「忍び寄る影(後編)」
【前書き】
いつも読んでいただきありがとうございます。
前回の前書きで投稿が遅れてしまったことをお詫びしたばかりなのに、また遅くなってしまいました。
本当に申し訳ありません。
最近は仕事や用事で思うように時間が取れない日も多いのですが、それでも毎日投稿だけは欠かさないように頑張っています。
更新時間が前後してしまうこともあるかもしれませんが、これからもお付き合いいただけたら嬉しいです。
それでは続きをお楽しみください。
フィラは耐えていた。
胸が苦しい。
呼吸が浅い。
それでも。
オズワルドを否定されても。
ヴァルドを奪うと言われても。
耐えていた。
お父様はそんな方じゃない。
ヴァルドは物じゃない。
そう心の中で繰り返す。
だが。
美優は止まらなかった。
「いいわよね」
くすりと笑う。
「みんなあなたに優しくて」
「オズワルド様も」
「ヴァルド様も」
「ルシアン様も」
その言葉にフィラは俯く。
美優は続けた。
「私は頑張ってるのに」
「私の方が皆の役に立ってるのに」
「どうしてあなたなのかしら」
その顔は不満げだった。
まるで理不尽な目に遭っている被害者のように。
「昔からそう」
ぽつりと呟く。
「お姉ちゃんの時もそうだった」
フィラの肩が揺れた。
「私ばっかり悪者」
美優はため息を吐く。
「私は何もしてないのに」
――違う。
「お姉ちゃんはいつも可哀想そうな顔をして」
――違う。
「周りは私が悪いみたいに言うの」
――違う。
「私だって辛かったのに」
――違う。
「なのに、お姉ちゃんは何もわかってくれなかった」
――違う。
胸の奥から何かが込み上げる。
苦しい。
痛い。
悲しい。
悔しい。
ずっと。
ずっと我慢していた。
「本当に迷惑だった」
美優は吐き捨てるように言った。
「お姉ちゃんって」
その瞬間だった。
「違う!」
声が響いた。
美優が目を見開く。
フィラ自身も驚いていた。
気づけば叫んでいた。
止められなかった。
「どうして……!」
涙が滲む。
「どうしてそんなこと言うの……!」
「え?」
美優が呆然とする。
フィラの様子がおかしい。
いつものフィラじゃない。
もっと別の誰か。
そんな気がした。
「どうしてお母さんの愛も……!」
震える声。
「どうして……」
涙が零れ落ちる。
「正樹くんの優しさも……!」
美優の表情が固まった。
フィラは止まらない。
いや。
フィラではない。
美桜だった。
ずっと押し込めていた心が悲鳴を上げている。
「全部あなたが持っていったじゃない!」
叫ぶ。
震える。
苦しい。
「お母さんも!」
「正樹くんも!」
「私が大切だったもの全部……!」
涙が次々と溢れる。
「もう奪わないで……!」
かすれる声。
「お願いだから……」
美優は動けなかった。
頭が真っ白になる。
今。
何と言った?
正樹?
お母さん?
全部奪った?
その言葉。
その泣き方。
その悲しそうな顔。
見覚えがあった。
いや。
見覚えなんてものじゃない。
忘れるはずがない。
「……え」
声が震える。
フィラがはっと我に返った。
しまった。
全身から血の気が引く。
言ってしまった。
言うつもりなんてなかった。
知られるつもりもなかった。
なのに。
感情のまま叫んでしまった。
美優は一歩後ろへ下がる。
信じられないものを見るような目だった。
「なんで……」
震える声。
「なんで、その名前を知ってるの?」
フィラの瞳が揺れる。
答えられない。
答えられるはずがない。
沈黙だけが落ちた。
風が吹く。
花びらが舞う。
だが二人には何も聞こえなかった。
美優はフィラを見つめる。
信じたくない。
そんなはずがない。
でも。
あの言葉は。
あの叫びは。
美桜しか知らないはずだった。
「まさか……」
ぽつりと漏れた声。
フィラは唇を噛む。
何も言えない。
何も。
言えなかった。
そして。
美優の瞳がゆっくりと見開かれていく。
まるで恐ろしい答えに辿り着いてしまったかのように――。
「お姉ちゃん」
【後書き】
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回はフィラにとって、とても苦しい回になりました。
今まで少しずつ前を向いて歩いてきたフィラですが、人の心に残る傷はそう簡単に消えるものではありません。
特に幼い頃から積み重なったものは、どれだけ時間が経ってもふとした瞬間に顔を出してしまうことがあります。
今回のお話は、そんなフィラの心の奥に残っていた傷が表に出てしまった回でもありました。
そして物語としても、大きな転機になったのではないかと思います。
ここから先はフィラだけでなく、美優にとっても大きく状況が変わっていく予定です。
続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです。
いつも感想やブックマーク、評価をありがとうございます。
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これからもどうぞよろしくお願いいたします。




