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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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初めての夜



 グレートロックリザードの身体は、近くで見ると一段と大きかった。岩のような鱗の隙間へ刃を入れ、魔石を取り出すまでにも手間がかかる。大河は回収した魔石についた血を拭い、掌の上で重さを確かめた。


「これ、持って帰るだけでも大変だな」


【普通はな】

【お前には関係ないだろ】

【収納できるやつの感想じゃないんよ】


「いや、便利なのは分かってますよ」


 魔石を《アイテムボックス》へ収め、大河は立ち上がった。素材も持ち帰りたいが、この巨体を丸ごと扱うのは難しい。剥がしやすそうな鱗をいくつか回収したところで切り上げ、奥に出現した宝箱へ向かった。


 蓋を開けると、瓶が数本と、布に包まれた素材が入っていた。《鑑定》で順に確かめると、瓶の中身はポーションだった。


「回復用ですね。こっちは魔力回復か」


【長期探索なら助かるやつ】

【装備はなし?】

【薬も普通に当たりだぞ】


「ですね。使わず持って帰れたら、それが一番ですけど」


 大河は瓶を一本ずつ収納した。戦闘中に必要になった時、ほかの荷物と取り違えないように、しまう物を意識しておく。最後に素材を収め、空になった箱から離れた。


 腰を下ろして水を飲むと、ようやく肩の力が抜けた。剣を持っていた右手を開き、握り直す。痛みはないが、腕には戦闘の疲れが残っていた。


 その一方で、身体の奥には覚えのある熱が広がっている。大河は自分へ《鑑定》を使い、表示された数字を見て口元を緩めた。


【レベル:52】


 五階層からここまで、何度も戦ってきた。最後の一体も含めて、ようやく一つ上がったらしい。大河はほかの数値にも目を通してから、表示を閉じた。


【またその顔】

【何かいいことあったな】

【宝箱に装備なかったのに笑ってる】


「十階層、勝てたんで」


【それもあるだろうけど】

【まあいいや、おめでとう】

【ちゃんと休めよ】


「ありがとうございます。休むのは、ちゃんと休みます」


 水の蓋を閉め、スマートフォンで時刻を確かめた。思っていたよりも時間が経っている。九階層の道中も、十階層の戦闘も、夢中になっている間は長く感じなかった。


 次は十一階層だった。


 身体を休めれば、まだ戦えるだろう。階段へ続く道に目を向けかけて、大河は視線を手元へ戻した。


 戦えるかどうかだけで、進む先を決めるわけにはいかない。


「今日は、ここまでにします」


【お】

【ちゃんと止まった】

【初日で十層なら十分だろ】


「進んだ先で寝る場所が見つからないと困るんで。先に、今夜の場所を決めます」


 高尾へ入る前に、野営に使われる場所についても確認していた。上層にも探索者が休みやすい場所はある。ただし、中層にあるという魔物の寄り付かない区画とは違う。


 寝ている間の見張りが必要になる。


 大河は剣の汚れを落とし、装備を確かめてから腰を上げた。まずは十階層へ来る途中に見た、道の脇へ大きく岩が張り出した場所へ戻ってみることにした。


            *


 来た道を戻っていると、前方から人の話す声が聞こえた。岩の陰に明かりが見え、続いて、こちらを確かめるように一人の男が顔を出す。


 大河は歩く速度を落とし、剣を下げた。


「こんばんは」


「こんばんは。……一人?」


「はい。今、十階層のボスを倒して戻ってきたところです」


 男の視線が大河の後ろへ向き、それから剣へ戻った。岩の奥には、ほかに二人の探索者がいた。大きな荷物を下ろし、一人は防具を外し、もう一人は小さな鍋を火にかけている。


「ソロであれを? それはすごいな」


「結構、硬かったです」


「硬かった、で済むのか」


 男が笑うと、鍋を見ていた探索者も顔を上げた。


「配信してる人?」


「はい。映して大丈夫ですか? 駄目なら、こっちに向けないようにします」


「俺はいいよ。二人は?」


 奥の二人も頷いた。大河はドローンの位置を少し変えてから、改めて頭を下げた。


「天草大河です」


「臼井です。俺たちは三人で潜ってる。今夜はここで寝る予定なんだけど、君も場所を探してるところ?」


「そうです。ここ、使えそうだなと思ってたんで」


 近づいて見ると、岩の張り出しはかなり深かった。奥と片側が岩壁になっていて、地面も平らだ。通る魔物を警戒する方向を絞れるのが、野営に使われる理由なのだろう。


 臼井は大河の後ろをもう一度見た。


「荷物は?」


「《アイテムボックス》に入れてます」


「ああ、なるほど。羨ましいな、それ」


【全探索者が欲しいやつ】

【あの荷物見たら分かる】

【寝袋も飯も持ってるのに手ぶらだもんな】


 岩壁際には、三人分の大きなリュックが並んでいた。大河も収納できなければ、似たような荷物を背負っていたはずだ。飲み水と食料だけでも、長く潜るとなれば相当な量になる。


「ここ、少し使わせてもらってもいいですか?」


「もちろん。見張りも交代できるし、こっちも助かるよ」


「俺も入っていいんですか?」


「寝る場所を一緒に使うんだから、そこはお互い様でしょ」


 臼井は当たり前のように答えた。大河は岩の奥を見て、それから三人へ視線を戻した。


「お願いします。長く潜るの、今回が初めてなんで」


「じゃあ、寝る前に見張りのやり方も確認しとこうか」


 話が決まると、大河は空いている場所へ荷物を出した。寝袋、食料、水。それまで何もなかった地面へ次々と物が並び、鍋を見ていた探索者が笑う。


「本当に全部入ってるんだな」


「そのために買ってきたんで」


 最後に折り畳みの椅子を出すと、臼井まで声を上げて笑った。


【さっきも使ってた椅子】

【見張りでも使えるな】

【俺もアイテムボックス欲しい】


「座れるなら、座りたいじゃないですか」


 大河はそう返し、椅子を広げた。


            *


 夕食を取る間にも、三人のうち一人は通路へ目を向けていた。全員が同時に装備を外すこともない。大河も剣を手の届く場所へ置き、臼井の話を聞きながら食事を進めた。


「向こうの曲がり角から来ることが多い。反対側も、音は拾っておいて」


「はい」


「見張ってる間に魔物を見つけても、遠くまで追わなくていいよ。寝てる人間を置いていくことになるから」


 大河は頷いた。自分だけで動いている時とは、見るべきものが違う。倒せる相手が来ても、ここから離れれば、残った三人を守る目がなくなる。


「来たら、まず起こすんですね」


「そう。倒してから起こそうとしなくていい」


「分かりました」


【ちゃんと聞いてる】

【一人で全部やろうとしがちだからな】

【寝る時は交代できる方がいいよね】


 食事を終えると、大河は空いた容器を片づけ、防具の留め具を確かめた。肩には、六階層で矢を受けた時の傷が残っている。表面を指でなぞり、緩みや割れがないことを確認した。


 マジックソードにも欠けはなかった。血や汚れを拭き取ると、黒い刀身が明かりを鈍く返す。


 今日、この剣に雷を纏わせるようになった。


 全身を強化した時の速さも、まだ身体に残っている。初めて踏み込んだ時は、自分で思った位置より先まで進んでいた。それが今では、相手の攻撃を見てから離れるためにも使えている。


「……一日で、結構変わるな」


【朝は使い方も知らなかったしな】

【初Eと雷が同じ日だった】

【今日だけでも見どころ多かったわ】


「俺も楽しかったです。十階層のやつは、ちょっと大変でしたけど」


【ちょっと?】

【岩砕いてたぞ】

【楽しかったが先に出るあたり】


 大河は笑い、剣を鞘へ戻した。身体は疲れているのに、戦闘を思い返すとまた握りたくなる。隣で寝袋を広げる音を聞いて、ようやく手を離した。


 今夜は休むと決めたのだ。


「今日は、この辺で配信終わります。付き合ってくれて、ありがとうございました」


【お疲れ!】

【初日十層突破おめでとう】

【ちゃんと寝ろよ】

【明日も待ってる】


「はい。また明日」


 配信を終了し、ドローンを手元へ戻す。静かになった機体を収納すると、周囲の音が少し近く感じられた。鍋を片づける音と、寝袋の布が擦れる音。その向こうには、遠い足音のような響きもある。


 大河は椅子を通路の見える位置へ移した。


 最初の見張りは、自分が引き受けていた。眠るまで待つよりも、起きているうちにやった方がいいと思ったからだ。臼井に交代の時間を確かめ、スマートフォンをしまった。


 ほかの三人が横になると、大河は剣を膝の横へ置いた。身体強化は使わず、通路と岩陰へ交互に目を向ける。


 魔物の姿はない。


 それでも、食事をしている時のように気を抜くことはできなかった。何かが近づけば、声を出して三人を起こす。そのために、自分が起きている。


 少し離れたところで、小石の転がる音がした。


 大河は椅子から立ち、剣の柄に手を添えた。明かりの届く範囲を確かめ、音のした方へ耳を澄ませる。しばらく待っても、足音や唸り声は続かなかった。


 遠くで落ちた石だったのかもしれない。


 椅子へ戻っても、大河はそちらへ目を向けていた。戦闘なら、見えている相手を追えばいい。何も来ていない時間にも見続けるのは、別の疲れ方をする。


 時間を確認したくなったが、スマートフォンへ手を伸ばしかけてやめた。まだ交代まではある。大河は水を一口飲み、姿勢を変えた。


            *


「天草君、交代」


 後ろから声をかけられ、大河は振り向いた。臼井が防具を整え、こちらへ歩いてくる。


「もう時間ですか?」


「うん。何か来た?」


「姿は見てないです。途中で、あっちから石の音がしました。続かなかったんですけど」


 大河が方向を示すと、臼井はそちらを確かめて頷いた。


「分かった。お疲れ。あとは寝ていいよ」


「お願いします」


 見張る位置を譲り、大河は寝袋へ戻った。剣をすぐ取れる場所へ置いてから、ブーツを脱ぐ。横になった途端、足の重さがはっきり分かった。


 自宅のベッドとは違う硬さだった。頭の下へ畳んだ布を入れ、収まりのいい位置を探す。目を閉じても、しばらくは遠くの音が気になった。


 近くで、臼井が椅子の位置を直している。


 その音を聞いて、大河はゆっくり息を吐いた。今は、起きている人がいる。自分がしていたことを、代わりにしてくれている。


 十階層まで進んだ一日が、ようやく終わろうとしていた。


 明日は、十一階層からだ。


 そこまで考えたところで、次の魔物を想像するよりも先に、眠気が大河を包んだ。


【天草 大河】

【レベル:52】

【体力:84】

【筋力:85(+10)】

【耐久:83】

【敏捷:86(+5)】

【魔力:82(+5)】

【精神:87】

【常在スキル:《レベルアップ補正》《危機感知》】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》《魔力属性変化・雷》】

【装備:《マジックソード》《ミノタウロスの指輪》《疾風のブーツ》《魔力の腕輪》】

【探索者ランク:E】



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何の関係もない初対面の人間達と一緒に夜営なんて恐ろしくてできない。
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