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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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18/42

指揮官



 コボルトキャプテンが吠えると、左右の槍持ちがさらに距離を広げた。前の二体は盾を構えたまま、大河へ近づいてくる。道中の集団よりも間隔が広く、一体をほかの魔物との間に置こうとしても、別の方向から槍が届く配置だった。


 大河は剣を構え、まず右へ動いた。


 盾持ちがそちらへ向き直る。その外側にいた槍持ちも下がりながら穂先を向け、回り込む道を塞いできた。中央のキャプテンは動かず、四体の後ろから大河を見ている。


「……広がるのか」


【横に回らせないつもりだな】

【さっきまでの集団と違うぞ】

【真ん中のやつまだ動いてないの怖い】


 大河はさらに外へ動き、槍がこちらを追うのを確かめた。速さで抜けようとすれば、抜けること自体はできるかもしれない。ただ、その先に何が届くかを見ないまま踏み込むつもりはなかった。


 盾持ちが剣を振り上げた。


 大河は後ろへ下がり、振り下ろされた刃を外す。続けて伸びてきた槍を弾くと、もう一体の盾持ちも距離を詰めてきた。キャプテンの吠え声に合わせ、四体が少しずつ大河を左右から挟む。


 入口から離れすぎる前に、大河は大きく後退した。


「そっちの形で戦う必要はないか」


 追ってくる四体の足を見る。盾持ちは盾を構えながら進むため、槍持ちより少し遅い。大河は後ろへ動きながら左へ寄り、外側の槍持ちへ踏み込む構えを見せた。


 キャプテンが短く吠えた。


 左の盾持ちが横へ出て、槍持ちとの間を塞ぐ。大河はその動きを見て地面を蹴り、盾持ちの正面へ一気に距離を詰めた。


 半透明の魔力刃が、持ち上げられた盾へぶつかった。


 衝撃でコボルトの腕が下がる。大河は剣を押し込み続けず、盾の縁を左手で掴んで外へ引いた。開いた胴へ蹴りを叩き込み、前衛を後ろの槍持ちへぶつける。


「ギャッ!」


 槍の向きが逸れた。大河は盾から手を離し、傾いた前衛の首元へ剣を振り抜いた。魔力刃が深く入り、一体目が崩れる。


【盾引っ張ったぞ】

【蹴って後ろにぶつけた】

【一体落ちた!】


 倒れる身体を避けようと、左の槍持ちが足を止めた。大河は穂先がこちらへ戻る前に踏み込み、槍を持つ腕へ剣を振る。傷口で雷が弾け、コボルトの指が柄を握ったまま固まった。


 大河はその隙に懐へ入り、返した刃を胸へ走らせた。


 背筋に警告が走る。


 顔を向けると、幅広の剣を構えたキャプテンが、すぐ近くまで来ていた。大河は倒れる槍持ちから離れながら剣を上げ、斜めに振り下ろされた一撃を受け流した。


「っ……!」


 刃が滑り、衝撃が腕を抜ける。大河はそのまま横へ逃れたが、キャプテンは剣を引き戻さず、身体を捻って横薙ぎに繋げてきた。大河はさらに後ろへ跳び、胸元を通り過ぎる刃から離れた。


 着地した先へ、残る槍持ちが穂先を向けていた。


 大河は足を止めずに横へ動く。槍をかわし、追ってくる盾持ちからも距離を取ったところで、ようやく構えを戻した。


「……自分でも来るか」


【今のやば】

【取り巻き倒してる間に詰めてきたな】

【あいつ指揮だけじゃないぞ】

【一気に二体減らしたのに休ませてくれん】


 キャプテンが低く唸り、幅広の剣を構え直す。残る盾持ちと槍持ちが、その左右へ戻った。今度はキャプテン自身も前に立ち、三体で大河を見据えている。


 大河は剣を握り直した。


 速さでは、自分の方が上だ。問題は一体へ踏み込んだあと、ほかの二体に攻撃されることだった。先ほどのように追撃まで続けるなら、キャプテンの位置を見ておかなければならない。


「……よし」


 大河は盾持ちへ向かって踏み込んだ。コボルトが盾を上げ、キャプテンもそちらへ動く。大河は斬りかからずに足を止め、横へ跳んだ。


 狙いを変え、槍持ちへ向かう。


 キャプテンが向き直った時には、大河の剣が槍を外へ弾いていた。コボルトは柄を引き戻そうとしたが、大河はその腹へ膝を叩き込んだ。上体が折れ、穂先が地面へ落ちる。


 首元へ刃を走らせ、三体目を倒す。


 大河はすぐに離れた。キャプテンの剣が、さっきまで自分のいた場所へ振り下ろされる。追撃の横薙ぎも距離を取って外すと、盾持ちだけが少し遅れてこちらへ近づいてきた。


【止まらず動いてる】

【今度はボスの攻撃も見てたな】

【あと盾とボス】

【雷の速さがめちゃくちゃ効いてる】


 キャプテンが盾持ちへ吠えた。コボルトは足を止め、キャプテンの横へ戻ろうとする。


 大河は戻らせなかった。


 全身にスパークを走らせ、一気に距離を詰める。盾持ちが慌てて身体を向けるところへ、厚みを増した魔力刃を振り下ろした。盾が裂け、受けた腕ごと外へ流れる。


 コボルトが剣を振ろうとした。


 大河はその腕を左手で押さえ、踏み込みながら肩をぶつけた。体勢の崩れた相手へ刃を返し、胴を深く斬る。キャプテンが剣を振り上げたのを見て、大河は押さえていた腕を放して後退した。


 四体目が倒れた。


 追ってきたキャプテンの剣が大河へ迫る。半歩横へ動いてかわすと、剣はそのまま地面を削った。大河は相手の脇腹へ斬りかかったが、キャプテンが肘を引き、金属鎧の厚い部分で受けた。


 甲高い音が響く。


 魔力刃は鎧へ傷をつけたものの、深くは入らなかった。キャプテンは動きを止めず、大河へ身体ごとぶつかってくる。大河は左腕で肩を押さえ、横へ逃れた。


「……お前も硬いのか」


 距離を取ると、キャプテンは追ってこなかった。倒れた四体を一度見てから、大河へ顔を戻す。低い唸り声が、開けた空間へ響いた。


【一対一になった】

【取り巻き全滅】

【鎧が厄介だな】

【あの剣も結構重そう】


 大河はキャプテンの構えを見た。右手に幅広の剣。左手は空いているが、近づけば肩や腕で押し返してくる。取り巻きを動かしている時だけでなく、自分で戦う動きにも慣れていた。


 キャプテンが地面を蹴る。


 大河は正面からの斬撃を横へかわし、続く横薙ぎからも離れた。剣を振り終えたところへ踏み込むと、相手はすぐに柄を引き、刃を胸元へ戻そうとする。


 大河の足の方が速かった。


 左へ回り込み、剣を持つ腕の内側へ刃を入れる。鎧の継ぎ目を魔力刃が切り裂き、キャプテンが吠えた。雷が走ったが、腕は止まらない。傷を負ったまま剣を返してくる。


 大河は追撃を止め、刃の届く範囲から離れた。


「……それでも振るか」


 キャプテンの右腕から血が流れていた。握った剣を離す気配はない。大河が構え直すと、相手も再び剣を上げた。


 大河は笑みを浮かべた。


「そういうの、嫌いじゃないよ」


【お前ほんとそういうとこだぞ】

【喜んでる場合か】

【でも今の攻撃は通ったな】


 キャプテンが踏み込み、剣を斜めに振り下ろす。大河は横へ避けながら、その腕を見た。傷を負う前よりも戻りが遅い。続く横薙ぎを低く身を沈めてかわし、相手の横へ入る。


 剣を振る代わりに、膝の横へ蹴りを入れた。


 キャプテンの足が折れ、身体が傾く。空いた左手が大河の肩を掴もうと伸びてきたが、大河はさらに外側へ動いた。剣へ送る魔力を増やし、傷ついた右腕へ再び刃を走らせる。


 スパークが弾けた。


 キャプテンの腕が、剣を握ったまま止まった。


 大河はその動きを見逃さなかった。腕が下がって開いた首元へ、厚い魔力刃を振り抜く。刃が深く食い込み、キャプテンの身体が大きく揺れた。


 幅広の剣が地面へ落ちる。


 キャプテンは膝をつき、前へ倒れた。大河は剣を構えたまま離れ、相手が動かなくなるまで目を離さなかった。


 空間に残っていた唸り声が消える。


「……よし」


 大河は短く息を吐いた。身体を包む雷を解き、剣へ流す魔力も止める。静かになった刀身へ目を落とすと、握っていた手に少し力が入っていることに気づいた。


【倒した!】

【五階層突破】

【ソロであの五体はすごいわ】

【最後の雷が効いたな】


「最後、止まってくれましたね」


 大河はキャプテンの死体を見下ろした。途中の一撃では、雷が走っても剣を振ってきた。止まることを前提に追撃していたら、攻撃を受けていたかもしれない。


 動けば避ける。止まれば、その隙を使う。


 それを判断できる速さが、今の自分にはあった。


            *


 周囲を確かめていると、空間の奥に淡い光が集まった。光が収まったあとには、一つの宝箱が置かれている。大河は先に五体から魔石を回収し、それから箱へ向かった。


「最初の宝箱か」


【何出るかな】

【また当たり引くか?】

【今の剣と雷だけでも十分当たりなんだよな】


「それは別ですよ。もらえるなら欲しいです」


 蓋を開けると、中にはポーションと、いくつかの素材が収められていた。大河は一つずつ《鑑定》で確認し、使える物と売る物を分けながら《アイテムボックス》へ収納する。


 新しい武器や装備はなかった。それでも、探索中に使えるポーションが増えるのはありがたい。


「助かるな。まだ先長いんで」


 箱を確認し終えたところで、身体の奥に広がっていた熱へ意識を向けた。戦闘を終えた時に感じた変化は、やはりレベルアップだった。自分へ《鑑定》を使うと、レベルの欄が変わっていた。


【レベル:51】


「よし」


【今の「よし」は?】

【また上がった?】

【顔で分かるようになってきた】


「……秘密です」


【遅い】

【もう反応しちゃってるんだよ】

【まあ五十になったばっかだし察する】


 大河は苦笑して表示を閉じた。身体の疲れも、魔力の消耗もある。成長したからといって、休まなくていいわけではなかった。


 まだ高尾へ入って最初の昼だ。ここまで食べずに進んできたことを思い出し、大河は入口側の道へ目を向けた。


「一回、食べます。続きはそれからですね」


【ようやく飯】

【ちゃんと休めよ】

【初日から濃すぎる】


「俺も、ここで新スキル取るとは思ってなかったんで」


 大河は戦闘を終えた空間を離れ、途中で確認していた見通しのよい場所へ戻った。魔物の姿と足音を確かめてから腰を下ろし、食料と水を取り出す。ここは安全エリアではないため、ドローンを少し離し、自分でも周囲へ目を配った。


 食べながら、先ほどの戦闘を思い返す。


 五階層のボスで、あれだけ連携してきた。十階層、十五階層では何が出るのか。その先の中層は、魔物だけでなく道を探すことも難しくなる。


 大河は水を飲み、手元の剣を見下ろした。


「……まだ五分の一も終わってないのか」


【全三十層だからな】

【今日は始まったばっかり】

【その先もちゃんと見てるぞ】


「じゃあ、続きも楽しみにしててください」


 大河はそう答え、残っていた食料へ手を伸ばした。先へ進みたい気持ちはあったが、今は食べきって、休む。六階層へ向かうのは、身体を整えてからだ。


【天草 大河】

【レベル:51】

【体力:82】

【筋力:83(+10)】

【耐久:81】

【敏捷:84(+5)】

【魔力:80(+5)】

【精神:85】

【常在スキル:《レベルアップ補正》《危機感知》】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》《魔力属性変化・雷》】

【装備:《マジックソード》《ミノタウロスの指輪》《疾風のブーツ》《魔力の腕輪》】

【探索者ランク:E】



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