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「涙の理由」

いつもお読みいただきありがとうございます。


最近は暑かったり涼しかったりと気温差が激しいですね。


私は相変わらず検査結果待ちで少し落ち着かない日々を過ごしております。


結果が出るまではどうしても色々考えてしまいますが、こうして物語を書いている時間や、皆様に読んでいただける時間にたくさん元気をもらっています。


本当にありがとうございます。


それではお楽しみください。

 王都公爵夫妻から話を聞いたフィラ達は、その足で王宮へ向かっていた。


 王宮へ近づくにつれ、瘴気はさらに濃くなる。


 空気そのものが重い。


 まるで見えない何かが王宮全体を覆っているかのようだった。


「嫌な感じだな」


 ラルフが眉を顰める。


 アーバインも珍しく真面目な顔をしていた。


「王宮だけ瘴気の濃さが異常だ」


 サイラスも険しい表情で王宮を見上げる。


「父上の話が本当なら、全ての中心はここです」


 フィラは静かに頷いた。


「行こう」


 誰も反対しなかった。


◇◇◇


 王宮内部は不気味なほど静かだった。


 兵士も。


 侍女も。


 使用人も。


 皆、虚ろな目で同じ言葉を繰り返している。


「ミユ様のために」


「ミユ様のために」


「ミユ様のために」


 フィラは胸が苦しくなった。


 その時だった。


 足元に黒い光が走る。


「っ!?」


 フィラが目を見開く。


 床一面に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「フィラ!」


 ヴァルドが咄嗟に手を伸ばす。


 だが遅かった。


 黒い光が一行を飲み込む。


 視界が歪む。


 空間そのものが引き裂かれた。


◇◇◇


 気付けば。


 フィラは王宮の見知らぬ回廊に立っていた。


「ヴァルド!」


 慌てて辺りを見回す。


 だが姿はない。


 いるのは。


「サイラス」


 彼だけだった。


 サイラスも周囲を警戒している。


「分断されたようですね」


 フィラは不安そうに唇を噛んだ。


 だが今は立ち止まれない。


「まずは皆を探そう」


「そうですね」


 二人は慎重に歩き始めた。


◇◇◇


 だが。


 しばらく進んだ頃からサイラスの様子がおかしくなる。


 頭痛。


 耳鳴り。


 胸を締め付けるような不快感。


「サイラス?」


「問題ありません」


 そう答える。


 だが問題しかなかった。


 耳元で声が聞こえる。


『お前はずっと見ているだけだった』


 誰の声だ。


『ヴァルドの隣で笑うフィラを』


 やめろ。


『本当は悔しかったんだろう?』


 違う。


『フィラが欲しかった』


 違う。


『初めて心から惹かれた相手だった』


 違う。


『それなのに手に入らない』


 頭が割れそうだった。


『ヴァルドがいるから』


「やめろ……」


 声が漏れる。


 フィラが驚いた顔をした。


「サイラス?」


『フィラが欲しいんだろう?』


『なら手に入れろ』


『ヴァルドは邪魔だ』


『力づくで奪えばいい』


『手に入らないなら壊してしまえ』


「やめろ!!」


 叫ぶ。


 だが。


 身体が言うことを聞かない。


◇◇◇


 気付けばフィラを壁へ追い詰めていた。


「サイラス……?」


 フィラの顔が青ざめる。


 サイラス自身も止まりたい。


 だが止まれない。


 身体が勝手に動く。


 フィラの手首を掴む。


 壁へ押し付ける。


「やだ……」


 フィラの肩が震えた。


 瞳から涙が零れる。


「サイラス……」


 その声が胸を刺す。


 だが瘴気は止まらない。


 理性を削っていく。


 そして。


 フィラが震える声で呟いた。


「ヴァルド……」


 その瞬間だった。


 頭を殴られたような衝撃が走る。


 フィラは自分を見ていない。


 助けを求めている。


 怯えている。


 恐怖している。


 自分に。


「……っ!」


 理性が戻る。


 違う。


 こんな顔をさせたかったんじゃない。


 笑っていてほしかった。


 幸せでいてほしかった。


 それだけだった。


「フィラ……」


 震える手で腰の小剣を抜く。


 そして。


 迷うことなく自らの足へ突き立てた。


 鮮血が飛び散る。


「サイラス!?」


 激痛が意識を引き戻す。


 瘴気が揺らぐ。


 サイラスは膝をついた。


「すまない」


 声が震える。


「本当に……すまない」


 フィラは涙を拭った。


 そして首を振る。


「サイラスは悪くない」


「だが……」


「自分を傷つけてまで止まってくれた」


 フィラは悲しそうに微笑んだ。


「ありがとう」


 その言葉にサイラスは顔を伏せた。


◇◇◇


 その時だった。


「フィラ!!」


 聞き慣れた声が響く。


 ヴァルドだった。


 フィラが振り返る。


「ヴァルド!」


 安堵したように駆け寄る。


 だが。


 ヴァルドの視線はサイラスへ向いていた。


 血だらけ。


 涙目のフィラ。


 状況は十分だった。


 拳が飛ぶ。


 ドゴッ!!


 鈍い音と共にサイラスが吹き飛んだ。


「ヴァルド!」


 フィラが慌てて止める。


 だがヴァルドは怒っていた。


「フィラを泣かせた」


「待って!」


 フィラは必死にヴァルドへしがみつく。


「サイラスは悪くない!」


「フィラ」


「瘴気のせいだったの!」


「……」


「自分を傷つけてまで止まってくれたの!」


 ヴァルドは黙った。


 サイラスは立ち上がる。


 そして深く頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」


 心からの謝罪だった。


 しばらく沈黙。


 やがて。


 ヴァルドは再び拳を振り上げた。


 ドゴッ!!


 二発目。


 サイラスがよろめく。


「ヴァルド!?」


 フィラが驚く。


 だがヴァルドは鼻を鳴らした。


「これで終わりだ」


 サイラスは頬を押さえた。


 そして小さく笑う。


「……当然ですね」


 ヴァルドも小さく鼻を鳴らした。


「分かってるならいい」


 フィラは二人を見て呆れたように笑う。


 だがその笑顔は、先程までの涙が嘘のように柔らかかった。


 そして三人は再び歩き出す。


 王宮の奥へ。


 全ての元凶が待つ場所へ向かうために。

お読みいただきありがとうございました。


今回は王宮潜入編でした。


王都に入った時から不穏な空気が漂っていましたが、王宮はさらに危険な場所になっていました。


そして今回はサイラスにとって非常に辛い回でもありました。


初めて心から惹かれた相手。


大切な仲間。


そんなフィラを傷つけそうになる恐怖は、本人にとって何より苦しかったと思います。


それでも最後に理性を取り戻せたのは、サイラス自身の強さでした。


そしてフィラもまた、そんなサイラスを責めることなく受け止めました。


二人の間にあるのは恋愛とは少し違う、大切な信頼関係なのかもしれません。


一方でヴァルドは通常運転でした(笑)


フィラを泣かせた相手には容赦しません。


とはいえ二発目はヴァルドなりの許しです。


たぶん本人は認めないと思いますが。


次回はいよいよ王宮のさらに奥へ。


美優の背後にいる存在の正体へ近付いていくことになります。


少しずつ物語も終盤へ向かっていますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


いつも応援、本当にありがとうございます。

皆様の感想やブックマークがとても励みになっています。

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