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ナハペトの王座  作者: 帆高亜希


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22/26

血煙る採掘場

『王子殿、起きてください。そろそろ夜明けです』



明け方、マナフィの小さな声が耳に届く。



「う……ん……ムニャムニャ……」



ティルダスは寝ぼけ眼《まなこ》をこすりながら、ゆっくりと身を起こした。



「おっはよー!マナフィ」



まだ完全に目覚めていないせいか、つい大きな声を出してしまう。



『しぃっ! お静かに』



マナフィが人差し指を口元に当てた。

ティルダスは慌てて口を閉じ、周囲の労働者たちを見回す。



——よかった、誰も起きてこない——



『ねぇ、姿が見えなくなる魔導があるなら、声が届かなくなるやつもあるんじゃないの?』



気になっていた疑問を、ティルダスは小声でぶつける。



『ありますが……一度に複数の魔導を使うと、体力を消耗してしまうのですよ』



二人がひそひそと話していた、そのとき——



「起きろ、怠け者ども!」



どこからともなく、がっしりとした体躯の男が現れた。

怒鳴ると同時に、手にした円形の金属板を打ち鳴らす。

鋭い金属音が鉱区に響き渡った。



グワーン、グワーン、キーン!



耳をつんざく音に、労働者たちは目を瞬かせながら起き上がる。



『なんだい、あれ?』



驚いたティルダスが、マナフィに問う。



『さあな。あんな鳴り物は見たことがない……鳴らしているのは現場監督のフェージンだ。ファシム大臣と懇意らしいよ』



『ふうん……』



労働者たちは用を足す暇も、朝食を取る時間も与えられぬまま、鎖につながれ洞窟の奥へと押し込まれていく。



『うわ、トイレも朝ごはんもなし?』



ティルダスは息を呑んだ。



『そんなものです』



『ひどいな……』



フェージンは革のムチをふるい、動きの鈍い者を容赦なく打った。

肩から血が飛び散る者もいる。ティルダスは思わず目を背けた。



『マナフィ……俺たちも中を見てみたい。何が起きてるのか、この目で』



『いいでしょう。ただし、絶対に声は出さないこと。坑内では小声でも響きます』



マナフィは即座にうなずき、二人は姿を消したまま洞窟へ入った。



中は暗く湿り、松明を持つ監視役の男が立っていた。

ぐずぐずする労働者を、後ろから蹴り飛ばして進ませている。

坑道の奥では、男たちが腰を曲げ岩を砕いていた。

フェージンのムチの音が、闇に鋭く響く。



——ひどすぎる……——



ティルダスは唇を噛む。

そのとき、ひとりの男が疲れ果てて崩れ落ちた。



「さっさと立ち上がれ、この怠け者が!」



ピシッ。


ムチが容赦なく打ちつけられ、粗末な衣服が裂ける。

露わになった背に、真っ赤なミミズ腫れが走った。

ティルダスの目に涙がにじむ。



「まだ起き上がらんのか!この腐れ奴隷め!」



フェージンはさらにムチを振り、ついには蹴りを入れ始めた。



「やめろっ!死んじまうじゃないか!」



思わずティルダスが叫ぶ。



「誰だッ!」



フェージンが血走った目であたりを見回した。



「しまった!」



マナフィも声を上げてしまう。



「二人いるな!?姿を現せ!」



その言葉と同時に、ティルダスとマナフィの姿がスーッと露わになった。



「うわっ、どういうことだよ!」



隠れて採掘現場を見学していた二人だったが、ティルダスの叫びが命取りとなった。


この危機《ピンチ》をどう切り抜けるか——

マナフィは瞬時に策を巡らせた。


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