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「帰ってきたお姉ちゃん(後編)」

いつも読んでいただきありがとうございます。


最近は投稿時間が本当に安定せず申し訳ありません。


仕事の都合や日常の用事で時間が前後してしまうこともありますが、それでも読みに来てくださる皆様には感謝しかありません。


ブックマークや評価、感想も毎日の励みになっています。


これからもできる限り毎日更新を続けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。


それでは今回のお話をお楽しみください。

「お姉ちゃんのくせに」


 その言葉に。


 フィラの身体がびくりと震えた。


 美優は不機嫌そうに眉をひそめる。


「何で逃げるの?」


 理解できない。


 そんな顔だった。


「せっかく会えたのに」


 一歩。


 また一歩。


 フィラは後ずさる。


 逃げたい。


 今すぐ。


 お父様のところへ。


 ヴァルドのところへ。


 ツェリのところへ。


 帰りたい。


 なのに。


 足が動かない。


 美桜だった頃の記憶が身体を縛り付ける。


「お姉ちゃん」


 美優は笑った。


「また私を助けてよ」


 当たり前のように。


 当然のように。


「ヴァルド様も私に譲って」


 フィラの瞳が揺れる。


「お父様もそう」


「ルシアン様も」


「フィラばっかりずるいもの」


 ずるい。


 その言葉に胸が痛む。


 昔もそうだった。


 美優はいつもそう言った。


 そして最後には。


 美桜が譲った。


「違う……」


 フィラは首を振る。


「違わないよ」


 美優は即座に否定した。


「だってお姉ちゃんでしょう?」


 また一歩。


 フィラは下がる。


「私は……」


「お姉ちゃんなんだから」


 その言葉が怖い。


 苦しい。


 胸が締め付けられる。


 もう嫌だ。


 またあの日々に戻るなんて。


 絶対に嫌だ。


「来ないで!」


 フィラは叫んだ。


 美優の顔が歪む。


「何なの?」


「私は悪くないじゃない!」


 声が大きくなる。


「お姉ちゃんが勝手にいなくなったんでしょう!?」


 フィラの瞳が見開かれた。


「どれだけ困ったと思ってるの!?」


 美優は怒っていた。


 本気で。


「お母さんも変わった!」


「みんな変わった!」


「異世界に来ても思い通りにならない!」


「なのに!」


 美優はフィラを指差した。


「お姉ちゃんだけ幸せそうで!」


 フィラは震える。


「だから!」


 美優は手を伸ばした。


「今度こそ助けてよ!」


 その瞬間。


 フィラは反射的に後ろへ下がった。


 足元の石が崩れる。


「あ――」


 身体が傾いた。


 美優が目を見開く。


 フィラの手が空を掴む。


 届かない。


 支えられない。


 そのまま。


 身体は崖の下へと落ちていった。


◇◇◇


 激しい衝撃。


 全身を痛みが駆け抜ける。


 息ができない。


 視界が霞む。


 温かいものが頬を伝った。


 血だ。


 遠くで誰かが何かを言っている。


 けれど聞こえない。


 身体が重い。


 動けない。


 意識が沈んでいく。


◇◇◇


 崖の上。


 美優はしばらく呆然と下を見ていた。


 岩場に倒れた銀髪の少女。


 動かない。


「あーあ……」


 ぽつりと呟く。


「せっかく見つけたのに」


 少しだけ残念だった。


 けれど。


 仕方ない。


 逃げたお姉ちゃんが悪い。


 そう思った。


「でも……」


 美優は考える。


「これでヴァルド様は――」


 その時だった。


 足元から黒い影が広がった。


 ぞわりと空気が震える。


「え?」


 美優が振り返る。


 誰もいない。


 だが。


 耳元で声が響いた。


『愚かな娘だ』


 低く。


 甘い声。


『お前は何もわかっていない』


「誰?」


 美優は眉をひそめる。


『このままでは全てを失う』


 声は続く。


『オズワルド』


『ヴァルド』


『全て』


 美優の顔が曇った。


『お前がフィラを傷つけたと知れば』


『奴らはお前を許さない』


「そんな……」


『許さない』


 断言。


『奴らはフィラに夢中だからな』


 美優の瞳に怒りが宿る。


 その言葉は気に入らない。


 面白くない。


 だが。


 声は優しかった。


『だが方法はある』


「方法?」


 黒い闇が揺れる。


『お前がフィラになればいい』


 美優は息を呑んだ。


『そうすれば』


『フィラが手に入れたものは全てお前のものだ』


 甘い誘惑。


 夢のような言葉。


『大公の娘』


『ヴァルドの想い』


『皆の愛情』


『全て』


 美優の瞳が輝く。


『欲しいだろう?』


 欲しい。


 当然だ。


『ならば受け取れ』


 闇が美優を包み込む。


 冷たくない。


 怖くもない。


 むしろ心地良かった。


 美優は微笑む。


「うん」


 闇が弾けた。


 風が吹く。


 そして。


 そこに立っていたのは。


 銀色の髪。


 空色の瞳。


 フィラと同じ姿をした少女だった。


 少女は自分の髪を見つめる。


 そして。


 満足そうに笑った。


「これで」


 空色の瞳が細められる。


「みんな私のものね」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


今回はかなり大きく物語が動く回となりました。


フィラにとっても、美優にとっても、そしてこれから先の物語にとっても大きな転機になるお話だったと思います。


書いている作者自身も、何度も手を止めながら考えた回でした。


ここから先はフィラの試練だけでなく、周囲の人達の想いも少しずつ描いていけたらと思っています。


そして何より、フィラを大切に思う人達がどう動くのか。


そこも見守っていただけたら嬉しいです。


いつも応援ありがとうございます。


皆様の感想やブックマーク、評価が本当に励みになっています。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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