「笑顔の攻防」
【前書き】
いつも読んでいただきありがとうございます。
昨日は何とか時間通りに投稿することができました。
最近は仕事や家のことなどでバタバタしてしまうこともありますが、なるべく更新を続けられるよう気を引き締めて頑張りたいと思います。
無理のない範囲でではありますが、これからもお付き合いいただけたら嬉しいです。
それでは今回のお話も楽しんでいただければ幸いです。
数日後。
中央議会場へ向かう途中。
「フィラお姉ちゃん!」
元気な声と共にルシアンが駆け寄ってきた。
その後ろでは侍女達が慌てて追いかけている。
「ルシアン殿下」
フィラは微笑む。
だが、その笑顔は少しだけ硬かった。
前回のお茶会を思い出してしまうからだ。
そんなフィラの様子を見て、ヴァルドは僅かに眉を寄せた。
オズワルドも気づいている。
だが何も言わない。
フィラが隠さず話してくれたからこそ、今は無理に触れなかった。
「今日もお茶会しよう!」
ルシアンは満面の笑みだ。
「美優とフィラお姉ちゃんと僕!」
フィラの肩がぴくりと揺れる。
その瞬間。
「ルシアン殿下」
穏やかな声が割って入った。
サイラスだった。
「大公女様は日夜結界維持のお役目を果たしておられます」
「うん?」
「本日も少々お顔の色が優れません」
サイラスは微笑む。
「ですので侍女殿がお傍にいた方が、大公閣下も安心されるでしょう」
ルシアンは不満そうに頬を膨らませた。
「えー」
「ルシアン」
レオニスが苦笑する。
「大公女殿も大変なのだ」
仕方ない。
そう言われては駄々もこねにくい。
「じゃあ……」
ルシアンは渋々頷いた。
「侍女も一緒でいいよ」
「ありがとうございます」
ツェリが優雅に礼をした。
その瞬間。
オズワルドとヴァルドの空気が少しだけ和らいだ。
一方。
美優だけは笑顔のまま内心で舌打ちしていた。
⸻
午後。
庭園で開かれた小さなお茶会。
参加者は前回とほぼ同じ。
違うのはツェリがいることだった。
美優は慎重に様子を窺う。
若い侍女。
柔らかそうな雰囲気。
少し話せば味方にできるかもしれない。
そう思った。
最初は。
「フィラ様は本当にお優しいですわね」
美優が微笑む。
「困っている方を放っておけないのでしょう」
フィラの指先が僅かに強張った。
だが。
「はい!」
元気よく答えたのはツェリだった。
「フィラ様は本当にお優しい方です」
にこり。
「困っている方を見かけると放っておけませんし、大公領の皆様からも大変慕われております」
誇らしげですらある。
「ツェリ……」
フィラの頬が赤くなる。
「事実でございます」
即答だった。
すると。
「美優もだよ!」
ルシアンが嬉しそうに身を乗り出した。
「美優もみんなに優しいんだ!」
「ルシアン様」
美優は照れたように笑う。
悪い気はしない。
むしろ嬉しい。
だが。
「それは素敵ですね」
ツェリが微笑む。
「フィラ様もとてもお優しいですよ」
戻された。
美優の笑顔が僅かに引きつる。
⸻
「でもフィラ様は、人前は少し苦手な方のようですし」
今度は別の方向から攻める。
「まあ」
ツェリが目を丸くした。
「フィラ様がですか?」
「ええ」
美優はにこりと笑う。
すると。
「私はそのように感じたことがございませんでした」
ツェリは首を傾げた。
「フィラ様は誰よりも周囲を気にかけることのできる方です」
「大公領でも帝都でも人前に出ていらっしゃいましたし」
「とても人気者でいらっしゃるのですよ」
フィラの顔が一気に赤くなる。
「ツェリ……」
「事実でございます」
追撃。
「そんなことありません……」
フィラは俯いた。
耳まで真っ赤だ。
すると。
「美優も人気者だよ!」
ルシアンが元気よく言った。
「お城のみんな美優のこと好きなんだ!」
得意げである。
まるで自分のことのように。
「まあ」
ツェリは嬉しそうに微笑む。
「それは素敵ですね」
そして。
「フィラ様も皆様から慕われております」
また戻る。
⸻
その後も同じだった。
「フィラ様は――」
「美優はね!」
「フィラ様は――」
「美優はすごいんだよ!」
「フィラ様は――」
「美優も優しいんだ!」
いつの間にか。
お茶会は。
フィラ自慢と美優自慢の応酬になっていた。
本人達を置き去りにして。
「も、もうやめてください……」
フィラはとうとう顔を覆った。
真っ赤である。
恥ずかしくて消えてしまいたい。
「なんで?」
ルシアンが不思議そうに首を傾げる。
「事実ですのに」
ツェリが笑顔で言った。
全く悪気がない。
だから余計に止まらない。
⸻
お茶会が終わる頃には。
フィラはぐったりしていた。
美優に傷つけられたからではない。
褒められすぎたからだ。
ルシアンは満足そうに手を振る。
「また遊ぼうね!」
「はい」
フィラは小さく笑った。
その笑顔を見てルシアンも嬉しそうに笑う。
⸻
そして。
自室へ戻った美優は。
扉が閉まった瞬間。
笑顔を消した。
「何なのよ……」
ぽつり。
そして。
「何なのよ、あの羊!」
机を叩く。
フィラを追い込めなかった。
二人きりにもなれなかった。
味方も増やせなかった。
フィラを下げようとしたのに。
気づけば。
あの羊侍女はフィラばかり褒めていた。
しかも全部笑顔で。
嫌味もなく。
反論とも思わせず。
ただただフィラを持ち上げる。
「それにルシアン様まで……!」
本来なら自分だけを褒めてくれるはずだった。
確かに褒めてくれた。
だが。
途中から。
フィラの話まで聞いていた。
「もう!」
思わず声を荒げる。
聖女らしからぬ顔だった。
「何なのよ、あの二人!」
誰もいない部屋で。
美優の苛立った声だけが響いていた。
【後書き】
今回は少し賑やかなお茶会回でした。
美優としては色々と思惑があったのですが、ツェリとルシアンのおかげで思った方向には進みませんでしたね。
本人達はまったくそんなつもりはないのですが、気が付けばフィラ自慢と美優自慢になっていました。
そして一番被害を受けたのは、間違いなく褒められ続けたフィラだと思います。
フィラは自分が褒められることにあまり慣れていないので、きっとあの場から逃げ出したかったことでしょう。
個人的には、フィラを守ろうとしているわけではなく、本気でフィラの良いところを語っているツェリがお気に入りです。
そしてルシアンも大好きな美優のことを一生懸命話しているだけなのですが、それがまた微笑ましくて書いていて楽しい場面でした。
次回はまた少しずつ物語が動き出します。
引き続きお付き合いいただけましたら嬉しいです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。




