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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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岩の鎧



 汚れを拭き終えた刀身を傾け、大河は刃先を確かめた。黒い刃に欠けはなく、魔力を流せば半透明の刃もいつも通りに伸びる。剣を鞘へ戻して立ち上がると、座る前より脚の重さも抜けていた。


「よし。行きますか」


【休憩終了】

【九階層へ】

【剣も綺麗になったな】


 椅子と水を収納し、大河は下り坂へ向かった。少し長めに休んだ分、時刻は進んでいる。十階層のボスへ着くまでに、また疲れを溜めすぎないようにしたかった。


 九階層では、コボルトの集団が続いた。弓持ちを含む四体と戦い、その次には槍持ち二体が道を塞いでいた。大河は岩陰を使って集団を分け、一体ずつ倒して進む。


 全身強化・雷にも、少しずつ慣れてきていた。大きく回り込むだけでなく、相手の剣が届く範囲から短く離れ、振り終わったところへ戻る。朝には行きすぎていた踏み込みも、今は狙った位置で止めやすい。


「……今のはいいな」


【また何か掴んだ?】

【戻ってくるの速かった】

【朝から動き変わりすぎだろ】


「速いだけじゃなくて、止まれるようになってきました」


 倒したコボルトから魔石を回収し、大河は先へ目を向けた。試したい動きは、まだある。けれど、魔物を見つけるたびに全力で試していたら、肝心のボスまで持たない。


 その後は戦闘のたびに短く息を整え、魔石を回収する間は身体強化を解いた。歩く時まで力を入れ続ける必要はない。下り坂を見つけたところで水を飲み、装備を確かめてから十階層へ向かった。


            *


 十階層の道には、大きな岩が増えていた。壁から張り出した岩を避けて進むと、天井が高くなり、前方の地形が緩やかに開けていく。地面には細かな石が散らばり、その奥で何かが擦れる音がした。


 大河は足を止めた。


 岩だと思っていた塊が、持ち上がる。太い四本の脚が地面を踏み、背中に並んだ突起が揺れた。道中で倒したロックリザードより二回り以上大きく、頭から尾まで、分厚い岩のような鱗に覆われている。


「……でかいな」


 魔物がこちらへ顔を向ける。大河は剣を抜き、《鑑定》を使った。


【グレートロックリザード】

【レベル:62】

【体力:112】

【筋力:98】

【耐久:116】

【敏捷:63】

【魔力:38】

【精神:48】


 耐久の数値を見て、大河は黒い刀身へ魔力を流した。普通のロックリザードにも、背中を斬っただけでは浅い傷しかつかなかった。この大きさなら、蹴って簡単にひっくり返すこともできそうにない。


【十階層のボスだ】

【普通のやつとは硬さ違うぞ】

【また腹狙いか?】


「狙えれば、そうしたいですね」


 大河が全身へ雷属性の魔力を循環させると、グレートロックリザードは口を開いた。低い唸り声が岩壁へ響き、巨体が地面を蹴る。大河は横へ動き、突進をかわしながら前脚の付け根へ剣を振った。


 硬い手応えが返ってきた。


 魔力刃が鱗を割ったものの、その下にも厚い皮がある。深く押し込む前に魔物が身体を曲げ始め、大河は剣を抜いて離れた。太い尾が横から迫り、近くの岩を叩いて砕く。


「……脚のところも硬いのか」


【岩割ったぞ】

【尾も太すぎる】

【一発もらったらやばいな】


 大河は砕けた岩を避けながら、魔物の右側へ回った。グレートロックリザードは前脚を踏み替え、頭をこちらへ向ける。巨体にしては向き直るのが速く、横へ入っただけでは腹を見せてくれなかった。


 開いた口が迫ってくる。大河は後ろへ跳び、牙が閉じるのを見てから剣を振った。刃が頭の横を削り、スパークが走る。


 魔物は止まらなかった。


 頭を振って大河へぶつけようとし、続けて前脚を踏み出してくる。大河はさらに距離を取り、雷を纏った剣を構え直した。


「頭まで鎧着てるみたいだな」


 傷はついている。ただ、今の出力では、何度も同じ場所へ斬りつけなければ深く入らない。大河は剣へ送る魔力を増やした。刀身の外側に伸びる刃が厚みを増し、表面で弾ける雷も強くなる。


【剣でかくした】

【出力上げるか】

【今度は通るかな】


 大河は再び右へ動いた。グレートロックリザードが顔を向け、牙を剥く。頭が伸びてきたところを横へ避け、先ほど傷をつけた前脚へ斬りかかった。


 厚い魔力刃が、割れた鱗の奥へ食い込む。


 魔物が吠え、右前脚を引いた。大河は剣を抜いて追おうとしたが、背筋に警告を感じて顔を上げる。巨体が傾き、こちらへ横腹を押しつけるように迫っていた。


「っ!」


 大河は後ろへ跳んだ。足元まで身体が滑り込み、地面の石が弾き飛ばされる。さらに尾が追ってきたため、大河は岩の間へ逃れた。


 尾が岩へぶつかり、鈍い音が響く。大河は足を止めず、反対側へ抜けてから振り返った。


【身体ごと来た】

【横にいると潰されるのか】

【脚は傷ついたぞ】


 グレートロックリザードは右前脚を庇っていた。四本の脚で立ってはいるが、向き直る時には左側へ重さを寄せている。大河は剣を握り直し、魔物の足運びを見ながら近づいた。


「もう少し、そっちに寄せてもらうか」


 右側へ向かうと、魔物は傷ついた脚を引いて身体を曲げた。大河は尾が動き始めたのを見て踏み込みを止め、届く範囲の外へ下がる。尾が通り過ぎたあと、今度は左へ走った。


 魔物が頭を振り向ける。大河はそのまま横へ抜け、左前脚の内側へ刃を走らせた。こちらも鱗が厚く、一度では深く入らない。それでも、傷をつけたところへ魔物の体重がかかった。


 左前脚が沈む。


 大河はすぐに離れた。頭が振り下ろされ、地面を打つ。砕けた石が脚の装備へ当たったが、大河は魔物の両前脚から目を離さなかった。


 右側は深く傷つき、左側にも傷がある。向き直るたびに、前よりも身体が低くなっていた。


【脚から崩してる】

【ひっくり返さなくてもいいか】

【顔の位置下がったな】


「そのまま立ってられると、斬りにくいんで」


 グレートロックリザードが唸り、再び突っ込んできた。最初ほど勢いはないが、その分だけ大河の動きを追って頭を曲げる。大河は早めに横へ逃れず、開く口を見ながら距離を測った。


 牙が届く前に、右へ踏み込む。


 魔物が追おうと右前脚を動かした。傷ついた脚へ力がかかり、頭が低く落ちる。大河は厚い魔力刃を、その首の横へ振り抜いた。


 鱗が裂け、刃が深く入った。大河はすぐに剣を抜いたが、魔物は傷を負ったまま頭を振り上げてくる。牙を避け、伸びた首の下へもう一度刃を走らせた。


 柔らかい部分を斬り裂き、雷が弾ける。


 グレートロックリザードの頭が、口を開いたまま止まった。


 大河は地面を蹴った。止まった頭の横へ入り、首へつけた傷に向かって剣を振る。魔力をさらに流し込んだ刃が厚い肉を断ち、抜けた先でスパークを散らした。


 巨体が前へ崩れる。大河は剣を引いて離れ、暴れる尾の外まで後退した。


【入った!】

【首いったぞ】

【まだ尾動いてる、気をつけろ】


 大河は構えを解かず、魔物を見ていた。太い尾が何度か地面を叩き、傷ついた脚が石を掻く。やがて頭が地面へ落ち、身体の動きも収まった。


 近づく前に少し待ち、呼吸が止まっていることを確かめる。大河はそこでようやく剣を下げた。


「……倒せた」


【十階層突破!】

【お疲れ】

【あのでかいのソロで倒したか】

【岩の鎧も脚から崩せばいけるんだな】


 大河は雷属性への変化を解き、息を整えた。剣へ送る魔力を増やし続けた分、五階層の戦闘より消耗を感じる。握っていた右手を開き、指を曲げ伸ばししてから、もう一度魔物へ目を向けた。


「同じ蜥蜴でも、結構違いましたね」


 普通のロックリザードなら、顎を蹴って身体を浮かせ、横腹へ続けて蹴りを入れられた。この巨体へ同じことをしても、動かせなかっただろう。脚を傷つけて頭を下げさせた方が、剣を入れる場所を作れた。


【でかいのまで蹴り飛ばさなくて安心した】

【さすがに重そうだったもんな】

【次は殴るかと思ってた】


「俺を何だと思ってるんですか」


【蜥蜴殴る人】

【戦闘狂】

【TAIGA】


「最後だけ合ってます」


 大河は笑い、剣についた血を払った。奥では宝箱の出現を告げる光が集まり始めている。そちらを見てから、大河は倒れた魔物の脇へしゃがみ込んだ。


 まずは魔石を回収する。それが済んだら、宝箱を開けて休もう。


 高尾ダンジョンに入って、これで十階層。まだ先は長いが、今日だけでも戦い方は随分増えていた。



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