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「知るということ」

第8話です。


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。

少しずつですが、フィラの世界も広がり始めてきました。


今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

その日も、フィラはローグの手伝いをしていた。


薬草を刻み、火にかけ、ゆっくりと煎じる。


「……焦るでない。火は生き物じゃ」


「……はい……」


ローグの言葉に頷きながら、慎重に手を動かす。



治療院では――


相変わらず、冷たい視線もあった。


特に、あの大柄な魔族――ライオは。


フィラを見るたびに、露骨に顔をしかめる。



「……」


それでも。


フィラは何も言わず、頭を下げる。


(……わかってる……)


自分が人間であること。


それが、理由なのだと。



それでも。


薬を渡し。


傷の手当てをする。


少しずつでも、できることを続ける。



――その日の夕刻。


フィラはいつものように、執務室を訪れていた。



「……今日は……」


拙いながらも、一生懸命に話す。


今日やったこと。


できたこと。


失敗したこと。



オズワルドは黙って聞いている。



話し終えたあと。


ふと、口を開いた。


「……ライオのことか」



「……っ」


思わず顔を上げる。



「気にしているのだろう」



「……はい……」


小さく頷く。



少しの沈黙。


そして――


「……あいつはな」


低く、静かに語り始める。



「昔、人間との戦で弟を失っている」



「……え……」


言葉を失う。



「目の前で、な」


短く続けられたその言葉は、重かった。



「……」


胸が、締め付けられる。



「……だから……」


声が震える。


「……わたしが……きらわれるのは……」



「違う」


即座に、遮られる。



顔を上げる。



オズワルドの紅い瞳が、真っ直ぐにフィラを見ていた。



「お前が殺したわけではない」



「……っ」



「それでもお前を拒絶するのなら」


わずかに、目を細める。



「それは――」



「魔族を忌み嫌う人間と、何も変わらん」



静かに、言い切る。



「……!」


胸が、強く打たれる。



「……そう……なんでしょうか……」



「そうだ」


迷いのない答え。



「……」


フィラは、自分の手を見つめる。



(……ちがう……)


(……そうなりたくない……)



ゆっくりと、顔を上げる。



「……わたし……」


小さく、けれどはっきりと。


「……ちゃんと……がんばります……」



その言葉に。


オズワルドは、わずかに頷いた。



「……ならば」



椅子から立ち上がる。



「知れ」



「……え……?」



「この世界を」


短く言う。



「知らねば、選べん」



フィラは息を呑む。



「……ラルフ」



「はい、閣下」


いつの間にか控えていたラルフが応じる。



「こいつに、世界を教えろ」



「かしこまりました」



「……ローグにも伝えておく」



「……っ」


フィラの目が、大きく見開かれる。



「……魔法を……?」



「基礎からだ」



「……!」


ぱっと表情が明るくなる。



「……いいの……ですか……?」



「やる気があるのだろう」



「……はい……!」


思わず声が弾む。



胸が、いっぱいになる。



(……大公様……)



尊敬の想いが、溢れる。



「……ありがとうございます……!」


深く、頭を下げる。



その小さな姿を見て。


オズワルドは何も言わなかった。



だが――


その視線は、確かに柔らかかった。



その日から。


フィラの毎日は、さらに忙しくなった。



ローグのもとで薬と魔法を学び。


ラルフから世界と知識を教わる。



「……すごい……!」


知らないことばかり。


新しいことばかり。



「……たのしい……」



そのすべてが、嬉しかった。



(……もっと……)



(……知りたい……)



その願いを胸に。


フィラは、前を向いて歩き出していた。

第8話をお読みいただきありがとうございます。


フィラにとって「知ること」が大きな一歩となる回でした。

優しさだけでなく、現実や過去を受け止めたうえでどう進むのかを、これからも丁寧に描いていけたらと思っています。


オズワルドの言葉が、少しでも印象に残っていたら嬉しいです。


引き続き、フィラの成長を見守っていただけると幸いです。

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