「偽物の居場所」
【前書き】
いつもお読みいただきありがとうございます。
最近少し体調を崩し気味で、なかなか本調子とはいきませんが、無理のない範囲で更新を続けていきたいと思います。
季節の変わり目でもありますので、皆様もどうぞご自愛ください。
美優は満足していた。
鏡に映る少女を見る。
銀色の髪。
空色の瞳。
白い肌。
整った顔立ち。
どう見てもフィラだった。
「ふふ…完璧…」
思わず笑みが零れる。
これでいい。
これで全部手に入る。
ヴァルドも。
オズワルドも。
フィラが持っていたもの全部。
自分のものになる。
美優は足取りも軽く魔族側の宿泊棟へ向かった。
◇◇◇
宿泊棟の前で。
オズワルドは僅かに眉をひそめた。
フィラがまだ戻っていない。
第二王子と庭を散策しているとは聞いている。
だが少し遅い。
そう思った時だった。
「お父様!」
聞き慣れた声。
銀色の少女が駆け寄ってくる。
そして。
迷うことなく抱きついた。
「お父様……体が辛いです……」
甘えるような声。
オズワルドは少女を見下ろした。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
紅い瞳が冷たく細められる。
だが次の瞬間には消える。
大きな手がそっと頬に触れた。
「ああ」
低い声。
「顔色が悪いな」
優しい言葉。
だが笑みはない。
抱き上げることも。
頭を撫でることもない。
ただ頬に触れただけ。
「部屋で休みなさい」
「はい、お父様」
美優は満足そうに笑った。
やはり騙せている。
そう思った。
◇◇◇
少し離れた場所。
ツェリが固まっていた。
隣ではラルフも黙っている。
二人は視線を交わした。
言葉はない。
だが認識は同じだった。
誰だ。
あれはフィラではない。
オズワルドが僅かに視線を向ける。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
ツェリとラルフへ。
そして何事もなかったように視線を戻した。
二人は理解する。
監視しろ。
逃がすな。
そして。
本物を探せ。
◇◇◇
「こちらです」
ツェリは微笑んだ。
だが名前は呼ばない。
美優は気づかない。
むしろ安心していた。
やはり騙せている。
誰も疑っていない。
そう思い込んでいた。
部屋へ案内される。
扉が開く。
その瞬間。
美優は目を見開いた。
柔らかな色合いの家具。
綺麗な花。
可愛らしい小物。
丁寧に整えられた部屋。
誰かに大切にされていることが一目でわかる空間だった。
「……何よ」
ぽつりと呟く。
「何なのよ、これ」
怒りが込み上げる。
フィラへの。
いや。
美桜への怒り。
「お姉ちゃんのくせに」
昔からそうだ。
美桜は自分を助けるためにいる。
自分に譲るためにいる。
自分を幸せにするためにいる。
なのに。
何故。
美桜の方が愛されているのか。
何故。
美桜の方が大切にされているのか。
「生意気」
ぎり、と唇を噛む。
だが次の瞬間には笑った。
「でももう私のものだものね」
そう。
フィラのものは全部自分のものになる。
ヴァルドも。
オズワルドも。
皆の愛情も。
全部。
◇◇◇
その頃。
オズワルドの部屋。
「フィラではない」
低い声だった。
ラルフは静かに頷く。
「私もそう思います」
迷いはない。
あれはフィラではない。
オズワルドの拳が僅かに握られる。
だが怒りは押し殺した。
「フィラはまだ帰っていない」
「はい」
「ならばあれは何者だ」
沈黙。
答えはない。
だが一つだけ確かなことがある。
本物のフィラがいない。
「探します」
ラルフが言う。
オズワルドは頷いた。
「頼む」
短い言葉。
だが重い。
フィラを探せ。
必ず見つけ出せ。
その意味が込められていた。
ラルフは一礼し部屋を出る。
本物のフィラを探すために。
◇◇◇
一方その頃。
どこまでも続く闇の中。
少女はゆっくりと瞼を開いた。
身体が重い。
頭が痛い。
何も見えない。
何も聞こえない。
「……ここは……?」
掠れた声が闇へ溶ける。
そして。
どこからともなく。
笑うような気配がした。
【後書き】
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ようやく次の展開へ向けて動き始めました。
書いている本人も「騙せていると思っているのは本人だけ」という状況がなかなか楽しかったです(笑)
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。
ブックマーク、評価、感想などいつも励みになっています。
本当にありがとうございます。




