転移魔導
アルセンとダエンと二手に分かれたチグラスとティルダスは、まずセワナ湖を目指していた。
人目につかぬ森の奥で野営した、その夜のこと。
地図を広げていたチグラスが、ふと深いため息をついた。
「王子殿……金の採掘場へ向かうには、どうしても再び王都を通らねばなりません」
「えっ、なんだって!?」
ティルダスが、驚いたように顔を上げる。
「追っ手が放たれている可能性もございます。そこで、時間を短縮するために――転移魔導を使わせていただきます」
その言葉を聞いた途端、ティルダスの瞳がぱっと輝いた。
「何だかよく分からないけど、それ、楽しそうじゃないか!」
しかし、チグラスはきゅっと眉間に皺を寄せる。
「……ただし、問題がございます」
「問題?」
「転移魔導は、術をかける者も、かけられる者も、体力を激しく消耗するのです」
チグラス自身は転移魔導に慣れているため、それほど問題はない。
だが、魔導に不慣れなティルダスにとっては、大きな負担となるだろう。
「えっ、そんなの大丈夫だよ!俺、体力には自信あるし!」
ティルダスは得意げに腕を曲げ、力こぶを見せつける。
「いえ……体力の有無だけではなく、慣れの問題もございます。王子殿は初めてですから、おそらく魔導酔いを起こすでしょう」
「だーいじょーぶだって!俺、ダエンと馬で競争して鍛えてるんだぞ!」
豪快に笑いながら、ティルダスはチグラスの肩をぽん、と叩いた。
「じゃ、おやすみ!」
そう言うなり、ティルダスはあっという間に眠りに落ちてしまった。
「……」
——やはり、魔導酔いは避けられまい——
だが、王都を通って追っ手や騒ぎに巻き込まれるよりは、まだましだろう。
王子の無邪気な寝顔を眺めながら、チグラスは腹を決めた。
*********
翌朝。
雲ひとつない青空の下、チグラスは地面に大きな魔法陣を描いていた。
「おっはよー、チグラス!」
背後から、元気な声が飛んでくる。
振り返ると、ティルダスが魔法陣を覗き込みながら、子供のように目を輝かせていた。
「わぁ……こんな立派な魔法陣、初めて見た!」
「おはようございます、王子殿。大きめの魔法陣を使えば、転移の際の負担を多少なりとも和らげることができます」
そう答えながら、チグラスは魔法陣の最後の線を引き終えた。
「さあ、完成です。朝食をとり、少し休んでから――」
言い終えるより早く。
「うわぁ、すごい!」
ティルダスが歓声を上げ、魔法陣の中へ飛び込んだ。
「な、なりません! 王子殿!」
慌てて制止するチグラス。
だが、もう遅い。
魔法陣が眩い光を放った。
「王子殿、私につかまって!」
チグラスは咄嗟にティルダスの腕をつかむ。
次の瞬間――
「うわぁぁぁぁぁ――ッ!!」
二人の身体が、凄まじい勢いで回転し始めた。
視界がぐるぐると回る。
天地も分からなくなるほどの猛烈な浮遊感に、ティルダスはただ絶叫するしかなかった。




