「私だけのもの」
皆様こんにちは♪
台風が近づいてきている影響で、こちらは雨の勢いがかなり強くなっています。
地域によっては大雨や強風の予報も出ているようですので、皆様もお出かけの際や通勤・通学の際は十分お気をつけください。
梅雨の時期は体調も崩しやすいですので、無理せずお過ごしくださいね^_^
それでは本編をお楽しみいただければ幸いです♪
黒い瘴気が渦巻く。
王宮が軋む。
まるで世界そのものが悲鳴を上げているようだった。
「美優……」
フィラは妹を見つめた。
王冠を戴く少女。
だが。
その顔には先ほどまでの優越感はない。
あるのは。
苦しみだけだった。
『見ただろう?』
声が響く。
美優だけに聞こえる声。
『皆がお前を愛している』
美優の肩が震える。
『王も』
『王妃も』
『王太子も』
『貴族達も』
『民も』
『皆がお前を見ている』
そう。
その通りだった。
ずっと。
ずっとそうだった。
前の世界でも。
この世界でも。
美優は愛されてきた。
欲しいものは手に入った。
褒められた。
可愛がられた。
守られた。
『それなのに』
声が囁く。
『満たされない』
美優が唇を噛む。
『なぜだ?』
分かっている。
そんなこと。
最初から。
『あの女だ』
フィラを見る。
黒髪の姉。
前世からずっと変わらない存在。
『あの女だけがお前のものにならない』
胸が痛む。
『皆がお前を愛しても』
『あの女だけは違う』
涙が零れ落ちた。
『だから苦しい』
『だから寂しい』
『だから満たされない』
美優は震える。
否定できなかった。
だって。
その通りだったから。
「美優」
フィラが呼ぶ。
優しい声。
昔と変わらない声。
その声が。
どうしようもなく苦しい。
『見ろ』
邪神が囁く。
『またそんな顔だ』
『お前を見ていない』
『お前だけを見ていない』
美優の呼吸が乱れる。
違う。
違うはずなのに。
心が揺れる。
『お前は何でも持っている』
『だが』
『一番欲しいものだけが手に入らない』
フィラが一歩前へ出た。
「美優」
「来ないで!!」
叫ぶ。
黒い瘴気が吹き荒れる。
サイラスが剣を構えた。
王太子も身構える。
ヴァルドはフィラの前へ出る。
だが。
フィラは止まらない。
「美優」
もう一歩。
「私の話を聞いて」
「嫌!」
涙が零れる。
「嫌よ!」
美優は首を振った。
「聞きたくない!」
だって。
聞いてしまったら。
また届かなくなる。
『そうだ』
邪神が笑う。
『手に入れてしまえ』
『永遠に』
『誰にも渡さず』
『誰にも奪われず』
『お前だけのものに』
美優が顔を上げる。
真っ黒な瞳。
その奥で。
泣いている幼い少女。
「お姉ちゃん」
フィラは立ち止まった。
「私ね」
美優が笑う。
泣きながら。
「ずっと欲しかったの」
静かな声。
「皆がいても」
「王冠があっても」
「褒められても」
「何も嬉しくなかった」
フィラが目を見開く。
「だって」
美優は泣いていた。
「お姉ちゃんだけがいないんだもん」
広間が静まり返る。
サイラスも。
王太子も。
ヴァルドも。
誰も動けない。
「どうして」
震える声。
「どうして私だけのものになってくれないの?」
フィラは言葉を失った。
それは。
憎しみではなかった。
愛情でもない。
執着。
渇望。
飢え。
長い年月をかけて歪み続けた想い。
そして。
邪神は優しく囁く。
『ならば手に入れろ』
『永遠に』
『お前だけの姉にしろ』
黒い瘴気が膨れ上がる。
王宮が揺れる。
空間が歪む。
そして。
美優はゆっくりと手を伸ばした。
フィラへ向かって。
「お姉ちゃん」
涙を流しながら。
まるで迷子の子供のように。
「私だけのものになって」
その瞬間。
黒い瘴気が爆発した――。
最後までお読みいただきありがとうございました!
今回のお話は、戦いというよりも美優の心に少し踏み込む回になりました。
これまでの美優は嫉妬や憎しみが強く見えていましたが、書いていくうちに「本当にそれだけなのかな?」と考えるようになりました。
何でも手に入れてきた美優。
だからこそ、どうしても手に入らなかったものに執着してしまったのかもしれません。
もちろん、それで許されることばかりではありません。
それでも彼女がここまで歪んでしまった理由や、邪神が付け込んだ心の隙を少しずつ描いていけたらと思っています。
そしてフィラもまた、初めて「倒す」のではなく「助けたい」と強く思う相手と向き合うことになります。
次回はいよいよ本格的な対峙になりそうです。
姉妹の行く末を見守っていただけたら嬉しいです^_^
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