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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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雷の剣

本日3話目です



 二階層へ下りて最初の戦闘で、槍の穂先が大河の肩を掠めるように通り過ぎた。


 半歩横へ動いてかわし、踏み込んできたコボルトの腕へ剣を振る。半透明の魔力刃が革鎧の隙間へ食い込み、刀身に沿って走っていたスパークが、相手の身体で弾けた。


「ギッ――」


 コボルトの腕が、不自然に止まった。


 槍を引き戻そうとしていたはずの手が動かない。大河はその変化を見ながらも足を止めず、相手の胸へ剣を突き立てた。


 倒れる身体の向こうから、別のコボルトが迫る。大河は剣を抜いて離れ、振り下ろされた刃をかわした。残る二体との距離を取りながら、今倒した一体へ一度だけ目を向ける。


「……今、止まった?」


【止まったな】

【槍戻せてなかった】

【雷で痺れた?】

【まず残り倒せ】


「分かってます」


 雷を纏わせた《マジックソード》を試そうとした最初の戦闘で、早くも気になる変化が起きていた。ただ、今は確かめている場合ではない。盾持ちが前へ出て、その背後からもう一本の槍が向けられている。


 大河は全身を巡る魔力も雷属性へ変えた。オーラにスパークが走り、地面を蹴る足へ力が乗る。盾持ちが構えを変えるより早く外側へ回り、剣を振り抜いた。


 魔力刃が脇腹を斬る。


 コボルトは悲鳴を上げながらも身体を捻り、盾で大河を押し返そうとした。今度は動きが止まらない。大河は盾から離れ、突き出された槍もかわした。


「毎回じゃないのか」


 傷を負った盾持ちがこちらへ向き直る。その背後で、槍持ちが次の攻撃を準備していた。大河は二体が位置を揃える前に再び踏み込み、盾の上から厚みを増した魔力刃を振り下ろす。


 盾が裂け、前衛が崩れた。


 残る一体は槍を構え直したが、大河との距離を保てなかった。穂先を弾かれ、懐へ入られる。胴へ斬撃を受けたコボルトは、後退しようとして足をもつれさせた。


 その身体で、短い光が弾けた。


 大河は相手の動きが止まったのを見て、続けて剣を振った。三体目が倒れ、道に武器の落ちる音が響いた。


 周囲に魔物がいないことを確かめてから、大河は剣へ目を落とした。半透明の刃には、まだ細い雷が走っている。


「……これ、動き止められるのか」


【今のも止まったな】

【一体目と最後のやつ】

【雷の剣、普通に強い】

【一瞬でも止まったら近接戦じゃ致命的だぞ】


 大河は最後のコボルトを見下ろした。傷を負って体勢を崩しただけなら、これまでも何度も見ている。今の二体は、それとは違った。動こうとしていた身体が、途中で止まっていた。


「ずっと止まるわけじゃないけど……十分だな」


 自分が先に動けるだけでも、戦いやすさは大きく変わる。そのうえ攻撃を当てた相手の動きまで止まれば、追撃する隙ができる。


【全身強化・雷で速くなって】

【雷の剣で相手止める】

【組み合わせおかしくない?】

【それをレベル五十でやってるんだよな】


「いや、俺も今びっくりしてます」


【でも嬉しそう】

【そりゃ嬉しいだろ】


 大河は笑いながら雷属性への変化を解いた。身体と剣からスパークが消える。魔石を回収して立ち上がると、奥へ向けた視線が自然と次の魔物を探していた。


            *


 二階層では、その後もコボルトの集団と何度か遭遇した。


 毎回、剣を当てれば相手が止まるわけではなかった。雷が走ってもそのまま攻撃してくる個体もいれば、腕や脚が止まり、体勢を崩すものもいる。大河は相手の動きを見ながら、止まれば追撃し、動けるなら次の攻撃に備えた。


 全身強化・雷にも、少しずつ慣れてきた。


 最初は踏み込むたびに距離が伸びすぎていたが、戦闘を重ねると、どこで止まるかを掴めるようになってくる。相手の横へ出て斬り、別の攻撃が届く前に離れる。その動きが、以前より短い時間で繋がった。


【もう普通に使ってるな】

【さっきドローン置いてったやつとは思えん】

【慣れるの早いなほんと】


「まだ、たまに近づきすぎますけどね」


 そう答えた大河は、剣についた血を拭き取った。速さに任せて踏み込むと、近すぎて剣を振りにくくなることがある。動ける距離が増えたからこそ、止まる位置を考える必要があった。


「でも、だいぶ分かってきました」


 次の階層へ下りる道を見つけ、大河は三階層へ進んだ。


            *


 三階層で最初に出会った魔物は、コボルトではなかった。


 低い岩陰から這い出てきたのは、大きな蜥蜴だった。身体は硬い鱗に覆われ、背中には岩のような突起が並んでいる。長い尾を引きずりながら、二体が別々の岩陰から姿を現した。


 大河は《鑑定》を使った。


【ロックリザード】

【レベル:51】

【ロックリザード】

【レベル:52】


「今度は蜥蜴か」


【そいつ硬いぞ】

【背中斬ると剣持っていかれる】

【尾も気をつけろ】

【雷の剣でどうなるかな】


 先に出てきた一体が口を開いた。鋭い歯が並び、低い唸り声とともに地面を蹴る。大河は全身強化・雷で横へかわし、すれ違いざまに背中へ剣を振った。


 刃が鱗を削り、硬い手応えが腕へ返ってくる。雷は走ったものの、傷は浅かった。大河はすぐに剣を離し、身体を曲げたロックリザードから距離を取った。


「……硬いな」


 太い尾が足元を薙いでいく。大河は後ろへ跳んでかわし、もう一体の位置も確かめた。剣へ流す魔力を増やせば、もっと深く斬れるだろう。ただ、岩のような背中へ何度も刃を叩きつける必要があるのかは、別だった。


「だったら、こっちは?」


 ロックリザードが向き直り、再び突っ込んできた。大河は牙を避けて横へ踏み込み、頭のすぐ脇へ入る。相手がこちらを向こうと首を持ち上げたところへ、下から蹴りを叩き込んだ。


 ブーツの先が、顎を捉えた。


 鈍い音とともに頭が跳ね上がり、前脚が地面から浮く。大河は脚を戻しながら踏み込み直し、傾いた身体の横腹へもう一度蹴りを入れた。


 ロックリザードが横倒しになり、長い尾が土を叩いた。


【蹴った!?】

【ひっくり返したぞ】

【硬いなら殴る方か】

【腹見えてる】


「そっちは、背中ほど硬くないだろ」


 暴れる脚の外側から剣を振る。厚みを増した魔力刃が腹へ深く入り、傷口でスパークが弾けた。大河は動きの止まった身体から剣を抜き、迫っていたもう一体へ顔を向けた。


 開いた口が、すぐ近くまで来ていた。


 大河は横へ動いて牙を外し、左足を踏み込んだ。剣を持っていない左手を握り、こちらへ振り向こうとする頭の側面へ拳を叩き込む。


「っ!」


 衝撃が腕へ返った。ロックリザードの頭が大きく横へ振られ、その身体も進路を逸れて地面を滑る。岩へぶつかったところで、大河は追いかけずに左手を開いた。


「……こっちも硬いな」


【そりゃそうだろ】

【素手で殴ったぞこいつ】

【でも吹っ飛ばしたな】

【剣だけじゃなかった】


 指を動かせることを確かめ、大河は再び剣を構えた。頭を殴っても簡単には倒せない。それでも、相手の向きを変えて距離を作るには十分だった。


 ロックリザードが立ち直り、低く唸る。大河はその顔を見ながら足を動かした。牙へ意識を向けつつ、身体を曲げ始めたのを見て尾の届く範囲から離れる。


 尾が通り過ぎたところへ、踏み込んだ。


 頭へ向かう動きに、ロックリザードが口を開く。大河はさらに横へずれ、今度は前脚の付け根へ剣を振り抜いた。


 魔力刃が鱗の隙間へ食い込み、身体が傾く。大河はすぐに剣を抜き、支えの崩れた横腹へ蹴りを叩きつけた。巨体が転がり、露出した腹へ続けて刃を突き立てる。


 ロックリザードの脚が土を掻いたあと、動かなくなった。


 大河は剣を抜いて離れ、二体とも倒れていることを確かめた。それから左手を軽く振り、短く息を吐く。


「剣で斬ることばっかり考えなくてもいいか」


【急に殴り始めた時はびびった】

【顎蹴って腹出すのよかったな】

【身体強化してるなら打撃も使えるもんな】

【雷の剣の検証じゃなかったのかよ】


「ちゃんと使ってますよ。倒すまで全部剣じゃなくてもいいだけで」


 大河は横倒しになったロックリザードへ目を落とした。硬い背中を斬ろうとすると、刃が止まる。体勢を崩して腹を狙えば、同じ剣でも深く入った。


 雷で速くなった分、牙や尾を避けたあとにも動ける余裕がある。その間に斬るだけでなく、蹴ることもできる。次に同じ相手が出てきたら、もっと滑らかに繋げられそうだった。


「……これならいける。」


【また楽しそう】

【覚えたこと全部戦闘に使う男】

【次の蜥蜴逃げて】


「いや、逃げられたら困るんですけど」


 大河は笑いながら雷属性への変化を解き、魔石の回収へ取りかかった。


            *


 三階層を抜け、四階層へ進む頃には、大河も戦闘の合間に休息を挟むようになっていた。


 周囲を確認してから水を飲み、剣の状態を確かめる。雷を試すことに夢中にはなっていたが、高尾に入ってから歩いた距離も、戦闘の回数も増えている。元気だからといって、そのまま進み続けるつもりはなかった。


【ちゃんと休んでる】

【成長したな】

【その調子で飯も食え】


「俺、そんなに何も考えてないように見えます?」


【強い敵見た時は】

【新スキル取った時も追加で】


「……今日は、ちょっと分かるかもしれない」


 大河は苦笑しながら水をしまった。確かに、雷が走った時には次の戦闘が待ちきれなかった。今も試したいことはある。それでも、ここで疲れ切ってしまえば、この先まで使い続けることはできない。


 休息を終え、四階層を進む。コボルトの集団を倒し、岩陰に潜むロックリザードを避けながら道を探す。上層の道は比較的分かりやすいと聞いていたが、歩くだけでもそれなりに時間がかかった。


 やがて、前方に下り階段が見つかった。


「……五階層か」


【最初のフロアボス】

【もうそこまで来たか】

【雷引いてから早かったな】

【ボス相手だとどうなるかな】


 大河は階段の手前で足を止めた。剣と防具を確認し、身体の疲れにも意識を向ける。まだ動ける。魔力も、戦闘へ使う余裕は残っていた。


「まず、見てきます」


 五階層へ下りると、奥から低い吠え声が響いてきた。これまで聞いてきたコボルトの声より太く、岩壁に反響している。


 大河は剣を構え、声のする方へ進んだ。


 道の先で、地形が大きく開けていた。岩に囲まれた広い空間の中央に、金属鎧を身につけたコボルトが立っている。これまでの個体より一回り大きく、その手には幅広の剣が握られていた。


 周囲には、さらに四体。


 中央の一体が大河を見つけて吠えると、四体が揃って武器を構えた。剣と盾を持つ二体が前へ出て、槍を持つ二体が左右へ広がる。


【取り巻き付きか】

【あの真ん中が指揮してるな】

【雑魚の集団とは違うぞ】


 大河は《鑑定》を使い、中央の一体から順に情報を確かめた。


【コボルトキャプテン】

【レベル:58】

【コボルトソルジャー】

【レベル:53】

【コボルトソルジャー】

【レベル:53】

【コボルトソルジャー】

【レベル:54】

【コボルトソルジャー】

【レベル:54】


 取り巻きも、ここまで戦ってきた個体より強い。大河は空間の広さと、左右へ動く魔物の位置を確かめた。中央のキャプテンは剣を構えたまま、前へ出る四体の後ろからこちらを見ている。


「……今度は五体か」


 全身を巡る魔力を雷属性へ変える。オーラにスパークが走り、続けて《マジックソード》にも雷が灯った。


 大河は剣を握り直し、前へ出てくる二枚の盾を見据えた。


「よし。やろうか」


【天草 大河】

【レベル:50】

【体力:80】

【筋力:81(+10)】

【耐久:79】

【敏捷:82(+5)】

【魔力:78(+5)】

【精神:83】

【常在スキル:《レベルアップ補正》《危機感知》】

【発動スキル:《詠唱》《アイテムボックス》《鑑定》《魔力操作》《魔力属性変化・雷》】

【装備:《マジックソード》《ミノタウロスの指輪》《疾風のブーツ》《魔力の腕輪》】

【探索者ランク:E】



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