「偽りの歓声」
いつもお読みいただきありがとうございます。
3日ばかり更新ができず申し訳ありませんでした。
少しバタバタしておりましたが、ようやく続きをお届けできそうです。
更新をお待ちくださった皆様、本当にありがとうございます。
それでは第81話をお楽しみください。
王都は目の前にあった。
それなのに。
誰一人として中へ入ることができなかった。
「駄目だ……」
サイラスが低く呟く。
兵士達が何度試しても同じだった。
黒い瘴気の壁が王都全体を覆っている。
触れれば弾かれる。
力尽くでも突破できない。
まるで王都そのものが閉ざされているかのようだった。
フィラはその光景を見上げていた。
「フィラ」
ヴァルドが呼ぶ。
フィラは小さく頷いた。
そして一歩前へ出る。
金色の瞳が静かに輝いた。
聖女の力。
瘴気の向こうを見ようと意識を集中させる。
その瞬間だった。
『助けて』
耳元で声がした。
フィラが目を見開く。
『苦しい』
『誰か』
『助けて』
次々と響く声。
男。
女。
老人。
子供。
無数の声が重なって聞こえてくる。
「っ……!」
思わず胸を押さえる。
「フィラ!」
ふらついた身体をヴァルドが支えた。
「どうした」
「聞こえるんです……」
フィラは王都を見つめたまま答える。
「王都の人達の声が……」
サイラス達が息を呑む。
「助けを求めています」
その言葉に場の空気が重くなった。
フィラはさらに意識を集中させる。
見えた。
王都の中が。
◇◇◇
一見すると。
王都はいつも通りだった。
店は開いている。
人々も歩いている。
兵士達も巡回している。
何も問題ないように見える。
だが。
「そんな……」
フィラの顔が曇る。
笑っている。
皆笑っている。
それなのに。
瞳に光がない。
表情だけが笑っている。
まるで誰かに操られているように。
いや。
操られていた。
『助けて』
笑顔の女性から声が聞こえる。
『帰りたい』
笑っている老人から声が聞こえる。
『怖い』
走り回る子供から声が聞こえる。
身体は動いている。
言葉も話している。
だが心だけが助けを求めていた。
フィラは唇を噛んだ。
あまりにも異常だった。
◇◇◇
その時だった。
王都の中心。
王宮の方角が騒がしくなる。
大勢の人々が集まり始めた。
歓声。
拍手。
喜びの声。
フィラはそちらへ意識を向けた。
そして。
王宮のバルコニーへ一人の少女が姿を現す。
「……ミユさん」
フィラが小さく呟く。
美優だった。
途端に。
王都が揺れるほどの歓声が上がる。
『聖女様!』
『聖女様万歳!』
『我らの聖女様!』
人々が手を振る。
涙を流す者までいる。
美優はその光景を見て満足そうに笑った。
◇◇◇
美優は幸せだった。
王宮は居心地がいい。
国王は自分を褒めてくれる。
王妃も優しくしてくれる。
王太子は誰よりも自分を大切にしてくれる。
皆が自分を見ている。
皆が自分を必要としている。
皆が自分を愛している。
(そうよ)
美優は笑う。
(これでいいのよ)
歓声が響く。
拍手が響く。
誰もが自分を称えている。
(やっぱり私の方が上だった)
心の中で呟く。
(お姉ちゃんなんかより)
ずっとそう思っていた。
ずっと認めてほしかった。
ずっと愛されたかった。
そして今。
自分は皆に愛されている。
そう信じていた。
◇◇◇
だが。
フィラには見えていた。
歓声を上げる人々。
笑顔で手を振る人々。
その誰もが。
心の奥では泣いている。
『助けて』
『苦しい』
『怖い』
『誰か』
『助けて』
無数の声。
絶望。
悲鳴。
助けを求める叫び。
それが歓声の裏側に隠れていた。
「違う……」
フィラの目に涙が浮かぶ。
サイラスが振り返った。
「フィラ殿?」
フィラは首を振る。
悲しそうに。
苦しそうに。
「違います」
「何がだ」
フィラは王都を見つめた。
バルコニーで微笑む美優を見つめた。
そして震える声で言う。
「皆さん喜んでなんかいません」
その言葉に全員が息を呑む。
フィラは胸元で手を握り締めた。
「助けを求めているんです」
王都の人々を。
見えない檻に閉じ込められた人々を。
フィラは見捨てることができなかった。
だから。
その金色の瞳には強い決意が宿っていた。
必ず助ける。
王都の人々も。
そして。
道を踏み外してしまった美優も。
第81話をお読みいただきありがとうございました。
今回は王都の異変と、美優とフィラの対比を中心に書いてみました。
美優から見れば、ずっと欲しかったものをようやく手に入れた世界です。
皆に愛されて。
皆に褒められて。
皆に必要とされる。
きっと今の美優は幸せなのだと思います。
ですがフィラには、その歓声の裏側にある人々の苦しみが見えてしまいます。
同じ光景を見ているのに、二人には全く違う世界が見えているのかもしれません。
そして王都を覆う瘴気。
閉ざされた王都。
助けを求める人々。
物語はいよいよ王都編へと進んでいきます。
フィラ達がこの異常事態にどう立ち向かうのか、見守っていただけると嬉しいです。
更新が空いたにも関わらず読みに来てくださった皆様、本当にありがとうございます。
とても励みになっています。
それではまた次回お会いしましょう。




