「王都の異変」
いつもお読みいただきありがとうございます。
最近は暑い日が続いていますね。
私はというと、少しバタバタしていてなかなか落ち着かない日々を過ごしております。
体調のこともあり、ついあれこれ考えてしまうこともありますが、こうして物語を書いている時間はとても楽しく、皆様に読んでいただけることが大きな励みになっています。
本当にありがとうございます。
それではお楽しみください。
フィラが開いた瘴気の裂け目を前に、一行は最後の準備を進めていた。
「この裂け目はしばらく維持できると思う」
フィラはそう言いながら、小さな護符を数枚作り出した。
淡い金色の光を宿したそれを待機する兵士へ手渡す。
「後からお父様達が来たら渡して」
「承知しました」
兵士達は真剣な表情で頷く。
フィラはさらに突入する面々へ視線を向けた。
「みんな、少しだけじっとしていて」
金色の瞳が輝く。
柔らかな光が一行を包み込んだ。
「これは?」
サイラスが尋ねる。
「瘴気からみんなを守るための結界」
フィラは少し困ったように笑った。
「どこまで防げるか分からないけど、何もしないよりは良いと思う」
「ありがとう」
サイラスが静かに頷く。
その時。
ヴァルドがフィラの肩へ手を置いた。
「忘れるな」
紅い瞳が真っ直ぐフィラを見つめる。
「俺から離れるな」
フィラは小さく笑った。
「うん」
「何があっても守る」
「分かってる」
そのやり取りを見たサイラスは小さく苦笑した。
胸の奥に僅かな痛みが走る。
だがそれ以上に思う。
ヴァルドならフィラを守ってくれる。
それだけは疑いようがなかった。
「では行きましょう」
サイラスの言葉を合図に、一行は王都へ足を踏み入れた。
◇◇◇
王都は静かだった。
あまりにも静かだった。
だが無人ではない。
人々はいる。
店も開いている。
市場も動いている。
それなのに。
どこかおかしい。
すれ違う人々の目には生気がなかった。
虚ろな目。
それでも皆笑っている。
「ミユ様のために」
「ミユ様がお喜びになる」
「ミユ様は素晴らしいお方だ」
誰もが同じような言葉を口にしている。
まるで操り人形のように。
フィラは胸が苦しくなった。
「これは……」
ラルフが顔を顰める。
「気味が悪いな」
「同感です」
アーバインも珍しく真面目な顔をしていた。
サイラスは固く拳を握る。
見知った店主がいた。
見知った兵士がいた。
見知った町人がいた。
だが誰も彼も虚ろな目で同じ言葉を繰り返している。
「ミユ様のために」
その言葉が耳に残った。
しばらく歩いた後。
サイラスが口を開く。
「まずは我が屋敷へ向かいましょう」
皆が頷く。
歩きながら話し合いが始まった。
「やはり原因はミユ殿なのか?」
アーバインの問い。
だがラルフは首を傾げた。
「規模が大きすぎる」
「俺もそう思う」
ヴァルドも同意する。
サイラスも苦々しい顔をした。
「確かにミユ殿には人を惹きつける力がありました」
王太子。
貴族達。
騎士達。
皆がミユへ心酔していた。
だが。
「これは異常です」
「人の意思がありません」
その言葉にフィラも頷く。
「私もそう思う」
そして静かに続けた。
「美優にこんな力があるとは思えない」
一同がフィラを見る。
フィラは真っ直ぐ前を見ていた。
「美優は確かに人を利用する」
「でも、こんなことはできない」
断言だった。
前世から妹を知っている。
今世でも知っている。
だからこそ分かる。
「美優だけじゃない」
フィラはそう呟いた。
「何か別のものがいる気がする」
一行は重い沈黙に包まれた。
◇◇◇
やがて公爵邸へ辿り着く。
だがそこも王都と同じだった。
使用人達が虚ろな目で動いている。
「ミユ様のために」
「ミユ様のために」
誰もが同じ言葉を繰り返していた。
サイラスの顔色が変わる。
「父上!」
慌てて屋敷の奥へ向かう。
そして。
応接室で両親を見つけた。
「父上!」
「母上!」
二人が振り返る。
一瞬だけ安堵した。
だが。
「おお、サイラス」
父が穏やかに笑う。
「帰っていたのか」
次の言葉で希望は砕かれた。
「さあ、お前もミユ様のために働かねば」
母も微笑む。
「そうですよ」
「ミユ様のために尽くしましょう」
サイラスの顔が青ざめた。
「父上!」
「母上!」
「しっかりしてください!」
だが次の瞬間。
公爵の表情が一変する。
「貴様!」
怒声が響く。
「ミユ様に逆らう気か!!」
魔力が膨れ上がる。
その時だった。
「下がって」
フィラが前へ出た。
金色の瞳が輝く。
柔らかな光が溢れ出す。
聖女の力。
眩い光が公爵邸全体を包み込んだ。
使用人達。
公爵夫妻。
全てを優しく浄化していく。
やがて。
二人の身体から力が抜けた。
その場へ崩れ落ちる。
「父上!」
サイラスが駆け寄った。
公爵がゆっくりと目を開く。
「……サイラス?」
その瞳には正気が戻っていた。
サイラスは安堵に息を吐く。
母もゆっくりと身を起こした。
「私は……」
「何があったのですか」
サイラスが問う。
公爵は額を押さえながら記憶を辿った。
「ミユ様が突然戻られた」
一同が息を呑む。
「そして王宮へ貴族達を集められた」
サイラスが眉を寄せる。
「王宮へ?」
「ああ」
公爵は頷く。
そして表情を曇らせた。
「その時だ」
「ミユ様の背後に黒い影のようなものが見えた」
フィラが目を見開く。
公爵夫人も頷いた。
「あれはとても不気味でした」
「まるで生きているようで……」
公爵が苦々しく続ける。
「その影から瘴気が溢れた」
部屋が静まり返る。
「その後の記憶はない」
「気付けば今だ」
全員が顔を見合わせた。
やはり。
美優だけではない。
その背後に何かがいる。
フィラは静かに拳を握る。
そして決意したように顔を上げた。
「王宮へ行こう」
今度こそ。
全てを確かめるために。
フィラ達は王宮へ向かう決意を固めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
今回はいよいよ王都へ突入するお話でした。
外から見た時点で異常だった王都ですが、中へ入ると想像以上に不気味な状況になっていました。
誰もが幸せそうに笑っている。
けれどその目には生気がない。
そんな光景は魔獣よりも恐ろしいかもしれません。
そして今回はサイラス回でもありました。
故郷の異変。
虚ろな人々。
そして両親までもが操られている現実。
彼にとってはとても辛い回だったと思います。
一方でフィラも少しずつ変わってきました。
以前なら一歩引いていた彼女が、今は自ら決断し、皆を導こうとしています。
そんな成長も感じていただけたら嬉しいです。
そしてついに見えてきた「美優の背後にいる何か」。
王宮では一体何が待っているのか。
次回もお付き合いいただけると嬉しいです。
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