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「優しい王子のお茶会」

【前書き】


いつも読んでいただきありがとうございます。


昨日は少しうとうとしてしまい、気が付いたら投稿時間を過ぎていました。


楽しみに待ってくださっていた方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。


最近は暑さや湿度のせいか、気付かないうちに疲れが溜まっている気がします。


皆様もどうかご無理なさらず、お身体を大切にしてくださいね。


それでは今回のお話も楽しんでいただければ幸いです。

「フィラお姉ちゃん!」


 中央議会場へ向かう途中。


 元気な声と共にルシアンが駆け寄ってきた。


 フィラは思わず足を止める。


「おはようございます、ルシアン殿下」


「おはよう!」


 満面の笑み。


 その後ろには困った顔の侍女達がいる。


 今日も元気そうだ。


 そう思った瞬間。


「今日ね、お茶会するんだ!」


「お茶会?」


「うん!」


 ルシアンは嬉しそうに頷いた。


「フィラお姉ちゃんと美優を呼んだの!」


 フィラは目を瞬く。


 美優。


 その名前を聞いた途端。


 胸の奥が小さく痛んだ。


「来てくれるよね?」


 期待に満ちた瞳。


 断れなかった。


「……はい」


 ルシアンはぱっと顔を輝かせた。


「やった!」


◇◇◇


 その日の午後。


 小さなお茶会が開かれた。


 主催は第二王子ルシアン。


 参加者は三人だけ。


 ルシアン。


 美優。


 そしてフィラ。


 最初は穏やかな時間だった。


 ルシアンは楽しそうに話し。


 美優は優しく相槌を打つ。


 フィラも笑顔を作っていた。


 だが。


「お花見てくる!」


 突然ルシアンが立ち上がった。


「すぐ戻るから!」


 侍女達を連れて庭へ駆けていく。


 残されたのは。


 二人。


 フィラと美優だけだった。


 空気が変わる。


 フィラの身体が強張った。


 美優は紅茶を一口飲む。


 そして。


 ふっと笑った。


「随分と頑張っていますね」


 優しい声だった。


「大公女様」


 フィラは返事をしない。


「議会にも出席されるようになりましたし」


 美優は微笑む。


「私にはできません」


「怖くて部屋に閉じこもっていた方とは思えませんもの」


 フィラの肩が震えた。


 美優は続ける。


「皆さん騙されていますね」


「え……?」


「大公女様がどんな方か知らないから」


 楽しそうだった。


「優しいお父様とヴァルド様に守られて」


「甘やかされて」


「本当に幸せそう」


 フィラの顔色が少しずつ失われていく。


「でも」


 美優は笑う。


「前みたいに部屋に閉じこもっていた方がお似合いでしたよ?」


 心臓が大きく跳ねた。


 前世。


 閉じこもることすら許されなかった日々。


 責められ続けた記憶。


 胸が苦しくなる。


「……」


 声が出ない。


 そんなフィラを見て。


 美優は満足そうに微笑んだ。


「まあ」


「今の方が利用価値はありますけどね」


「結界師としても便利ですし」


 その時。


「フィラお姉ちゃん!」


 元気な声が響いた。


 ルシアンだ。


 途端に。


 美優の笑顔が変わる。


「おかえりなさい、ルシアン様」


 聖女の顔。


 何事もなかったような声音。


 フィラは俯いた。


◇◇◇


 その夜。


 大公家の宿泊棟。


 夕食後。


 オズワルドはフィラを見つめていた。


 顔色が悪い。


 笑顔も少ない。


 ヴァルドも気づいている。


「フィラ」


 オズワルドが呼ぶ。


「何があった」


 フィラの肩がびくりと震えた。


「……」


「フィラ」


 低く優しい声。


 逃がさない。


 だが責めない。


 しばらくして。


 フィラは小さく口を開いた。


「……美優さんと」


「二人きりになってしまって」


 ヴァルドの表情が険しくなる。


「ルシアン殿下がお花を見に行くって……」


「たまたまだと思うんです」


 そう言ってから。


 フィラは俯いた。


「その時に……」


 手が震えていた。


「大公女様は変わりませんねって」


「皆騙されているだけだって」


「前みたいに部屋に閉じこもっていた方がお似合いだって……」


 ぽつり。


 ぽつり。


 言葉が落ちる。


 オズワルドの瞳が冷えた。


 ヴァルドは拳を握り締める。


「でも……」


 フィラは弱々しく続ける。


「誰も聞いていませんでしたし……」


「私の思い違いかもしれません」


「違う」


 即座だった。


 オズワルドが言う。


「お前がそこまで怯える理由になるなら十分だ」


 フィラが顔を上げる。


「だが」


 オズワルドの声は低い。


「もうあの女には近づくな」


「そうだ」


 ヴァルドも頷く。


「次から断ればいい」


 フィラは困ったように視線を落とした。


「でも……」


「ルシアン殿下は悪くないんです」


 二人が沈黙する。


 それが一番厄介だった。


 幼い王子は何も悪くない。


 ただフィラに懐いているだけ。


 だからこそ断れない。


 フィラは唇を噛む。


 怖い。


 会いたくない。


 それでも。


 ルシアンの笑顔を思い出すと。


 冷たく突き放すこともできなかった。


 そんな娘を見て。


 オズワルドは静かに息を吐いた。


「お前は優しすぎる」


 その言葉に。


 フィラは少しだけ困ったように笑った。

【後書き】


今回はルシアンのお茶会回でした。


ルシアンは本当に悪気なくフィラに懐いているので、フィラも強く断ることができません。


だからこそ美優との距離も近くなってしまい、フィラにとってはなかなか厳しい状況になっています。


それでも今回のフィラは、一人で抱え込まずにオズワルドやヴァルドへ話すことができました。


美桜だった頃なら、きっと最後まで一人で耐えようとしていたと思います。


少しずつですが、フィラはちゃんと前へ進んでいるのだと作者としても感じています。


そしてオズワルドとヴァルドは相変わらず過保護です。


ですがフィラが大切だからこそ、二人も簡単には引き下がれません。


これから少しずつ状況が動いていきますので、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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