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「忍び寄る影(前編)」

【前書き】


いつも読んでいただきありがとうございます。


前回の後書きで「気を引き締めて頑張ります」と書いたばかりなのに、昨日は投稿がかなり遅くなってしまいました。


更新を楽しみに待っていてくださった皆様、本当に申し訳ありません。


仕事や日常の用事で思うように時間が取れない日もありますが、できる限り更新を続けていきたいと思っています。


これからも無理のない範囲で頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。


それでは今回のお話をお楽しみいただければ幸いです。

 中央議会が始まって数日。


 フィラは以前よりも少しだけ穏やかな日々を過ごしていた。


 もちろん美優への恐怖が消えたわけではない。


 それでも。


 ツェリがいてくれる。


 お父様やヴァルドが信じてくれる。


 そう思うだけで少し違った。


 だから。


「フィラお姉ちゃん!」


 元気な声に振り返った時も、自然と笑顔になれた。


「おはようございます、ルシアン殿下」


「おはよう!」


 ルシアンは嬉しそうに駆け寄ってくる。


 その後ろにはいつもの侍女達。


 変わらない光景だった。


「今日ね!」


 ルシアンは秘密を打ち明けるように声を潜めた。


「美優いないんだ!」


「え?」


 フィラは目を瞬く。


「用事があるんだって!」


 ルシアンは残念そうに肩を落とした。


「だから今日は僕と遊んで!」


 その言葉に。


 フィラは思わずほっと息を吐いてしまった。


 美優がいない。


 それだけで胸の重石が少し軽くなる。


 そんなフィラの様子に気づいた者はいなかった。


 ルシアンは無邪気な笑顔のまま。


 周囲の侍女達も同じだ。


「今日は大丈夫そうですね」


 ツェリも微笑む。


 フィラも小さく頷いた。


 美優がいないなら。


 ルシアンと少し遊ぶくらいなら。


 そう思った。


◇◇◇


 午後。


 ルシアンに案内されてやってきたのは中央議会場から少し離れた中庭だった。


 色とりどりの花が咲き誇り、噴水の音が心地よい。


「綺麗ですね」


「でしょ!」


 ルシアンは得意げだ。


「僕のお気に入り!」


 フィラは微笑む。


 こうしていると、本当に普通の子供だ。


 可愛らしい王子様。


 それ以上には見えない。


「フィラお姉ちゃん!」


「はい?」


「ここで待ってて!」


 ルシアンが突然立ち上がる。


「すぐ戻る!」


「ルシアン殿下?」


 呼び止める間もなく、小さな背中は走り去ってしまった。


 侍女達も慌てて後を追う。


 残されたのはフィラ一人。


「……?」


 少し不思議だった。


 けれど子供だから。


 そう思った。


 数分くらいなら待とう。


 ベンチに腰掛けたまま花壇を眺める。


 風が吹く。


 花びらが舞う。


 静かだった。


 静かすぎた。


 不意に。


「やっぱり来たのね」


 声が響く。


 フィラの身体が強張った。


 聞き間違えるはずがない。


 ゆっくり振り返る。


 そこにいたのは。


「……美優さん」


 美優だった。


 優雅な笑みを浮かべながら立っている。


 フィラの顔から血の気が引いた。


「どうして……」


「どうしてかしら?」


 美優は肩を竦める。


 その姿はいつもの聖女。


 誰が見ても美しい。


 誰が見ても優しそうだ。


 だが。


 フィラだけは知っている。


 その笑顔の裏側を。


「ルシアン殿下は……?」


「知らないわ」


 美優はあっさり答えた。


「子供なんだからどこか行ったんじゃない?」


 その言葉に。


 フィラの胸がざわついた。


 帰りたい。


 すぐに。


 でも。


 足が動かなかった。


 昔と同じ。


 美優を前にすると身体が強張る。


 呼吸が浅くなる。


「そんなに怯えなくてもいいじゃない」


 美優はくすりと笑った。


「相変わらずね」


 その言葉にフィラの肩が震える。


「……」


「本当に変わらない」


 美優は近づいてくる。


「困った顔をして黙るところとか」


「何も言い返せないところとか」


「昔のお姉ちゃんみたい」


 フィラの瞳が揺れた。


 美優は気づかない。


 ただ思ったことを口にしただけ。


 だが。


 フィラにとっては違った。


 心臓が嫌な音を立てる。


「でも不思議よね」


 美優はため息を吐いた。


「なんでヴァルド様はあなたなんだろう」


 フィラが顔を上げる。


「え……?」


「だってそうでしょう?」


 美優は当然のように言う。


「強くて」


「かっこよくて」


「将来は皇帝になるかもしれない方よ?」


 微笑む。


 まるで夢を語る少女のように。


「私の方が似合うと思わない?」


 フィラは何も言えなかった。


「それに」


 美優の視線が細くなる。


「オズワルド様だって」


「本当にあなたの父親なの?」


 フィラの瞳が見開かれる。


「髪の色以外全然似ていないじゃない」


 その瞬間。


 フィラの中で何かが揺れた。


 怒り。


 悲しみ。


 恐怖。


 様々な感情が混ざり合う。


 けれど。


 まだ耐えた。


 まだ。


 耐えていた。

【後書き】


ここまで読んでいただきありがとうございました。


今回は次回への前振りが中心のお話となりました。


ルシアンの無邪気な誘いに安心してしまったフィラですが、思わぬ形で美優と二人きりになってしまいました。


フィラにとって美優は、今もなお恐怖の対象です。


それでも以前のフィラならすぐに逃げ出していたかもしれませんが、今はオズワルドやヴァルド、ツェリ達に支えられながら少しずつ前を向いています。


ですが、過去の傷はそう簡単には消えてくれません。


次回はいよいよ二人の因縁が大きく動き出します。


作者自身もかなり気合いを入れて書いている場面になりますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。


いつも感想やブックマーク、本当にありがとうございます。


皆様の応援が執筆の励みになっています。

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