「真の聖女」
皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は一日お休みをいただきました。
楽しみにお待ちくださっていた方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。
少しずつ体調と相談しながら執筆しておりますので、これからも無理のないペースで更新していけたらと思っています。
それでは第78話、楽しんでいただけると嬉しいです。
重たい瞼をゆっくりと開く。
見慣れた天井が視界に映った。
微かに薬草の香りがする。
「……フィラ様」
震える声。
顔を向ければ、そこにはツェリがいた。
目元を赤くしながらフィラを見つめている。
「ツェリ……」
「フィラ様!」
ツェリは思わずフィラの手を握った。
その表情には安堵が浮かんでいる。
ずっと気を張っていたのだろう。
フィラは申し訳なさそうに微笑んだ。
「ご心配をおかけしました」
「本当です」
珍しく即答だった。
だがその声はどこか泣きそうで。
フィラは少しだけ胸が痛んだ。
そして周囲を見回す。
「皆様は?」
その言葉にツェリの肩がぴくりと震えた。
「閣下もヴァルド様もお忙しくされております」
明らかに誤魔化している。
フィラが首を傾げた。
その時。
遠くから悲鳴が聞こえた。
続いて地響き。
何かがぶつかるような轟音。
フィラの顔色が変わる。
「ツェリ」
静かな声だった。
「何があったのですか」
ツェリは黙り込む。
だがフィラの視線から逃げられなかった。
やがて小さく息を吐く。
「結界石が破壊されました」
フィラが息を呑む。
「現在、魔獣が会談場へ侵入しております」
「……!」
「閣下達が迎撃中です」
フィラは勢いよく起き上がった。
「行かなければ」
「駄目です」
即座にツェリが前へ立つ。
「フィラ様は怪我をされているのですよ」
「ですが――」
「衰弱もされています」
フィラの言葉を遮る。
「閣下もヴァルド様も部屋から出すなと仰いました」
ツェリの声は強かった。
「ですが皆様が戦っているのです」
「だからです!」
思わずツェリは叫んでいた。
「皆様はフィラ様を守るために戦っているのです!」
涙が滲む。
「そのフィラ様が飛び出してどうするのですか!」
フィラは言葉を失った。
分かっている。
ツェリが心配してくれていることも。
愛してくれていることも。
だからこそ辛かった。
それでも。
行かなければならない。
助けなければならない。
フィラは悲しそうに微笑んだ。
「ツェリ」
ツェリの瞳が揺れる。
嫌な予感がした。
「ごめんね」
次の瞬間。
フィラの身体が光に包まれる。
「フィラ様!」
ツェリが手を伸ばす。
だが届かない。
光は弾けるように消えた。
部屋には誰もいない。
「フィラ様ぁぁぁぁ!!」
ツェリの悲鳴が響いた。
◇◇◇
会談場では今も戦いが続いていた。
ヴァルドが魔獣を斬り伏せる。
オズワルドが魔術を放つ。
サイラスが王国軍へ指示を飛ばす。
それでも魔獣は減らない。
次から次へと現れる。
「おかしい……」
オズワルドが眉をひそめる。
本来ならばあり得ない数だった。
一方で。
ラルフとアーバインは避難誘導に奔走していた。
「こちらへ来い!」
ラルフが人間の子供を抱き上げる。
泣きじゃくる母親へ声を掛ける。
「安全な場所まで連れて行く」
魔族も人間も関係ない。
守るべき者を守るだけだ。
アーバインも負傷者達を誘導していた。
「慌てずこちらへ」
穏やかな笑顔。
だが有無を言わせぬ迫力がある。
人々は必死に従った。
その時だった。
空気が変わる。
眩い光が空へ駆け上がった。
ヴァルドが振り返る。
「……フィラ?」
そこに立っていた。
白銀の髪を揺らし。
静かに前を見つめる少女が。
「フィラ!」
オズワルドが顔色を変える。
ヴァルドも駆け出した。
サイラスも目を見開く。
だが。
誰より早く。
フィラが動く。
「皆様、お下がりください」
穏やかな声。
そして。
空色の瞳が金色へ変わった。
眩い光が溢れ出す。
◇◇◇
光は空へ広がった。
どこまでも。
会談場全体を覆うほど巨大に。
結界石はない。
それなのに。
新たな結界が生まれる。
誰も見たことのない規模だった。
そして。
魔獣達が悲鳴を上げる。
光に触れた瞬間。
その身体が塵となって消えていく。
一体。
また一体。
次々と。
やがて。
最後の一体が消滅した。
静寂が訪れる。
誰も言葉を発せなかった。
神々しい光の中心に立つフィラを見つめる。
誰かが呟く。
「聖女だ……」
また別の場所から声が上がる。
「本物の聖女だ……」
その声は広がっていく。
王国側も。
帝国側も。
皆が理解した。
真の聖女は誰なのかを。
◇◇◇
だが。
フィラ自身はそんな声に気付いていなかった。
僅かによろめく。
咄嗟にヴァルドが支える。
「フィラ」
「大丈夫です」
困ったように微笑む。
そして。
最初に見たのは人々だった。
「皆様、大丈夫ですか?」
優しい声。
「お怪我をされた方はこちらへ」
「治癒しますから」
そう言って傷ついた兵士へ手を伸ばす。
柔らかな光が傷を癒していく。
また一人。
また一人。
フィラは治療を続ける。
称賛の声など聞こえていないかのように。
ただ助けたい。
それだけだった。
人々はその姿を見つめる。
そして理解する。
聖女だったから愛されたのではない。
聖女だったから守られたのでもない。
この少女だから。
皆が守ろうとしたのだと。
静まり返った会談場で。
誰かがぽつりと呟いた。
「では……ミユ様は……?」
その問いに答えられる者は誰もいなかった。
第78話をお読みいただきありがとうございました。
ようやくフィラが皆の前で力を使う場面を書くことができました。
今までフィラは自分から「聖女です」と名乗ることもなく、誤解されても言い返さずに過ごしてきました。
だからこそ今回の出来事で、少しずつ周囲の見方も変わっていくことになります。
そして個人的には、フィラを必死に止めようとしたツェリを書いていてとても楽しかったです。
きっと彼女は今頃かなり怒っています(笑)
次回からは会談場の混乱が収まった後、それぞれの思惑や反応も描いていければと思っています。
少しずつ物語も大きく動き始めましたので、引き続き見守っていただけると嬉しいです。
ブックマークや評価、感想をくださる皆様、本当にありがとうございます。
とても励みになっています。
また次回もよろしくお願いいたします。




