「王都を覆う闇」
いつもお読みいただきありがとうございます。
明日は検査の予定があるため、もしかすると更新ができないかもしれません。
できるだけ頑張るつもりですが、難しい場合はご容赦いただけると嬉しいです。
それでは第80話をお楽しみください。
フィラ達が会談場を発つことになったのは、その日の夕刻だった。
魔獣の襲撃は収まった。
だが被害は決して小さくない。
結界石は破壊され、建物の一部も損壊している。
負傷者の手当ても必要だった。
話し合いの結果。
会談場には結界維持のため最低限の人員だけを残し、双方とも一度帰国することになった。
「修復には時間がかかるでしょうね」
アーバインが静かに言う。
「会談の再開も先になりそうですね」
ラルフも頷いた。
その横で。
「私も残った方がいいのでは……?」
フィラがおずおずと口を開く。
「駄目です」
即答したのはツェリだった。
「ですが――」
「駄目です」
「でも結界が――」
「駄目です」
全く譲らない。
さらに。
「フィラ」
オズワルドが低く呼ぶ。
「はい……」
「誰のせいで衰弱したと思っている」
「私です……」
「分かっているなら休め」
反論できない。
ヴァルドも腕を組んだまま頷く。
「休養もフィラの仕事だよ」
「はい……」
フィラはしゅんと肩を落とした。
そんな様子を見ていたラルフとアーバインが苦笑する。
つい先程まで神々しい聖女だった少女はどこへ行ったのか。
今はただの叱られている娘だった。
◇◇◇
一方。
王国側を率いていたサイラスは帰国の途についていた。
王太子と第二王子は既に王都へ向かっている。
今の王国側の責任者は自分だった。
「日が落ちる前に少しでも進むぞ」
部下達へ指示を出す。
そして一行は王都へ向かう街道を進んでいた。
やがて。
王都を一望できる高台へ辿り着く。
サイラスは何気なく顔を上げた。
そして。
「……何だ?」
足を止める。
視界の先。
王都が見える。
だが。
何かがおかしかった。
サイラスは目を細めた。
見間違いかと思った。
だが違う。
王都を覆うように。
黒い霧のようなものが漂っている。
「まさか……」
背筋が冷える。
あれは。
瘴気だ。
しかも尋常ではない量。
「急ぐぞ!」
サイラスは叫んだ。
部下達が驚く。
「全速力だ!」
◇◇◇
王都へ到着した時。
異常はさらに明らかになった。
黒い瘴気が壁のように王都を包み込んでいる。
「これは……」
兵士達も顔を青くする。
サイラスは前へ出た。
瘴気へ手を伸ばす。
触れた瞬間。
弾かれた。
「!」
後ろへ下がる。
結界のようなもの。
しかも外から入れない。
「門は!」
「開きません!」
「中からの反応は!」
「ありません!」
報告が飛ぶ。
サイラスは奥歯を噛み締めた。
嫌な予感しかしない。
王都で何かが起きている。
だが入れない。
今の戦力ではどうにもならない。
ならば。
やることは一つだった。
「急使を出せ」
サイラスは即座に命じる。
「帝国へだ」
「サイラス様?」
「一刻を争う」
迷いはなかった。
「フィラ姫とヴァルド皇太子へ援軍を要請しろ」
「はっ!」
使者が飛び出していく。
サイラスは再び王都を見上げた。
黒い瘴気が不気味に揺れている。
まるで生き物のようだった。
◇◇◇
数時間後。
帝国へ急使が到着した。
報告を聞いた瞬間。
フィラの顔色が変わる。
「王都が……?」
「はい」
使者が頷く。
「黒い瘴気に覆われています」
フィラは息を呑んだ。
王都。
多くの人々が暮らす場所。
子供も。
老人も。
大勢いる。
「助けなきゃ……」
思わず漏れた言葉。
その瞬間。
「行くぞ」
ヴァルドが立ち上がった。
迷いはない。
フィラが行くなら自分も行く。
当然のように。
ラルフも続く。
アーバインも頷いた。
だが。
「待て」
オズワルドが制する。
フィラが振り返った。
「お父様?」
「私は一度皇都へ戻る」
フィラが目を瞬く。
「王都で何が起きているのか分からん」
オズワルドの表情は険しかった。
瘴気に覆われた王都。
外から侵入すらできない異常事態。
美優が関わっている可能性もある。
ならば。
最悪を想定しなければならない。
「少数で飛び込むには危険すぎる」
フィラは黙って話を聞いている。
「皇妃陛下の助力を得て戦力を整える」
帝国軍。
結界師。
治癒師。
必要な戦力を集めなければならない。
これは既に一国規模の危機だった。
「先に行け」
オズワルドはヴァルドを見る。
「私は増援を率いて追う」
ヴァルドは迷わず頷いた。
「分かりました」
短い返事。
だがそこに疑いはない。
オズワルドが必ず来ると分かっているからだ。
フィラも小さく頷いた。
「お気を付けて」
「ああ」
オズワルドは娘を見る。
心配だった。
本当なら自分の目の届く場所へ置いておきたい。
だが。
今の王都を救えるのはフィラしかいない。
「無茶はするな」
その言葉に。
フィラは少し困ったように笑った。
「努力します」
「努力ではなく守れ」
即座に返される。
ラルフが吹き出しそうになり、アーバインが苦笑した。
そんなやり取りを交わしながら。
フィラ達は王都へ向かった。
◇◇◇
そして翌日。
フィラ達は王都へ到着した。
既にサイラス達が待っている。
「ヴァルド皇太子殿下。フィラ姫」
サイラスが安堵したように息を吐く。
「状況は?」
ヴァルドが問う。
「変わりません」
サイラスは険しい顔をした。
「誰一人出てこない」
「中の様子は?」
「分からない」
重苦しい沈黙が落ちる。
その時。
フィラが一歩前へ出た。
王都を見上げる。
そして。
金色の瞳が輝いた。
「フィラ?」
ヴァルドが呼ぶ。
だがフィラは答えない。
ただ王都を見つめている。
しばらくして。
その顔が青ざめた。
「どうした」
ヴァルドの問いに。
フィラは震える声で答える。
「中に……たくさんの人がいます」
その言葉に皆が息を呑む。
「苦しんでる……」
フィラの拳が震えた。
「助けを求めてる」
王都の奥。
瘴気の向こう。
無数の声が聞こえる。
苦しみ。
悲鳴。
絶望。
フィラは唇を噛んだ。
「助けなきゃ」
その瞳に宿るのは決意だった。
第80話をお読みいただきありがとうございました。
今回は会談場の後始末から始まり、一気に王都編へ突入となりました。
個人的には、相変わらず皆に心配されているフィラと、何だかんだでフィラに甘いオズワルド達を書くのが楽しかったです(笑)
そしてサイラスも今回かなり頑張ってくれました。
王都の異変に最初に気付き、すぐに判断して動けるのは彼らしいなと思います。
一方で王都は大変なことになっています。
邪神と美優が何をしているのか。
王都の人々は無事なのか。
そしてフィラ達は王都へ入ることができるのか。
次回からいよいよ王都編本格スタートです。
最近は読んでくださる方も少しずつ増えてきて、本当に励みになっています。
ブックマークや評価、感想をくださる皆様、ありがとうございます。
これからもフィラ達の物語を見守っていただけると嬉しいです。
それではまた次回お会いしましょう。




