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「王都への道」

いつもお読みいただきありがとうございます。


前回、3日ぶりの投稿となりましたが、変わらず読みに来てくださる方がいてとても嬉しかったです。


更新の間が空いてしまうと少し不安になることもありますが、皆様に支えられていることを改めて実感しました。


本当にありがとうございます。


それではお楽しみください。

 王都を覆う黒い瘴気を前に、重苦しい沈黙が落ちていた。


 フィラには今も聞こえている。


『助けて』


『苦しい』


『怖い』


 王都の中から届く無数の声。


 それは決して幻ではない。


 あの人達は今も苦しんでいる。


 助けを求めている。


 フィラは胸元でぎゅっと手を握った。


「フィラ殿」


 サイラスが静かに声をかける。


「増援を待つべきです」


 その言葉にフィラは俯いた。


 サイラスの言うことは正しい。


 王都の状況は分からない。


 敵の正体も分からない。


 オズワルドも戦力を整えて向かっている。


 本来なら待つべきなのだ。


 だが。


『助けて』


 また声が聞こえた。


 フィラは唇を噛む。


「……待てません」


 サイラスが目を見開く。


 フィラがこんな風に自分の意思を強く口にすることは珍しい。


「今も苦しんでいる人がいるんです」


 震える声だった。


「私には聞こえるんです」


 サイラスは苦しそうに眉を寄せた。


「気持ちは分かります」


 いや。


 分かりすぎるほど分かる。


「私だって今すぐ王都へ行きたい」


 フィラが顔を上げた。


 サイラスは王都を見つめる。


「家族もいます」


「友人もいます」


「部下もいます」


 大切な人達があの中にいる。


 それでも。


「ですが駄目です」


 サイラスは首を振った。


「あなた達は王国の人間ではありません」


 ヴァルドを見る。


「帝国の皇帝陛下です」


 そしてフィラを見る。


「フィラ殿は聖女です」


 今やそれは疑いようのない事実だった。


 王都を救う希望。


 だからこそ危険に晒せない。


「私はあなたを危険な場所へ行かせるわけにはいきません」


 フィラは悲しそうに目を伏せた。


 だが諦めてはいなかった。


「サイラス様」


 小さく呼ぶ。


「もし助けを求めているのが大切な人だったら」


 サイラスが息を呑む。


「待てますか?」


 返事ができなかった。


 家族の顔が浮かぶ。


 友人の顔が浮かぶ。


 王都の人々が浮かぶ。


 待てるはずがない。


 それは分かっている。


 だからこそ苦しい。


 その時だった。


「行くんだろ」


 低い声が響いた。


 ヴァルドだった。


 フィラが振り返る。


「……うん」


 ヴァルドはしばらくフィラを見つめた。


 そして。


「なら好きにしろ」


 サイラスが驚く。


「殿下!?」


 ラルフもアーバインも目を丸くした。


 だがヴァルドは平然としている。


「どうせ止めても行くだろ」


 図星だった。


 フィラが気まずそうに視線を逸らす。


 ヴァルドは小さく鼻を鳴らした。


 そして。


 そっとフィラの頬へ触れる。


「でも」


 紅い瞳が真っ直ぐフィラを見つめる。


「俺から離れるな」


 フィラの瞳が揺れた。


「何があっても守るから」


 短い言葉。


 だが絶対の覚悟が込められていた。


 フィラは思わず微笑む。


「うん」


 その返事にヴァルドは満足そうに頷いた。


 それを見ていたサイラスは小さく息を吐いた。


 胸の奥が少しだけ痛む。


 自分でも気付いている。


 フィラに惹かれていることくらい。


 だが。


 目の前の二人を見れば分かる。


 入り込めない。


 入り込む気にもなれない。


 互いを信頼し。


 互いを支え。


 当たり前のように隣に立つ。


 それが二人だった。


(敵わないな)


 心の中で苦笑する。


 だが不思議と嫌な気持ちはしなかった。


 むしろ安心していた。


 ヴァルドなら。


 フィラを守ってくれる。


 誰よりも。


 そう信じられた。


「分かった」


 サイラスは肩を竦めた。


「止めても無駄そうですね」


 ラルフが苦笑する。


 アーバインも頷いた。


「賢明な判断かと」


「褒め言葉として受け取っておきます」


 サイラスはそう返すとフィラへ向き直る。


「ですが無茶はしないでください」


「はい」


「絶対ですよ」


「はい」


 少し子供扱いされている気がしてフィラが苦笑する。


 その時だった。


 フィラがふと王都を見つめた。


 そして決意したように一歩前へ出る。


「皆、少し離れて」


 金色の瞳が輝く。


 聖女の力。


 黒い瘴気へ手を伸ばす。


「消すことはできないけど」


 だが。


「道なら作れます」


 眩い光が溢れた。


 聖なる力が瘴気へ触れる。


 黒と金がぶつかり合う。


 やがて。


 瘴気がゆっくりと裂けた。


 まるで巨大な扉が開くように。


 王都へ続く道が現れる。


 その瞬間。


 フィラの耳に再び声が届いた。


『助けて』


 今度は先ほどより近い。


 フィラは拳を握り締めた。


「待っていて」


 必ず助ける。


 その決意を胸に。


 フィラ達は閉ざされた王都へ足を踏み入れるのだった。

お読みいただきありがとうございました。


今回はフィラの決意、ヴァルドの覚悟、そしてサイラスの葛藤を中心に描いてみました。


普段のフィラは周囲を優先して自分の気持ちを後回しにしがちですが、今回は「助けたい」という思いを貫いた回でもあります。


そしてヴァルド。


作者としてはやはり「俺から離れるな」が今回一番書きたかった場面かもしれません。


止めるのではなく、隣に立って守る。


そんなヴァルドらしさが少しでも伝わっていたら嬉しいです。


またサイラスも、自分の故郷や大切な人達を助けたい気持ちを抱えながら、フィラ達を危険に巻き込みたくないという思いの間で苦しんでいました。


個人的にはそんなサイラスもとても好きな登場人物です。


そしていよいよ王都へ。


閉ざされた王都で彼らを待ち受けるものとは何なのか。


次回もお付き合いいただけると嬉しいです。


いつも応援、本当にありがとうございます。

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