光へかざしてから《アイテムボックス》へ収める。倒れた巨体の角も回収すると、ようやく宝箱へ向かった。戦っていた時には気にする余裕がなかったが、近くで見る鉄の棍棒は、やはり人が扱うには大きすぎた。


「あれ、持って帰っても使えないな」


【飾るか】

【部屋のどこに置くんだよ】

【床が心配になる】


「玄関に置いたら、俺が入れなくなりそうです」


 笑いながら蓋へ手をかける。中にはポーションと素材が収められ、その横に、黒ずんだ金属の手甲が一組置かれていた。大河は先にそれを取り上げ、顔の近くへ持ち上げた。


「……お、装備だ」


【久しぶりに出た】

【手甲?】

【殴る方の装備引いたぞ】


 手の甲から指の付け根までを金属が覆い、手首の内側には留め具がついている。掌側は柔らかい革で、指を曲げるための余裕もあった。大河が《鑑定》を使うと、その名前と補正が表示された。


【鋼拳の手甲】

【耐久:+10】


「鋼拳の手甲。耐久が十、上がるみたいです」


【いいじゃん】

【ちょうど殴ってたしな】

【装備として普通に助かるやつ】


 大河は剣を置き、左右の手へ一つずつ装着した。手首の留め具を締め、指を開いてから拳を握る。金属の重さはあるが、動かすのに苦労するほどではなかった。


 右手でマジックソードを握る。革越しの感触は少し変わったものの、柄を握る指にはしっかり力が入る。剣を返し、左手も何度か動かしてから、大河は満足そうに頷いた。


「これ、いいな。剣も普通に使える」


【左手の出番増えそう】

【硬い蜥蜴を素手で殴る男に手甲が】

【もう止められない】


「殴るためだけじゃないですよ。さっきだって、掴まれそうになったんで」


 オーガロードの左手は、避けた時に指の一本一本まで見えた。あれに腕を捕まれれば、次の棍棒から離れることは難しかっただろう。手甲をつけたからといって受け止める気にはならないが、近い距離で相手へ触れる時、守られている部分が増えるのはありがたかった。


 残りの品も確かめ、箱を空にする。ポーションは使いやすいところへ分けて収納し、売るつもりの素材は別へ収めた。回収を終えると、入口側の岩へ戻り、剣と手甲を手元に置いて休んだ。


 腕を伸ばし、肩を回す。指は動くし、どこかを痛めた様子もない。ただ、力を抜いた脚には、戦闘を終えた重さが残っていた。


「少し休んでから、二十一階層に行きます」


【まだ行くのか】

【今の戦闘、結構魔力使っただろ】

【二十層の安全エリアに戻るのもありだぞ】


「下りてみて、きつそうなら戻ります。ここまでの道は記録してるんで」


 大河は水を飲み、スマートフォンで地図を開いた。昼食を取った安全エリアから、今いるボスの区画まで、辿る道は残してある。二十一階層へ入るとしても、戻れる時間を使い切るつもりはなかった。


 しばらく椅子へ身体を預けていると、呼吸も落ち着き、脚の重さが薄れてきた。大河は立ち上がって軽く歩き、身体の具合を確かめる。それから椅子をしまい、剣を握った。


 手甲のついた左手を見て、もう一度拳を作る。


「……よし。行けそうです」


【新品装備でちょっと嬉しそう】

【その左手で何する気だ】

【まずは寝床探しな】


「分かってますって」


 大河は笑って答え、ボスのいた場所を通り過ぎた。奥の道から下る階段へ入り、二十一階層へ向かう。高尾の五日目は、まだ終わっていなかった。


            *


 二十一階層には、石畳の残る場所が増えていた。


 ただし、それがそのまま道を教えてくれるわけではない。崩れた壁の手前で途切れたり、岩の下へ潜ったりしている。大河は踏みやすい石を辿りながら、分岐のたびに奥を確かめた。


 最初の道は、天井から落ちた大岩で塞がれていた。戻って別の道へ入ると、柱の根元だけが並ぶ区画へ出る。人の背丈より低い石積みが点在し、その間に、動いている影があった。


 大河は剣を構えた。


 石の塊が、立ち上がってくる。


 頭も胴も手足も、灰色の岩でできていた。人の形には近いが、顔には目や口らしいものがない。大河より頭一つ高い身体が動くたびに、石を擦り合わせる音がした。


【ストーンゴーレム】

【レベル:71】


 その後ろでも、もう一体が身体を起こす。


【ストーンゴーレム】

【レベル:72】


「……今度は石か」


【ゴーレム出た】

【硬いやつだ】

【手足落としても油断するなよ】

【胸の奥に魔石あるぞ】


 大河は二体の胸へ目を向けた。外から魔石が見えているわけではない。石を重ねた身体の内側にあるなら、そこまで刃を届かせる必要があった。


 先頭が近づき、太い腕を振り上げる。大河は全身強化・雷を使い、振り下ろされた拳を横へかわした。石畳へ拳がぶつかり、乾いた音とともに亀裂が広がる。


 大河は伸びた腕へ剣を振った。魔力刃が表面を削り、石の欠片が散る。浅い溝はできたが、腕は止まらず、そのまま横から押し払うように動いてきた。


 後ろへ離れると、二体目も近づいていた。大河は低い石積みの外側へ回り、二体を正面に置いたまま剣へ送る魔力を増やす。


「腕も、全部硬いな」


【肉じゃないからな】

【関節は狙える】

【まず一体ずつだぞ】


 大河は先頭の脚を見た。動く時には、岩の塊同士の間が少し開いている。腕の太い部分を何度も削るより、そちらへ刃を入れた方がよさそうだった。


 拳を振り下ろす動きに合わせて横へ避け、踏み込んだ脚の膝へ剣を走らせる。厚い魔力刃が隙間へ入り、下腿の石が外へずれた。ゴーレムの身体が傾いたが、大河が胸を狙おうとすると、もう一体の拳が迫ってきた。


 大河は攻撃をやめ、石積みの向こうへ跳んだ。背後で石が崩れる。二体目は低い壁を殴り壊し、そのまま乗り越えて追ってきた。


「壁ごと来るのかよ」


【そりゃ壊せるだろうな】

【柱の時みたいにはいかんぞ】

【一体目、まだ動いてる】


 脚を崩したゴーレムも、片手を地面へついて身体を引きずっていた。歩けなくなっても戦いは終わっていない。大河はそちらへ近づきすぎず、まず追ってくる二体目へ向き直った。


 右の拳が、胸の高さへ突き出される。大河は斜め前へ動き、拳の外側へ入った。戻される腕の横へ手甲のついた左手を当て、全身強化した身体ごと押す。


 石の腕が外へ流れた。大河は押さえ続けず、空いた胴へ魔力刃を突き込む。表面を覆う石が割れ、刃は途中まで入ったが、胸の奥には届いていなかった。


 ゴーレムの反対側の腕が上がる。大河は剣を引き抜き、すぐに離れた。追って振られた拳を避けながら、左手を一度開く。手甲に擦れた跡はついたものの、指の動きに支障はない。


「……押すのも、やりやすいな」


【手甲もう使ってる】

【石の腕触るの怖いわ】

【胸、割れてるぞ】


 傷ついた胸の奥に、小さな光が見えた。身体を捻るたび、割れ目の向こうで位置が変わって見える。大河はそこへ目を向けつつ、脚を崩した一体が近づいていないかも確かめた。


 まだ、距離はある。


 大河は二体目へ走り、振り下ろされる拳を外した。左腕が横から来るのを見て、懐へ飛び込まずに半歩下がる。腕が胸の前を通り過ぎたところで踏み直し、割れた場所へ魔力刃を突き込んだ。


 剣を握る手へ、硬いものを砕く感触が返った。


 ゴーレムの腕が止まり、全身の石が重い音を立てて崩れる。大河は剣を抜いて後退し、足元まで転がってきた欠片を避けた。石は消えず、山になって地面へ残っている。


 大河はすぐに、もう一体へ向き直った。


 そちらは地面へついた腕で身体を持ち上げ、近づく大河へ拳を振ろうとしていた。大河は腕の外側へ回り、胸へ出力を上げた魔力刃を振り下ろす。表面の石を割り、さらに突きを重ねて、奥の魔石を砕いた。


 二体目も崩れ、石を擦る音が消えた。大河は両方の残骸を確かめてから雷を解き、短く息を吐く。


「なるほど。あれを壊すまで動くのか」


【ゴーレムはそれが怖い】

【腕と脚なくても油断するな】

【胸へ届けば早いんだけどな】


「胸へ届くまでが、結構硬かったですよ」


 しゃがみ込み、崩れた石の中から魔石の欠片を拾う。壊したために形は崩れていたが、回収できる物は残っていた。周りに魔物がいないことを確かめ、二体分を拾い終えてから立ち上がる。


 大河は左の手甲へ目を落とした。金属の表面についた細い傷を指でなぞり、それから拳を作る。剣を振る手と、相手の動きをずらす手。二つとも使えれば、攻撃するための隙を作りやすかった。


「いい物、もらったな」


【役に立った】

【左手装備できてよかったな】

【次はゴーレム殴るのか?】


「殴って壊すより、剣を入れた方がよさそうでしたけどね」


 大河は笑い、剣の刃先を確かめた。手甲があっても、何でも拳で済ませるつもりはない。それでも、相手へ触れる時に迷う理由が一つ減ったことは、嬉しかった。


            *


 二十一階層の安全エリアを見つけた頃には、夕方になっていた。


 途中で一度、帰るつもりだった道とは違う分岐へ入った。地図と合わない石柱の並びに気づいて戻り直し、別の道を確かめているうちに、魔物が寄り付かない区画へ辿り着いたのだ。


 先に休んでいた探索者たちへ挨拶をし、離れた壁際に場所を取る。大河は椅子を出して腰を下ろし、手甲を外した。指を動かしてから手首を回すと、装備をつけていた重さがようやく抜けた。


「今日は、ここまでですね」


【五日目お疲れ】

【ボス倒して一層下りたし十分】

【手甲当たりだったな】


「はい。今日の宝箱は、かなり嬉しいです」


 大河は金属についた砂を拭き、留め具にも傷がないか確かめた。横へ置いたマジックソードと見比べ、自然と笑みが浮かぶ。高尾へ来る前には持っていなかった装備が、もう今日の戦闘で役に立っていた。


 夕食を用意すると、思っていたより腹が減っていることに気づいた。食べる間もコメントは流れていたが、返事の間隔が少し長くなる。皿の中が減ってから水を飲むと、視聴者に笑われた。


【今日は食べるの優先だな】

【ちゃんと腹減ってる十八歳】

【戦闘中より静か】


「いや、普通においしいんで。あと、腹減りました」


 周りでは、ほかの探索者たちも食事を取っている。誰かが小さく笑い、食器を置く音がした。地上の店とは景色も違うが、魔物を相手にしていた時よりずっと馴染みのある音だった。


 大河は食べ終え、残った物資を確かめた。まだ先へ進めるだけの食料と水はある。使ったポーションも宝箱から補充できているが、残りの本数は毎日見ておきたかった。


 最後に地図を開き、今日歩いた道を見た。二十階層のボスを越えて、今は二十一階層。高尾へ来てから、一度も自分の部屋へ帰っていない。


「……帰ったら、まず風呂だな」


【分かる】

【五日も潜ってるとな】

【先に洗濯だろ】


「それもあります。両方ですね」


 身体を拭くための物は持ってきている。それでも、湯に浸かるところを想像すると、急に部屋の風呂が恋しくなった。冷蔵庫に何が残っていたかまで考えかけ、大河は苦笑する。


 帰りたくなったからといって、明日帰るつもりにはならなかった。せっかく二十階層のボスを越えたのだ。この先を、自分の目で見たい。


 地図を閉じ、整備を終えた剣を手元へ置く。手甲も並べ、明日すぐに装着できるようにした。


「明日も進みます。まず二十二階層へ下りる道からですね」


【明日も見るぞ】

【今日もちゃんと寝ろよ】

【次は打撃で倒すところ楽しみにしてる】


「はい。お付き合いありがとうございました」


 大河は配信を切り、ドローンを戻した。寝具を広げる前に立ち上がり、固まった肩と脚を軽く動かす。ボスとの戦闘も、ゴーレムを相手にした時の感触も、まだ身体に残っていた。


 剣をアイテムぼっくすに入れて横になると、少し離れたところから話し声が聞こえた。誰かが明日の道について相談している。大河もスマートフォンを手に取り、調べるつもりの分岐を一度だけ確かめた。


 高尾で五度目の夜だ。


 画面を閉じ、目を閉じる。明日も迷うかもしれないし、今日より強い魔物に会うかもしれない。それを考えながらも、大河は寝具の中で身体を緩めた。今日できることは終えた。続きは、しっかり眠ってからだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。