「知るということ」
第8話です。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
少しずつですが、フィラの世界も広がり始めてきました。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
その日も、フィラはローグの手伝いをしていた。
薬草を刻み、火にかけ、ゆっくりと煎じる。
「……焦るでない。火は生き物じゃ」
「……はい……」
ローグの言葉に頷きながら、慎重に手を動かす。
◆
治療院では――
相変わらず、冷たい視線もあった。
特に、あの大柄な魔族――ライオは。
フィラを見るたびに、露骨に顔をしかめる。
◆
「……」
それでも。
フィラは何も言わず、頭を下げる。
(……わかってる……)
自分が人間であること。
それが、理由なのだと。
◆
それでも。
薬を渡し。
傷の手当てをする。
少しずつでも、できることを続ける。
◆
――その日の夕刻。
フィラはいつものように、執務室を訪れていた。
◆
「……今日は……」
拙いながらも、一生懸命に話す。
今日やったこと。
できたこと。
失敗したこと。
◆
オズワルドは黙って聞いている。
◆
話し終えたあと。
ふと、口を開いた。
「……ライオのことか」
◆
「……っ」
思わず顔を上げる。
◆
「気にしているのだろう」
◆
「……はい……」
小さく頷く。
◆
少しの沈黙。
そして――
「……あいつはな」
低く、静かに語り始める。
◆
「昔、人間との戦で弟を失っている」
◆
「……え……」
言葉を失う。
◆
「目の前で、な」
短く続けられたその言葉は、重かった。
◆
「……」
胸が、締め付けられる。
◆
「……だから……」
声が震える。
「……わたしが……きらわれるのは……」
◆
「違う」
即座に、遮られる。
◆
顔を上げる。
◆
オズワルドの紅い瞳が、真っ直ぐにフィラを見ていた。
◆
「お前が殺したわけではない」
◆
「……っ」
◆
「それでもお前を拒絶するのなら」
わずかに、目を細める。
◆
「それは――」
◆
「魔族を忌み嫌う人間と、何も変わらん」
◆
静かに、言い切る。
◆
「……!」
胸が、強く打たれる。
◆
「……そう……なんでしょうか……」
◆
「そうだ」
迷いのない答え。
◆
「……」
フィラは、自分の手を見つめる。
◆
(……ちがう……)
(……そうなりたくない……)
◆
ゆっくりと、顔を上げる。
◆
「……わたし……」
小さく、けれどはっきりと。
「……ちゃんと……がんばります……」
◆
その言葉に。
オズワルドは、わずかに頷いた。
◆
「……ならば」
◆
椅子から立ち上がる。
◆
「知れ」
◆
「……え……?」
◆
「この世界を」
短く言う。
◆
「知らねば、選べん」
◆
フィラは息を呑む。
◆
「……ラルフ」
◆
「はい、閣下」
いつの間にか控えていたラルフが応じる。
◆
「こいつに、世界を教えろ」
◆
「かしこまりました」
◆
「……ローグにも伝えておく」
◆
「……っ」
フィラの目が、大きく見開かれる。
◆
「……魔法を……?」
◆
「基礎からだ」
◆
「……!」
ぱっと表情が明るくなる。
◆
「……いいの……ですか……?」
◆
「やる気があるのだろう」
◆
「……はい……!」
思わず声が弾む。
◆
胸が、いっぱいになる。
◆
(……大公様……)
◆
尊敬の想いが、溢れる。
◆
「……ありがとうございます……!」
深く、頭を下げる。
◆
その小さな姿を見て。
オズワルドは何も言わなかった。
◆
だが――
その視線は、確かに柔らかかった。
◆
その日から。
フィラの毎日は、さらに忙しくなった。
◆
ローグのもとで薬と魔法を学び。
ラルフから世界と知識を教わる。
◆
「……すごい……!」
知らないことばかり。
新しいことばかり。
◆
「……たのしい……」
◆
そのすべてが、嬉しかった。
◆
(……もっと……)
◆
(……知りたい……)
◆
その願いを胸に。
フィラは、前を向いて歩き出していた。
第8話をお読みいただきありがとうございます。
フィラにとって「知ること」が大きな一歩となる回でした。
優しさだけでなく、現実や過去を受け止めたうえでどう進むのかを、これからも丁寧に描いていけたらと思っています。
オズワルドの言葉が、少しでも印象に残っていたら嬉しいです。
引き続き、フィラの成長を見守っていただけると幸いです。




