「金色の瞳」
第9話です。
今回は詰め込みたいことが多く、少しごちゃごちゃしているかもしれませんが、物語にとって大切な回になっています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
その日から。
フィラの毎日は大きく変わった。
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午前は――
ラルフの授業。
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「この世界には、大きく分けて二つの種が存在します」
静かな声で語られる。
「人間と、魔族です」
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机に向かいながら、フィラは真剣に耳を傾ける。
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「しかし、かつては――」
ラルフは一度言葉を区切る。
「両者は共に生きていました」
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語られるのは、遥か昔の話。
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邪神の出現。
世界の危機。
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それに対抗するため――
人間の神は“勇者”に。
魔族の神は“英雄”に。
それぞれ力を与えた。
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「そして、彼らは共に戦い――」
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邪神を、地下へと封じた。
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だが。
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「邪神は最後に、呪いを遺しました」
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――互いを拒絶せよ。
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その言葉と共に。
大陸を二分する巨大な森が生まれた。
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「アゼル大陸は、こうして分断されたのです」
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フィラは息を呑む。
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「さらにその森からは、今もなお魔獣が生まれ続けています」
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「……」
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「本来、人間と魔族は」
ラルフの声は静かだ。
「互いに協力し、魔獣に対抗するはずでした」
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だが――
時は流れた。
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「人間の側では、争いが絶えず」
「国が増え、欲が生まれ」
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「やがて、森を越え――」
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「魔族の領土すら奪おうとするようになりました」
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フィラの手が、ぎゅっと握られる。
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「一方で魔族もまた、複数の国に分かれましたが」
ラルフは続ける。
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「ただ一つ」
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「誓いを守り続ける一族がいます」
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「それが――」
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「オズワルド様の一族です」
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「……っ」
思わず顔を上げる。
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「英雄の血を引き」
「森を監視し続け」
「人間の侵攻を食い止める」
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「その役目を、代々背負っているのです」
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胸が、強く打たれる。
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(……大公様……)
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「そして、ライオ殿もまた――」
ラルフが静かに言う。
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「人間との戦で、家族を失っています」
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「……」
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「ご両親も」
「そして、弟君も」
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フィラの視界が揺れる。
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(……そんな……)
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ぽろり、と涙が落ちた。
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午後。
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「さて、今度は魔法じゃな」
ローグが言う。
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「この世界には六つの魔法元素がある」
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火、水、風、地、光、闇。
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「感じてみい」
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言われた通りに、意識を向ける。
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――熱。
――流れ。
――揺らぎ。
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「……できた……」
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「ほう」
ローグが目を細める。
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次々と。
一つずつ。
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フィラは、難なく魔法を扱っていく。
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「すごいです……フィラ様……!」
ツェリが嬉しそうに声を上げる。
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だが――
ローグは、黙っていた。
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(……これは……)
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ほんのわずかに、眉をひそめる。
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その後も。
フィラは変わらず、手伝いを続けた。
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治療院。
薬作り。
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ライオは、相変わらずだった。
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薬も受け取らない。
目も合わせない。
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それでも。
フィラは何も言わない。
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(……しかたない……)
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ただ、できることをする。
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その姿を見て。
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少しずつ。
周囲の視線が、変わっていく。
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――そして。
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それを、遠くから見つめる影。
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オズワルドだった。
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(……)
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小さく、息を吐く。
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胸の奥に――
今まで感じたことのない感情が芽生えていた。
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温かく。
穏やかなもの。
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だが同時に――
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「……っ」
胸を押さえる。
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鋭い痛み。
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呪いが、反応していた。
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その夜。
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フィラはいつものように、執務室を訪れた。
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「……大公様……」
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扉を開けた、その瞬間。
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「……っ!?」
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目に入った光景に、息を呑む。
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オズワルドが――
倒れていた。
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「……大公様!!」
駆け寄る。
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だが――
「……来るな……!」
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突き放される。
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「……ツェリ……連れて行け……」
苦しげな声。
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「い、いやです……!」
フィラは首を振る。
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「……離れろ……!」
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それでも。
フィラは動かなかった。
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「……助けたい……」
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震える声。
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「……大公様が……」
涙が溢れる。
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「……苦しんでるの……いや……」
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手を伸ばす。
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「……薬……それとも……魔法……」
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だが。
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「……頼む……から……出て行け……」
絞り出すような声。
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「……っ」
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胸が、締め付けられる。
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(……いや……)
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(……たすけたい……)
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(……この人を……)
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強く、強く願った――その瞬間。
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光が、溢れた。
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眩い光。
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フィラの身体から放たれたそれは――
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オズワルドを、包み込む。
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「……っ」
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苦しみが。
ゆっくりと消えていく。
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「……これは……」
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オズワルドが、目を見開く。
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フィラを見る。
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その瞳は――
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空色から、金色へと変わっていた。
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「……」
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やがて。
光が、収まる。
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「……大公様……」
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フィラが、ふらりと揺れる。
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「……よかった……」
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安堵の笑み。
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そのまま――
力が抜ける。
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「……フィラ!」
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咄嗟に、その身体を抱き止める。
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小さな身体は、ぐったりとしていた。
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「……」
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腕の中の温もりを、確かめるように。
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オズワルドは、強く抱きしめた。
第9話をお読みいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
今回の内容、うまく伝えられていれば嬉しいです。
フィラにとっても物語にとっても、大きく動き出す回になりました。
ここからさらに展開が加速していきますので、引き続き見守っていただけたら幸いです。




