魔法族、来たる
それは、白い髪と白い皮膚、そして赤い瞳を持つ男だった。
年齢は判別がつかない。
だがそれ以外は——不気味なほどに、人間と変わらぬ姿をしている。
そして、
「我はヤズダ族のソムトと申す」
感情の揺らぎを感じさせぬ声で、簡潔に名乗った。
チグラスもまた、
「チグラスと申す……宜しく頼む」
わずかに間を置き、頭を垂れる。
その視線が、ネリッサの遺体へと移った。
「……なるほど。これが」
ソムトの目が、わずかに細められる。
まるで“物”を確かめるような、冷ややかな観察の色を帯びていた。
一歩近づき、しばし見つめる。
「美しい女人だな」
「……頼む」
チグラスは短く言った、それ以上の言葉が出なかった。
ソムトは頷き、遺体に手をかざす。
次の瞬間——
もう一体、同じ遺体が現れた。
「——!?」
チグラスは目を見開く。
——複製……!?——
魔導では不可能な芸当だった。
「こちらは“器”だ」
ソムトは軽く説明すると、元の遺体へ手を触れる。
そして、呪文を紡いだ。
聞いたことのない言語。
音が、脳に直接響く。
「……っ」
チグラスは思わず額を押さえた。
視界が揺らぐ。
「おっと、すまない」
呪文が止む。
「地上の者には、少し強すぎる」
ソムトは軽く笑い、チグラスの額に触れた。
その瞬間——
すべてが澄んだ。
頭の奥にあった疲労も、迷いも、霧のように消えていく。
「……これは……」
「ついでに“余計な思考”も払っておいた」
ソムトは肩をすくめる。
「ここ最近、悩み続けていただろう?」
図星だった。
チグラスは言葉を失う。
「礼なら後でいい」
ソムトは軽く言った。
「地下都市に来たときに、まとめて受け取ろう」
その言葉で、進むべき道が定まる。
西の隣国、ガルテナ王国…。
地下都市デリーキュー。
「……王子は、すでに逃げている」
チグラスは呟くように言った。
「ほう」
ソムトは興味深げに目を細める。
「ならば、いずれ我らの地に来るな」
「匿ってもらえるのか?」
「できれば、そうしたいところだが——」
わずかに首を振る。
「そういう“運命”ではないらしい」
「……運命?」
「我らの王女、フリス様が“先見”を持っていてね」
チグラスは息を呑んだ。
「未来が……見えるのか?」
「ああ。お前たちがここへ助けを求めることも、すでに知っていた」
——なんだ、この種族は……——
チグラスは戦慄する。
魔導とも、占術とも違う力。
理解の外にある存在。
「まあ、いずれわかるさ」
ソムトは軽く笑った。
「お前たちが進む道もな」
その言葉を残し——
静かに、姿を消した。
後に残されたのは、静寂と大きく動き出した運命だけだった。




